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ロシアの住宅ローン担保証券が金融世界を救う?

世界金融市場にアメリカ発のサブプライムローン問題の収拾がついていない中、ロシアの投資銀行が海外でRMBS(Retail Mortgage Backed Securities=住宅ローン担保証券)のルーブル建てユーロ債を発行すると報じられた。 
 
上記は井本沙織氏(大和総研産業コンサルティング部主任研究員)からの大変興味深い記事のプロローグです。 
 
井本沙織のロシア見聞録・第13回
リンク [1] 
 
原油価格が100ドルという歴史的なハードルを越える石油高騰の追い風で高成長を続けるロシアにおいて、決して大手とはいえない民間銀行が打ち出した冒険の背景には何があるのか? 
 
①「証券化商品」と聞くだけでも拒絶反応を起こす今日の市況において、この試みの意味は。
②今回のユーロ債はドル建てではなくルーブル建ての初国際市場デビューの背景は。
③高くても不動産を購入する気にさせる「何か」とは。 
 
このような疑問に対して井本氏は次のように述べています。 
 

ロシア第28位の銀行の勇気

3月末にロシアのメディアは、キット・フィナンス<КИТ Финанс>投資銀行は、70億ルーブル規模(350億円相当)のRMBSユーロ債を海外で発行すると報じた(ロシアの有力紙コメルサント電子版、2008.03.26)。ロシアの住宅ローンを元資産にした債券は、2006年に初めて海外で起債されたが、それはドル建ての証券であった。今回のユーロ債はこの類の債券としてはルーブル建てで初めて国際市場にデビューする証券となる。さらに注目すべき点はこの発行体がロシア28位の、決して大手とはいえない民間銀行なのである。 
 
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首都モスクワ(写真上)やサンクトペテルブルグ(同下)では建設ラッシュに沸いている 
 
 予定金額は70億ルーブル、償還期限は1年間で償還は09年4月である。このRMBSの発行部分は、2つの階層(トランシェ)に分けられており、優先部分は全体の金額の90%を占め、S&PからBBB+の格付けを付与されている。もう一方の部分はBBであり、一般的に欧米で発行される証券化商品と比較しては低い格付けでの発行に留まる予定である。その代わり、高いクーポン・レート(表面利率)が魅力的であり、BBB+のトランシェで8.75%、BBの部分は9.0%(それぞれルーブル建の固定利付き)の水準となっている。 
 
 このRMBS起債は一見特別なことではないが、今のサブプライム問題一色の金融市場から見て、住宅ローンの証券化には適切な時期でないことは誰の目から見ても明らかである。だからなぜこの銀行は、しかもこの時期に、ロシアでは初(ユーロ市場での証券化商品)のディールを施そうとしているのかが非常に気掛かりとなるところである。 
 
 その答えとしては、08年に入り、たった2カ月で2桁上昇した不動産価格及び未だに続く2桁の高インフレにある。近年、住宅ローンに関する需要は特に堅調であり、07年には倍増となった。また08年に再び勢いを回復した不動産投資は「インフレ・ヘッジ」の色彩を持っており、不動産投資促進の面においては、住宅ローン制度普及の役割が大きい。

 
 
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再び急伸する不動産市場

 
 まずロシアの不動産市場の動きを確認していく。06年はロシア不動産市場にとって記録的な年となった。モスクワの不動産価格が1年の間に、1平方メートル2232ドルから4193ドルへほぼ倍増。低価格の物件は、さらにより大きな130%〜150%上昇をみせたのである。不動産価格の高騰は、供給不足と住宅ローンの普及によるものだと、専門家が説明していた。 
 
 しかし、07年に入ると前年の飛躍的な市場が冬眠に陥ったかのように鈍りをみせていた。上半期には5〜15%の値下げすらみられ、市場の不調がしばらく続いた。その後は、価格が徐々に上がり始めたが、2007年の1年間をみると、モスクワでは1平方メートル当りの価格が3%しか伸びていない。ドル安と2桁のインフレ率を考えると、実質価格が下がったことになる。 
 
 さらに付け加えると、1平方メートル当り4000ドルの価格が市民の購買力を上回ったにもかかわらず、価格が高止まりしたのである。ローンなしでは、とても取得が困難な不動産市場になってきている。しかし、住宅ローンが普及し始めたといっても、その規模は未だ国内総生産(GDP)の2.3%(2007年)に過ぎないので、市場を活発化させるには力が不足している。

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 そうすると、08年の市場に活気を与えるためには、住宅ローンの拡大と、高くても不動産を購入する気にさせる「何か」が必要であった。なぜなら、07年と08年のそれぞれの世論調査によると、向こう1〜7年間に不動産を手に入れる予定があると答えた人は13%に留まっていた(世論調査のWCIOM社による)。

 結局、その「何か」は、07年に再び10%を超え、最終的には11.5%となったインフレなのである。政府は08年のインフレ・ターゲットを8.5%に設定したが、3月には、インフレ予測をすでに9.5%まで引き上げている。そして今年1〜2月の不動産市場は、1平方メートル当たりの平均価格がなんと12%急伸したのである。

拡大する住宅ローン

 07年は住宅ローンの拡大の年となった。銀行のリテール・ローン全体の伸び率は57.0%だったのに対して、住宅ローンは87.3%急伸した。80%はルーブル建てで、平均ローン期間は、同年の期首は15.2年であったが、期末には15.8年まで上昇した。平均金利は13%。そして市場の成長の重点は、モスクワとサンクトペテルブルグから地方に移りつつあるのだ。07年の地方の住宅ローン市場伸び率は、100%弱という飛躍的なパフォーマンスをみせた。GDPの3%に満たないロシアの住宅ローンは、東欧諸国の10〜15%と比較しても潜在的な成長力が大きい。 
 
 ロシアの住宅ローン市場における最大のプレイヤーは、貯蓄銀行のズベルバンク<Сбербанк>と対外貿易銀行のブネシュトルグバンク<Внешторгбанк>の、2大国営銀行である。この2つの銀行は住宅ローンの市場の50%を占めている。そして第3位は、冒頭で話題に上ったキット・フィナンス投資銀行なのである。この銀行の住宅ローンは、対前年比で3.4 倍の急増をみせたのである。そこでローンのリファイナンスが必要になることは当然である。

RMBSの魅力は本物か

 キット・フィナンスのRMBS起債は、これからの予定である。市場や投資家の反応をみるまでロシア発の証券化商品の将来性について占うのは難しい。しかし、ロシアの住宅ローンのクオリティ(未返済率は1%)、成長の可能性(ローンが活用されている不動産取引の割合は現在わずか10%〜15%程度)、RMBSの高い利回りにこれからも進むだろうルーブル高を加えて考えると、その未来が明るくみえる。

井本氏の記事抜粋は以上です。

中国と同じく好景気に沸くロシアの経済は石油高謄の状況においては安定基調が続き、国際金融への影響度もますます高まる様相を呈しています。

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