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フランスの医療事情と改革の試みを検証する

フランスの医療制度について
医療保険は社会保険方式であり、職域に応じて分立しており、各職域保険の管理機構として金庫が設置されている。民間の給与所得者を対象とする「一般制度」に最も加入者が多く、これに国民の80%が加入している。一般制度の財源は主として労使拠出の保険料であり、使用者負担が給与総額の12.8%、被用者負担が給与総額の0.75%である。
保険給付は償還払いが基本だが、入院時の場合には直接、医療機関に支払われる。償還率は医療行為により異なるが、原則、外来の場合は70%、通常の医薬品の場合は65%である。
但し、差額(自己負担分)は共済組合や相互補助組合等により支払われることが多く、これらによって支払われない部分が最終的な自己負担になる。
利用する患者の側から見た医療事情は、病気になった時、すぐに処置しなければならない時は救急外来に行けばすぐ見てもらえる。そうでないケースは全て予約がいる。通常かかりつけ医を持っているがイギリスのように必ずそこで見てもらわなければならない事はなく病院で最初から見てもらうことも出来る。医療水準は世界トップクラスとの評価あり。薬は全て医師の処方箋を薬局に行って買う。費用はいったん全て支払い、後に保険請求して還付を受ける。患者の負担額は概ね30〜50%で共済組合からの補填や高額医療費の還付もあって最終の負担割合はほぼ日本並と思われる。
リンク [1]
盲腸にかかった場合日本では入院7日で費用37万程度だが、フランスでは2日の入院で48万ほどの負担。ニューヨークの240万1日入院に比べれば安価だが、2日しか入院できず甘えさせてはくれなさそう。
リンク [2]
2002年値で、一人当たりの医療費は2,762ドルとなっている(ちなみに米5,287ドル、ドイツ2,916ドル、スウェーデン2,594ドル、英国2,231ドル、日本2,139ドル)
GDP比は9.7%(米国14.6%、ドイツ10.9%,スウェーデン9.2%英国7.7%、日本7.9%)
こうして見ると保険の加入率や患者負担額、患者から見た医療環境については米や英国に比べると全然マシでドイツと並んでかなり整備されているように思う。GDP比約10%と日本に比べ財政負担がさらに重く他国同様、医療費の削減がやはり大きな課題になっている。
続く
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改革の動向について
日本から見て参考になるような改革がフランスでは為されているのだろうか?
1993年までは抑制策として償還率の引き下げと税の創出(アルコール税、医療品広告税)や税や保険税率の引き上げを行った。しかしながら低所得者層にとっては税負担が重く消費の減退を招き、企業負担が増加、国際競争力の低下を招き財政を圧迫するという悪循環を招いた。肝心の医療費も共済組合からの補填制度もあったりして患者の側の抑制にあまり際立った効果をもたらさなかった。そして患者の側からの抑制ではなく、医療の側から医療費を抑制するという“医療費の医学的抑制”という概念が登場した。1992年に発表されたBeraud報告書では医療費の20%は無駄であり臨床検査の40%は意味がないと言っている。この報告書がフランスの医療に対する考え方に大きな影響を与えた。その上で拘束力のある医療指標(RMO)が導入された。
どういう事かというと全国医療評価開発機構により医療指標(ガイドライン)が提示され、その認証は全国医療評価認証機構が行う事になった。目的は単に医療費の抑制のみを追求するわけではなく、適切な医療が行われているかその質を審査する言う点で画期的な試みであったと思う。しかしながら、審査が当時開業医にしか適用されなかったり、そのガイドラインにより導入された94年には5億6000万フランの削減効果があったという試算もあるが、複合的な要素から中長期的な削減効果がどうであるのか不明で、実際には医療費総額は上がっており、実効性は疑問視されている。
その後1996年には医療保険支出国家目標(ONDAM)が実施された。国家予算と同様に社会保障予算として国会の議決対象となり、目標額が制定された。開業医、公立病院、私立病院、障害者などを対象とし各分野ごとに制定される。そして未達な機関に対して超過分を払い戻しさせるという制度であった。が開業医に対する一律の返還義務制定に対して違憲判決が出るなど実際には払い戻しを実施させる事には至らずペナルティも限定的なものになっている。しかし02年から前年比の伸び率が下がり始め目標額に近づき抑制効果が出始めたといわれる。
上記の2つの方法を比較した場合、近年「目標設定」が効果を上げつつあるかのようであるが、その目標自体が科学的な手法によってどう検証されるのかについての疑義が残る。医療の質についてもどう反映されるのかも不明だ。
それに比べ、フランスにおいてはどうも頓挫しているようだが、疾病ごとの医療に対するガイドラインが示され包括払い方式をとる事によって各医療機関が切磋琢磨して質を上げつつ、結果として医療費の削減につながる方法に可能性を感じる。日本においても現在は、保険組合は医療機関から請求されたレセプトの審査については医療の質(過剰診療)に対しては殆どノーチェック状態である。
日本の厚生労働省もDPC(包括払い)を平成15年4月から大学病院・特定機能病院において試験的に導入し、16年から民間病院にも拡大しH18年からさらに多くの民間病院にも広げる予定となっている。クリニカルパスという医療の概念が導入され、今多くの病院で医局、看護部、医事課三位一体となって、入院〜手術〜術後の看護〜リハビリと極力短い入院日数の中で計画的な医療計画を立てて患者に対応する方式が広がりつつある。単に医療費の抑制という観点ではなく、少なくとも平均水準の医療の質も求める取組みについては今後大いなる可能性を感じる。独善的な医者の姿勢が問われる事も何より魅力的でもあると思うがどうだろう。

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