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石油情勢を読む書籍3冊

2006年に続き、2007年の石油市場は、高値を更新している。

この背景には、世界的な需要拡大・ピークオイルという、長期的な供給不足の基調がある。しかし、ピークオイル時期については、2030年説や2050年以降説もあって、ここ数年の石油価格の高騰を説明できない。

世界経済に大きな影響がある石油情勢についての書籍を紹介してみます。

『石油 もう一つの危機』(石井彰著、日経BP社 2007年7月)
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石油価格が高騰している。2003年末はWTI1バレル=30ドルだったものが、現在は70ドル台だ。その理由として中国などの需要急増説やピークオイル説などが語られた。が、著者は専門家として、需給はそれほど逼迫してない、石油が15年以内に枯渇することはないと指摘する。犯人は投資資金だ、と。
石油の素人である投資資金が金融の論理で動き、実需から懸け離れた価格がつく。だが、国際石油資本や産油国はその価格を信用していないので、油田開発はそれほど進まない。加えて、国際石油資本をしのぐ力を持つ国営石油会社は、資源ナショナリズムを背景に行動する。その結果、石油にマーケットメカニズムが働かないという皮肉がある。今後はちょっとしたきっかけで石油価格は100ドルを超えてしまうだろう。この現実にどう向き合うのか。残念ながら「魔法の解決策」は書かれていないが、われわれが考える際のヒントは隠されている。

(週刊東洋経済2007/09/22号・『ブックレビュー』)

国際石油会社(現在5大石油会社、昔はセブンシスターズ)の油田開発状況については、石油・天然ガス資源情報の「生産量増加に苦しむメジャーズ〜投資不足が影響?」が参考になる。

2006年では、各石油会社は、探鉱による新油田の発見が、生産による埋蔵量の減少を補えていない。所有確認埋蔵量が減少に転じている。

(下記、引用先の7頁:探鉱開発活動によるリザーブ・リプレースメント・レシオ—RRRが、4社で、100を切っている。)
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『投資銀行家が見たサウジ石油の真実』(マシュー・R・シモンズ著、月沢李歌子訳、日経BP社2007年3月)

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まずは、出版社側からのメッセージ

最大の産油国サウジの巨大油田が枯渇の危機に瀕しているという観点からサウジアラビアの油田が抱える諸問題を論じる。著者は石油ビジネスをはじめとするエネルギー問題に詳しい米国の投資銀行家であり、本書は原著の出版準備段階から、その内容の点で、サウジアラビアの石油当局から大きな反発と反論を巻き起こした問題作。その後の原油価格高騰の要因のひとつにもなった。
いわゆる「ピークオイル」問題を扱った書籍は多いが、そうした書籍のほとんどが環境ジャーナリストによる石油埋蔵量の統計をベースとしたマクロ的観点から著されたものであるのに対し、本書は、サウジアラビアの既存油田の地質的・技術問題からより実証的・具体的な分析に重点を置いている点が最大の特色といえる。

対して、以下は、批判的な書評。

サウジ石油生産はピーク? 技術的根拠のない主張
サウジアラビアは世界の石油資源の20%を持ち、生産量でも輸出量でも世界第1位である。わが国にとっても、最大の輸入先であり、約30%を依存している。今後も、世界の需要拡大に対応して、生産量を増加させることが期待されている。
しかし本書は、サウジの資源の大きさ、生産能力の将来について、疑問を提起し悲観論を展開している。著者は、技術論文を引用し、資源量に疑問を呈したうえで、生産はすでにピークまたはそれに非常に近い状態にあり、近い将来減少に向かうとしている。技術的背景のない著者が、技術的な観点から今後のサウジの石油生産は期待できないとしているのである。使われた論文と引用の仕方にはかなり無理があり、その主張は恣意的である。油田により地質や油層の状況が異なることを無視し、急速な生産減退が見られる他国の油田の例をサウジの油田に当てはめて、減退を主張していることは顕著な例である。
また、近年サウジで巨大油田の発見がないことが強調されている。巨大油田の発見は、世界全体で1960年代以降減少しているが、この間、技術進歩と経済性向上で確認埋蔵量も生産量も着実に増加している。著者はこれも否定するのだろうか。著者は、原著発行より1年以上前の2004年2月に、本書と同じ趣旨の講演を行っている。その際にサウジ国営会社が技術データを使って反論し、石油専門家はこぞってサウジ側を支持した経緯がある。著者の議論は、専門家が相手にしない、少数説というより異端とも言うべきものである。著者の意図はわからない。しかし、危機感を煽ることで利益を得る人たちが存在するのであろう。本書で意味があるのは、石油消費の抑制と生産増加努力継続の必要性を呼びかけている部分だけである。【評者 榊原 櫻 三井物産戦略研究所】

(週刊東洋経済2007/07/28号・『ブックレビュー』)
『石油を読む 第2版—地政学的発想を超えて』(藤 和彦著、日経新書、2007年2月)

世界の石油と天然ガスのまっとうな解説書
日本は世界第3位の石油消費国ではあるが、世界の石油・天然ガス市場・産業の中心ではない。石油・天然ガス産業の中心は上流(開発・生産)部門であり、これはやはり産油国ないし産ガス国である。また原油価格を決定する先物市場はニューヨークにある。したがって重要な石油・天然ガス関連情報は、主として海外から外国語で入ってくるのだが、問題はそれらが日本語に変換・編集される過程で、しばしば一部の見解等が強調される一方で、全体像がぼやけるなど、質が大幅に変化してしまう、ということである。
そして日本人の多くが、そのように加工された情報に踊らされがちとなり、結果として誤った認識を持ってしまう場合が少なくない。たとえばロシアのウクライナへの天然ガス輸出停止に関して、ロシアだけを悪者扱いするといった国際政治的な見方のみが幅を利かせ、両国の経済的紛争という側面が脱落してしまう、という具合である。
そんな日本での世界の石油・天然ガス情報の扱われ方にある種のどんよりとした失望感を覚える状況の中、一筋の光を注ぎ込んでくれたのが本書である。
中東諸国等における地政学的リスク要因や、原油先物市場への大量の投資資金等の流入、石油資源確保のための中国国営企業の国外進出などを含め、過不足のない事項について適切な説明を加え、世界石油・天然ガス情勢に関する全体像を簡潔かつ明瞭に描写するとともに、そこにおける日本の位置付けや今後進むべき道につき提言を試みている。また、その記述の随所には、エネルギー行政等に長年携わってきた筆者の冷静な分析力がいかんなく発揮されている。その意味で、本書は日本で数少ない「まっとうな」世界の石油・天然ガス市場・産業解説書としてお薦めすることができる。
【評者 野神隆之 石油天然ガス・金属鉱物 資源機構上席エコノミスト】

(週刊東洋経済2007/05/26号・『ブックレビュー』)
上記3冊の著者、書評者は、日本の石油政策に係わる、経済産業省・資源エネルギー庁、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、大手商社の担当者により記されている。

その意味では、長期的には『石油枯渇』の危機は存在するが、それは、目の前の危機ではないという解説で一貫している。

書評の参考サイト:読もうよビジネス書
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