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日本版SWF構想の欺瞞

日本版のSWF(国富ファンド)を設立しようとする動きが、小泉・竹中「改革派残党」により始まっている。 
 
郵政民営化では、「官から民へ」のスローガンを声高に叫んでいた「改革派」が、何故、いまさら官そのものである「国富ファンド」を言い立てるのか、奇怪なことである。 
 
まずは、ロイターのインタビューから。

●日本版SWFの議員立法を早期提出へ=山本前担当相 
 
[東京 27日 ロイター] 自民党の国家戦略本部の「SWF検討プロジェクトチーム」の山本有二座長(前金融担当相)は27日、ロイターのインタビューに応じ、日本版政府系ファンド(SWF)の創設に向けて、議員立法で法案を早期に提出する意向を示した。 
 
日本版SWFの運用原資は、年金基金のほか外貨準備や政府保有株を想定。外貨準備の場合、原資を運用益(2006年度は3.5兆円)に限定するルールを設けることで市場のドル離れの懸念は払しょくされるとの見方を示した。 
 
インタビューの概要は以下のとおり。 (leonrosa注:外貨準備に係わる部分を重点に) 
 
——日本版SWF創設で、日本の市場は活性化するか。 
 
「すでに政府は資産を運用しているという人もいる。外貨準備で米国債を買って、2006年度に3.5兆円の利息収入がある。NTT、日本たばこ産業など政府が保有する株式だけでも配当益がある」 
 
「そういうものを整理して機能性を持たせるだけでいいかもしれないが、今後は、アクティブ運用が可能かどうかという世界になる。日本版SWFはその突破口。それは損をする道になると言われるかもしれないが、市場は活性化せずに沈滞している。金融市場強化とか、金融産業を起こそうと百万回言うよりも現実味がある」 
 
——日本版SWFの運用原資は何を想定するか。 
 
「政府には、年金基金のほか、保有する不動産もあれば、上場企業の株式も持っている。銀行株も金融危機のときに出した資本があり、それを考えると膨大な運用資産がある。年金基金、外貨準備、ゆうちょ銀行など民営化の会社の出資、これらが政府系ファンドになるのだろう」 
 
——外貨準備の運用には財務省が慎重だ。 
 
「外貨準備は、ほぼすべてが米国債に充てられているので、これを売ったり買ったりし始めると日米関係の機軸に変化が生じる。特に、米国債を売るのは米国の信用に関わる。これをむやみにやるのは弊害を起こす」 
 
「ただ、外貨準備には2006年度で3.5兆円の利息が付いている。この一部を運用する目的なら、制度的にも、日米の親密な関係にも水を注さない。できればルール化して利息分以上は運用できないという上限を設ける法律や規則を作ったほうが誤解がない。そのメッセージで(ドル離れの市場の懸念も)払しょくされる。2000億円規模でスタートすれば民間ファンドでも小さいほうなので、インパクトある話ではない」

リンク [1] 
 
「SWF検討プロジェクトチーム」のメンバーリストは、下記のブログを参照。多くの小泉・竹中派が参集している。
雪斎の随想録・日本版SWF構想 [2] 
 
そこで、日本版SWF構想にでてくる「外貨準備」について、本当に運用資産があるのか確認してみました。 
 
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ここで、「外貨準備」といわれるのは、「外国為替資金特別会計」のこと。 
 
「外国為替資金特別会計」は、過去、ドル買い支え(円売り・ドル買い)により、総額100兆円近くの資金が積み上がっている。 
 
17年度末(18年3月末)の資産バランスは、以下の通り。 
 
保有資産は、有価証券74.8兆円、現金・預金30.9兆円。その他資産を含め合計109兆円。
一方負債は、97.4兆円の「政府短期証券」が計上されている。 
 
有価証券の大半が、米国財務省証券(ドル証券)であり、現金・預金のうち14兆円ほどが外貨預金(ドル預金)。 
 
そして、有価証券と現金・預金の運用利益は、約3兆円である。
100兆円近くの「政府短期証券」の利子費用があるはずだが、何故か、「外国為替資金特別会計・平成17年度財務書類」には報告されていない。
他の資料で確認すると、政府短期証券の発行利子は、概ね0.5%であり、100兆円の残高に対して、利子5000億円である。 
 
「外国為替資金特別会計」は、国内で100兆円の「政府短期証券」を利子費用5000億円で発行し、この100兆円を米国財務省証券、ドル預金で運用し、年間に3兆円の運用収入を生み出し、純利益2.5兆円の運用利益(純利益)を上げている。 
 
そして、国の18年度一般会計に1.6兆円を繰り入れ(納入)している。 
 
これは、米国財務省証券という非常に偏った運用先ではあるが、立派な官製ファンドである。
(但し、常に、ドル下落のリスクを抱えているが。) 
 
しかし、この官製ファンドは、産油国(アラブ諸国やノルウェー)の様な、余剰収入を蓄積したファンドではなく、政府短期証券という借金をした上でのファンドである。 
 
その意味では、「SWF検討プロジェクトチーム」が目をつけたような余剰資金ではない。
<勿論、財務省が巧妙に隠している「運用収入」の蓄積が10兆円規模であり、議論を複雑にしているが。> 
 
日本版SWFと「外国為替資金特別会計」を論ずるなら、先ずは、これだけの巨額の官製ファンドが必要なのかどうかである。
為替レートを原則的に変動相場制に移行させたのだから、為替安定化の基金としては、100兆円の規模の基金は不要である。 
 
先ずは、規模縮小を目指すのが筋であろう。
しかし、日本の財務省は、米国からの懲罰を恐れて、規模縮小を検討した気配さえ見えない。
その点では、「SWF検討プロジェクトチーム」も100兆円の元本を動かす気はなく、財務省が隠している運用収入蓄積を日本版SWFの資金としている。 
 
米国を恐れている点では、大同小異でしかない。 
 
実は、100兆円の元本資金は、米国の金融秩序、ドル秩序にとって、強力な爆弾である。
この爆弾を盾にすれば、様々な、対日要求に「ノー」ということが可能である。
 
 
日本版SWFを論じるなら、国内から余剰資金を100兆円でも、200兆円でも調達し、それを、「欧米主導の金融秩序を覆し、新たな世界経済秩序を確立する為に役立てる」という位の構想が求められる。 
 
外国為替資金特別会計に関する資料を以下にあげておきます。
外国為替資金特別会計・平成17年度財務書類 [3] 
 
外国為替資金特別会計の外貨建運用収入の内訳等について [4] 
 
政府短期証券の発行残高 [5] 
  
外貨準備(外国為替資金特別会計)を減らせという、まともな論調を最後に上げておきます。 
 
●外貨準備を考える「大量売却でリスク軽減を」(早稲田大学商学部谷内満氏)
リンク [6] 
 

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