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世銀・IMFの欺瞞的な民営化路線の破綻、先住民大統領の誕生・ボリビア

グローバリゼーションの名の下に、生存の必須条件である「水」そのものを略奪の対象とするビジネスが行われている。いわゆる「ウォーター・ウォーズ」である。

「ウォーター・ウォーズ」 はじめに から
1995年、世界銀行総裁のイスマイル・セラゲルディンは、水の未来について、大げさな喩えで予言した。
「今世紀の戦争が石油を巡って戦われたものであったとするなら、新世紀の戦争は水を巡って戦われることになるだろう。」
水戦争はグローバルな戦争である。各地の多様な文化とエコシステムは、水が環境にとって必要な物だとする全地球的な倫理観を共有し、企業文化による民営化と欲望と水の共同使用権の取り込みに対して対決している。この環境紛争とパラダイム戦争の一方の側に、生命の維持に不可欠な水を求める数百万種の生物と数億人の人類が存在する。他方には、スエズ・リヨネーズ・デソー、ヴィヴェンディ・エンバイロメント、べクテルが支配し、世界銀行、WTO(世界貿易機関)、IMF(国際通貨基金)、G−7(先進7ヵ国)諸国の援助を受けた一握りのグローバル企業が存在する。
ウォーター・ウォーズ−水の私有化、汚染そして利益をめぐって(ヴァンダナ・シヴァ著、神尾賢二訳、2003年3月緑風出版発行)

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世銀・IMFは、世界の途上国に、財政健全化という名の削減策と民営化という強制を迫っている。

この民営化の中には、生存基盤の重要なインフラである上水事業の民営化が含まれている。

地域の共同体や自治体により水源管理され、給水運営されている「水道事業」を、国際的な資源会社に払い下げるというものである。

この水の独占、生存基盤の独占に対する抵抗運動が生み出したのが、中南米ボリビアの先住民大統領、エボ・モラーレス大統領である。

中南米の動きに、1960年代から係わってきた太田昌国氏のニュースレターから紹介します。

ボリビア、515年目の凱旋——抵抗の最前線に立つ先住民

ボリビアにおいて、先住民族アイマラ出身のエボ・モラーレスを大統領とする新政権が、二〇〇六年一月に発足した。すでに、土地改革、天然ガス資源の国有化、水資源のコモンズ(共有財)宣言、大統領および議員歳費の半額削減など、歴代政府の政策を知る者からすれば画期的な諸施策に手をつけている。
とりわけ資源に関わる政策方針は、世界銀行の上級副総裁を務めたジョセフ・スティグリッツのような経済学者から見ても、「奪われていた資産の返還」に過ぎず....

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ボリビアを人口構成から見ると、先住民五五%、メスティーソ三二%、白人一三%となるが、経済的・政治的・社会的頂点に白人が立ち、中間層にメスティーソ、最下層に先住民が押し込められるというピラミッドを形づくっている。 (レオンロザ注:メスティーソとは、白人と先住民の混血層をいう。)
主として米国などの産業先進国のように、麻薬禍に悩む社会にあっては、例えばコカインの原料となるコカの葉栽培それ自体を罪悪視する見方が生まれやすい。
だが、アンデス先住民族からすれば、ポシェットに入れて持ち歩く乾燥コカ葉は、人と出会って腰を下して話し合うときの、大事なコミュニケーションの媒介物だ。
互いのコカ葉を交換し、何年物だと自慢し合いながら噛むのだ。疲れ、飢え、寒さ、痛みなどを少しは和らげることができる。呪術的な用い方もある。
占い事にも使われる。こうして、コカの葉は、先住民族の生活と文化に根ざした重要な植物なのだ。
それを、先進国の都合と論理で根絶やしにするというのは、身勝手だ。そこから、コカレーロス(コカ栽培農民)の権利獲得運動は広がった。来るべき大統領、エボ・モラーレスもコカレーロスのひとりであった。
この間ボリビアは、水資源と天然ガス資源をめぐって、その全的な支配を目論む多国籍企業の標的とされてきた。大きな犠牲を払いながらも結果的には成功したそれへの抵抗運動にも、先住民族の広い参加が見られた。
こうして、この間、ボリビア先住民族は歴史創造の主体としての位置を着実に固めてきたのである。
水資源の私企業化すら企図するグローバル化の動きには、現代資本主義の象徴的表現を見てとることができる。
ヨーロッパ資本主義生成の起点となった、五世紀あまり前の「大航海」と「地理上の発見」の時代に「作り出された」先住民族の末裔たちが、そのグローバル化への抵抗闘争の最前線に立っていることに、歴史の胎動を感じる。
エボ・モラーレスは大統領就任演説で、「正義と平等を求めたゲバラの夢が実現する」と語った。それは、先達の模範的な先例からも、痛ましい過誤からも、もっとも大事な教訓を選び取り、「精神のリレー」によって歴史を繋げていこうとする決意の表われだろうと私は思った。

ボリビア、515年目の凱旋——抵抗の最前線に立つ先住民 [1]
2006年3月に、メキシコ市で開かれた第4回世界水フォーラムでの、ボリビアの活動を、同じく簡単に太田氏のニュースレターから引用します。

左派のエボ・モラレス政権が成立したばかりのボリビア政府の原則的な姿勢は、閣僚会議のなかでも際立って見えたようだ。
ボリビアの都市・コチャバンバの市民は、すでに2000年段階で水道事業の私企業化を目論む多国籍企業との激しい攻防を経て、警察の弾圧により多数の犠牲者を生みながらも、私企業化を阻止した実績がある。
これらの社会運動を背景に当選したエボ・モラレスは、新たに水利省を設けた。コチャバンバの闘争の担い手でもあったアベル・ママニ水利相はメキシコ水フォーラムに出席し、WTO(世界貿易機関)のサービス協定およびあらゆる自由貿易協定から水の私企業化交渉を除外することを主張した。
NGOの「水を守る国際フォーラム」にも出席し、水利省新設の意義や世界水フォーラムの組織としての変革の必要性を強調した。
フォーラム閉幕の前日、3月21日には、アルゼンチン政府が、1993年にいったん民間企業(フランス系多国籍企業スエズ社の子会社)に譲った水道事業の権利を取り消すことを発表した。

「江戸の水運」と世界水フォーラムの間の、深き溝 [2]

チェ・ゲバラ世代には、太田氏のニュースレターは味わい深いですよ。

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