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『ウォールストリート;恐怖の8日間』より(5)米国債は単年228兆必要

前投稿 [1]からの続きです。

▼国家財政の信用
根底になるのが、国が発行する紙の国債(=利付借用証)の信用であることが、了解できるでしょう。
この信用は、国の返済力と利払い力です。
ゴールドという物的担保を裏付けにしないペーパー・マネーの信用の根源は、各国の、将来の国家財政です。つまり、あらゆる国の国家財政の信用は、将来の徴税力(=課税力)に依存します。
過去に金融救済のために緊急に使った分を、後で課税ができるのは、国民所得(=世帯の所得+企業所得)の増加があるからです。つまりは今後の経済力(=生産力と販売力)の伸びです。
米欧の政府・中央銀行が、「金融危機を避けるためあらゆる手段をとる」ということは、
・国債を増発し、中央銀行に買い取ってもらい、
・そのマネーを、金融機関に貸すまたは増資に応じるという意味です。
中央銀行も、無からマネーを生むことはできない。「国の財政の信用力」を無視し、無茶に行えば、その国の通貨の信用が、下落します。
●通貨信用は、国債の信用と同義です。
米国と欧州の中央銀行は、以上のような形で、すでに100兆円を、金融機関に増加供給しています。あと、必要になる数百兆円も、この方法で集めるしかない。
【重要】海外(日本、中国、アラブ)からも、マネーを集めるとは言っても、担保に、米欧の国債を差し入れねばならない。あるいは、米政府または中央銀行の、特別借用証の差し入れが必要です。
■6.究極に問題になるのは、米国経済の信用
米国のGDP(国内総生産=経済の生産力と販売力)は、2007年で$11.7兆(1170兆円:日本の2.2倍)です。世界のGDP(5500兆円)の22%を占めています。
この米国は、2007年末で、対外債務を$20兆(2000兆円:GDPの1.7倍)抱えています。
他方、対外資産は$16.5兆(1650兆円:GDPの1.4倍)です。純債務が$3.5兆(350兆円)です。

(注1)日本の対外純資産は、2007年末で250兆円です。他の純債権国は、ドイツ107兆円、中国78兆円、香港61兆円、スイス55兆円、フランス13兆円です。
(注2)純債務国は、大きい順にいえば、米国の純債務350兆円、英国80兆円、カナダ18兆円、イタリア12兆円・・・です。米英の合計で430兆円の純債務であり、世界は、過去の貿易黒字分を、そっくり米英に貸し付けしていると言っていいのです。
●対外純債務国(米国)が、金融危機の中心というのが、今回の危機の最大の特徴です。
1929年の大恐慌のとき、米国は対外純債務国でははかった。1997年の日本の金融危機の時は、日本も対外純債務国ではなかった。
2008年からの米国は、
・減税で18兆円、
・イラク戦費で20兆円、
・医療費や国防費の財政赤字で40兆円、
・金融救済で確定した分が70兆円、
・貿易赤字で、80兆円を使います。

米国に必要な、海外からの資金の流入は、今後1年で、18+20+40+70+80=228兆円になります。これは、過去の100兆円水準の2.2倍です。
●今後の焦点は、米国が必要とするこの228兆円を、どの国が、米国債あるいは借用証と引き換えに、供出するか、です。
日本・中国・アラブが、総力を挙げて米国債を買っても、買い切れない金額です。
じゃ、米国内で買えるか。それも無理です。米国の金融機関は、今、国債を増加買いする余力はない。むしろ、政府から資金供給を受けねばならない。
【結論】以上の帰結として、年末と2009年に向かい、米ドルは崩落することになります。つまり、米国の政府財政の信用力の低下です。
買いがなく、売りが超過すれば、その国の通貨は当然に下落します。まずは、$1=80円に向かうはずです。

 
(続く) [2]

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