- 金貸しは、国家を相手に金を貸す - http://www.kanekashi.com/blog -

米国金融機関を襲う、CDSという「大量破壊兵器」

米国の金融崩壊が止まらない。今月25日には、総資産32億ドルの貯蓄信用組合ワシントン・ミューチュアル(WaMu)が倒れ、米国史上最大の銀行破綻となった。次々と起きる金融機関の破綻の陰には、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という金融商品の存在がある。

9月22日NHKクローズアップ現代「アメリカ発金融危機の行方」 [1]

応援クリックお願いします。


◆CDS:他人のデフォルトを賭け合うギャンブル金融商品 
 
[2] CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とは、債務者でも債権者でもない第三者が、の債務を保証する代わりに保険料(プレミアム)を受け取る、という契約商品。いわゆる連帯保証契約に似ているが、CDSの特徴は、この契約商品を自由に発行し、市場で第三者に売ることもできる、という点。その結果、CDSの売り手も買い手も、対象となる債権に関わるともとも無関係となることも多い(この場合、の債務が不履行になった時に保証金額をから受け取るのは、でもでもなくである)。 
 
要するに、CDSとは「ある企業や個人の債務が不履行になるかならないか」を、無関係の第三者同志が賭けあうギャンブルだ。 
 
※右図はGarbagenews.com [3]からお借りしました。 クリックで大きくなります。
 
◆サブプライムローン問題を加速した保証バブル 
 
CDS-total.jpgCDS市場は1995年頃に誕生した。初めは相互保証によるリスク分散を目的とした銀行間契約が主で、市場規模も小さかった。しかし、そこに保険会社とヘッジファンドが目をつけ、住宅ローンなどの小口契約に適用した。保証がつけば怪しい債権にも高い格付けができる。これがサブプライム層への融資を加速させ、同時にCDS市場も急激に拡大した。

その結果、CDS市場は、2007年末には想定元本で62兆ドル(6600兆円)までに膨れ上がった。その約6割はヘッジファンドが抱えるという。

AIGはCDSを想定元本で4410億ドル(約46兆円)販売したとされる。今年上半期で既に約1.5兆円のCDS関連損失を計上していたが、リーマンの破綻で一気にその損失リスクが高まり、経営危機に陥った。

46兆円という数字は6千兆円規模の想定元本総額に比べれば小さい感じもするが、CDSは各企業が相互に債務を保証しあっているので、1社が支え切れなくなるとドミノ倒しで破綻が起き、どこまで及ぶか分からない。この事態を怖れたFRBが異例の緊急融資に踏み切ったのは、AIGがその要の位置にいたからだ。(※グラフはWalk in the Spirit [4]さんからお借りしました) 
 
米国有数の投資家ウォーレン・バフェットは、このように極めて危険な構造を持ったCDSを、「時限爆弾」「金融大量破壊兵器」と呼んだ。 
 
(これまで極めて慎重で堅実な投資家として知られていたバフェットは今回、経営悪化で銀行持株会社への移行を余儀なくされたゴールドマン・サックス(GS)に50億ドルの資本救済を申し出た。その際彼はインタビューに答え、現在の米国の危機的状況を「経済版真珠湾攻撃 [5]」と表現した。) 
 
◆世界中の誰も手が出せない

前掲の動画によれば、米政府が現在議会にかけている7000億ドル(約75兆円)の不良債権買い取りの対象に、このCDSは含まれていない。

しかし、考えてみれば当然かも知れない。CDSは複雑怪奇に連鎖しているので、あるCDSを「不良債権」と特定することで、別のCDSが次々と不良債権化しかねない。CDSの元本保証の残高は、今年6月段階で初めて54兆ドル(5700兆円)まで縮小 [6]したが、まだまだ誰も手を出せるレベルにはない。

米議会は、金融安定化策の政府案は単なるウォール街の救済策であるとの反発から難航していたが、いずれ成立させざるを得ないだろう。だが、その間にも、リーマン、AIG、モルガン・スタンレー、GS、そしてWaMuと続く破綻で着火されたCDSデフォルトの導火線は、次の破綻先を求めて米国〜世界を駆け巡っている。  

[7] [8] [9]