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ロシアからの愁眉

日本政府筋によると、8日午後の福田康夫首相とメドベージェフ・ロシア大統領との会談で、2008年後半のプーチン・ロシア首相訪日が決まった。プーチン首相のほかイワノフ副首相、ラブロフ外相らの訪日と日露戦略対話の実施を決めるなど、政治対話の強化で一致した。また、領土問題解決の決意でも一致した。[北海道洞爺湖 8日 ロイター] 
 
G8サミットにデビューしたメドベージェフと福田の会談で、年内にプーチンを初めとするロシア首脳の来日が報じられました。心なしか日本に対するロシアの積極的な働きかけがあるように感じます。 
 
●メドベージェフ政権となり、いよいよ領土問題解決の道が開けるのか?
●領土問題は表向きの外交課題で、ロシア政府の真意は別のところにあるのか? 
 
日本とロシア 
 
今後の成り行きを遠望するため、現在のロシア経済状況を探ってみることにします。 
 
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石油輸出への依存から脱却を図ろうとしているロシア政府も民間企業も海外から投資をパッシブに受ける身ではなくなっている。経済を多様化し、国内製造業の強化の下でイノベーション・ベースに乗っ取った経済成長パターンの確保は、ロシアにとっては最重要な課題である。そのためには、日本が持つ優れたものづくりの技術やノウハウは、不可欠である。

井本沙織のロシア見聞録・第11回より [1] 
 
上記のロシア経済状況に関連する財務省レポートを紹介します。 
 
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第4章 ロシア経済多様化の展望:産業構造転換の可能性
一橋大学経済研究所教授 久保庭 眞彰氏
リンク [2] 
 
1.はじめに (抜粋)

・・・次期大統領と目されるメドベージェフは、2008年1月の演説で、ロシアが、今後、5大経済大国になるという展望を示した。 
 
また、5月に退任するプーチン大統領は、2008年2月8日、「2020年までのロシアの発展戦略」と題した演説をクレムリンで行い、経済では石油など天然資源だけに依存しない技術立国を訴え、2020年までの課題として、所得格差の縮小や経済の効率性拡大などを挙げた。 
このプーチン演説は、今後12年間の国家戦略のレールを敷くことで、退任後も影響力を維持していく姿勢を鮮明にしたと論評されている(共同2008年2月8日)。 
 
しかし、以上のメドベージェフやプーチンの発言は、今、突然出てきたわけではなく、いずれも、ロシア連邦経済発展貿易省が作成した『ロシア経済の中期予測、2008〜2010年』(2007年4月、以下、『中期予測』)と、『ロシア経済の長期構想、2008〜2020年』(2007年10月、2008年現在改訂中、以下『長期構想』)をベースにしているといえよう。 
 
『中期予測』では、
惰性的シナリオ(シナリオ1)と楽観的シナリオ(シナリオ2)の2つが提示されている。 
 
『長期構想』においては、
惰性的発展シナリオ(シナリオ1)、資源(エネルギー・原料)発展シナリオ(シナリオ2)、革新的発展シナリオ(シナリオ3)の3つが示されている。 
 
惰性的シナリオは、伝統的な資源依存発展モデルで、資源開発インフラの発展も緩慢だとされる。資源発展シナリオは、ロシアの資源潜在力・競争優位をインフラ整備も含めて最大限に有効に活用することをねらっている。 
 
ロシア政府の基本政策は、楽観的シナリオと革新的シナリオによって成立している。これらは、ロシアが資源優位性を有効活用すると同時に、経済の多様化、ハイテク化、知識集約化により競争力を向上させ、高成長を安定的に実現することに力点をおいている。

 
2.『長期構想』 (抜粋)

・・・ロシア政府の狙いは、ロシアを世界経済のリーダー国の1つへ転換させ、高度工業化諸国の社会経済発展水準を達成することである。 
 
この目的の達成に必要なのは、先進国水準の福祉の実現、競争上の優位性と国家安全保障の方向に向けられた先進的科学技術開発、ハイテクに基礎をおいた世界経済における地位の確保、グローバルなエネルギー・インフラ、輸送分野における国際競争上の優位性の実現、世界の金融センターの1つへの昇格だとされる。
効率的な民主主義制度、活発な市民社会制度の構築も掲げられている。 
 
上述の展望の実現は、資源輸出型発展(シナリオ1 、2)から革新的発展(シナリオ3)へのロシア経済の移行によって実現されるというのがロシア政府の基本認識である。 
 
革新的発展は、2020年までに
第1 に、経済の多様化(「知識集約部門」とハイテク産業部門への主導部門移行)
第2 に、研究・開発の向上(GDP比R&D支出の現状の1%から4%程度への引き上げ)
第3 に、人的資本向上条件の形成(GDP比教育支出の現状の5%弱から5−6%への引きあげ、GDP比保健支出の4%から6%以上への引き上げ)、
第4 に、労働・エネルギー資源の利用効率の上昇(労働生産性を約2倍にし、エネルギー効率を40%削減)
第5 に、知的所有権を含む所有権保護システムやベンチャーキャピタル市場の形成
以上の実現を構想している。 
 
ハイテク市場へのロシアの国際的な特化分野の確立のためには、強力な科学・技術複合体の構築と、優先部門(ナノテク、核エネルギー、航空機、造船、ロケット宇宙技術、ソフトウェア)に関するリーダー的地位の達成・維持が強調されている。 
 
また、民主主義の発展と個人の権利・自由の保護が重要で、「民主主義—人間—テクノロジー」の相互発展図式を実現し、これを社会の日常の生活に体現した後にのみ、ロシアはその潜在的可能性を実現し、先進国の中で確固たる地位を占めることができると、もっともなことが述べられている。 
 
これは、現在、抽象の域をでるものではないが、今後、メドベージェフ政権下でトーンが強められていくと考えられる。

3.マクロ経済の展望 (抜粋)

・・・今世紀がエネルギーの世紀だという点は、ロシアにとってのメリットであるが、問題がそれで片付かないということである。 
 
かつて盟友であった、中国とインドの成長はロシアにとって大きな刺激となっている。 
 
外資導入や欧米との協調によるハイテク化について、ロシアは決定的に遅れをとっている。ロシア政府のキャッチアップ願望は強いが、プーチン後の次期政権は、プーチンの国家支配強化措置とは異なる政策措置の具体化を迫られているといえよう。・・・

(以上、引用終わり) 
 
ロシア政府は本気で展望を実現しようとしているわけです。 
 
ロシアは日本との関係において領土問題という交渉カードは大きな切り札となります。 
そのカードを、どのようなタイミングで切って来るかは興味深いところですが、同時に、日本としてもロシアとの緊密な関係を築くチャンスでもあります。 
 

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