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生産者米価下落の構造

昨年は生産者米価が大幅に下落した。このことは昨秋以来何度か報道されている。 
 
すこし古くなるが平成19年10月26日の読売新聞記事によれば、10月10日の「コメ価格センター」での落札価格は06年にくらべ、全銘柄平均で8%の下落という。例えば新潟産コシヒカリについては、昨年の価格17000円(60kg当たり)に比べて15000円程度と約2000円の低下となっている。農家の平均生産コストは2006年度で約16800円といい、既に生産コストを割り込んでいる状況という。この状況下で、昨年9月には秋田市議会が首相宛に救済を求める意見書を出し、また民主党が救済案を作るなどの動きがあった。 
 
もともと生産者米価は長期的な下落傾向にあるが、この大幅な下落の原因は何か、また米価はこれまでどのように決まってきたのかを調べてみた。
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■昨年度の米価を決定付けた要因 
 
前述の記事は、下落要因のひとつに供給過剰予測をあげている。昨年の作柄指数99から判断して主食用の米の生産量は農水省目標の828万トンを上回る856万トンになると予測されていた。これは同年の需要予測833万トンをも上回り、大幅な供給過剰が見込まれるとしている。 
 
もう一つの要因としてJA全農(かつての農協)の方針転換がある。 
 
全農は一昨年まで60kg当たり13,000円としていた、主力銘柄への生産農家への前渡し金を7,000円に引き下げた。昨年までの場合、販売価格が17,000円ならここから手数料約3,000円を差し引いた14,000円と前渡金との差額1,000円が支払われていた。全農がこれほど前渡金を引き下げた理由は、米の加重平均価格が10月末に13,500円に,12月末には12,000円になるという予測(米価格センターベース※)に基づくという。(※米価格センターは平成2年に設置された自主流通米価格形成センターに代えて、平成16年に設置)では近年の生産者米価を規定する背景はどうなっているのか。 
 
■米の生産と消費の推移 
 
日本の米の生産量と消費量はどう推移しているのか。まず生産量を農林水産省ホームページの食料自給表で見ると、昭和40年度年間1241万トンあったものが、平成17年度には1017万トンと2割強の減少となっている。 
 
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/dat/2-2-1.xls [1]
 
次に消費量は、昭和40年には国民一人当たり年間111.7kgであったが平成18年には約55%の61.0kgに減少している。ちなみに増加しているのは、肉類の9.8kgから28.0kg、牛乳・乳製品の37.5kgから92.2kgなどとなっている。 
 
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/dat-fy18/sankou1.pdf [2] 
 
人口の推移を見ると昭和40年が9,921万人、平成17年には12,777万人(約3割の増加)だから、先述の一人当たり消費量と掛け合わせてみると、総消費量でも約3割減少している事になる。 
 
■余剰米増加要因のひとつMA米 
 
前述のように米の需要は年を追って低下傾向にあり、従って余剰米が増加する傾向にあるが、これに拍車をかける要因としてMA米の存在がある。MA米については農林水産省「消費者の部屋」のQ&Aに以下の解説がある。『 』内引用。 
 
『95年のガット・ウルグァイ・ラウンドにおける国際間の農業合意に基づいて輸入している外国産米をいいます。 
ガット・ウルグァイ・ラウンド農業交渉においては、原則としてすべての関税以外の国境措置を関税に置き換えるという、いわゆる包括的関税化の考え方がとられ、あわせて、基準期間(1986〜88年)における輸入量がほとんどない品目については、最低輸入量(ミニマム・アクセス)として当時の国内消費量の3%の輸入を認め、それを6年間で5%まで拡大することとなっています。他方、関税化を行わないという特例措置を適用する場合には、この通常3〜5%のミニマム・アクセスを4〜8%に加重することとされました。わが国のコメについては、これまで、この特例措置を適用していましたが、平成11年4月1日より、関税措置へ切り換えられることになり、これにより平成11年度は6.8%(72.4万玄米トン)、平成12年度は7.2%(76.7万玄米トン)のミニマム・アクセス米を輸入する(毎年0.8増から0.4増に半減)ことになります。また、新たなWTO農業交渉の合意ができるまでは現行のアクセス数量(76.7万玄米トン)が維持されます。(平成15年7月回答)』 
 
現状、毎年約80万トン輸入されているMA米だがこの消費量は予測より少なく、余剰分は在庫として積みあがってきており、これが現状の米余りに追い打ちをかけていることは否めない。在庫に対処すべく政府は18年7月からMA米の飼料用としての販売を開始した。 
 
■米価を市場原理に委ねることを方向付けた平成14年の「米政策改革大綱」
 
政府は平成14年に米政策改革大綱を発表した。その趣旨を引用すると、『米は消費の減少、生産調整の限界感、担い手の高齢化などの閉塞状況から脱却し、効率で安定した生産構造や農業者・産地による主体的な需給調整、安全・安心な米などの生産体制づくりや流通改革などを実現していくことを目的とし、そのため、平成22年度までに段階的に農業構造の展望と米づくりの本来あるべき姿の実現を目指すものです。消費者重視・市場重視の考え方に立って、需要に応じた米づくりの推進を通じて、水田農業経営の安定と発展を図る。』ためのものとし、骨子を以下のように述べている。 
 
1.目的 
 
消費者重視・市場重視の考え方に立って、需要に応じた米づくりの推進を通じて、水田農業経営の安定と発展を図る。 
 
2.米作りの本来あるべき姿と実現への道筋 
 
(1)平成22年度までに農業構造の展望と米づくりの本来あるべき姿の実現を目指す。
(2)需給調整システム(生産調整等)は、平成20年度に農業者・農業者団体が主体となるシステムを国と連携して構築(18年度に移行への条件整備の状況を検証し可能であればその時点で判断)。
(3)システムにおける国、地方公共団体の役割を食糧法上で明確に位置づける。 
 
この米政策大綱に基づき、政府は平成16年に食糧法を改正し、計画流通制度を廃止して米の流通規制を原則として撤廃した。これにより国が米の価格を決めるのは備蓄米のみとなり、それ以外の米の価格決定は市場に委ねられることになった。 
 
■昨年の下落はさらなる下落の始まり? 
 
つまり昨年の生産者米価は、現在の需給状況下で価格を市場に委ねたことの必然として下落し、これに全農の前渡し金引き下げが拍車をかけたものと推測される。また米価に関わる諸条件をみる限り下落は今後も継続的に進行していくと見られる。国の施策は農家の集約化を目指すものに見えるが、こうした流れの中で国の施策に沿って大規模化を目指す農家の中でも経営が成り立たないところが増えていくだろう。 
 
日本の農業の将来にはまだ明るいビジョンは見えてこない。 
 
追記)なお、農水省のホームページに「米をめぐる現状」平成19年10月というレポートがあり、種々のデータが掲載されていますので紹介しておきます。 
 
http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/keikaku/pdf/071002-04.pdf [3] 
 

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