- 金貸しは、国家を相手に金を貸す - http://www.kanekashi.com/blog -

揺れる大国 プーチンのロシア

3月2日 NHKスペシャルで【プーチンのリスト〜強まる国家資本主義〜】が放映され御覧になった方も大勢おいでになると思います。

世界3位の外貨準備高を誇りながらも、金融危機により世界最大級の株価下落に見舞われたロシア経済は、逆にプーチン流国家資本主義を強固にしつつある。……内部に凄まじい課題を抱えつつも強気の構えを崩さないプーチンの胸のうちには、いったいどのような戦略が秘められているのだろうか。

(NHKオンラインより引用リンク [1]) 
 
ルポルタージュは 
 
リーマンショックから1ヶ月、プーチンは国家資金を財閥につぎ込むことを表明し企業の審査に着手した。どの企業を存続させるか、外貨を稼ぐ力や、国家に寄与するかどうかなどの判断材料とともに、国が指名する経営陣を送り込むことも盛り込まれたプーチンのリストに財閥たちはリスト入りをかけて熾烈な争いを繰り広げる。国益に反する企業を淘汰し、強国復活を目指すプーチンの戦略によって資源などの基幹産業を国が握るという独自の国家資本主義を構築してゆく過程が報道されている。 
 
  %E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3.jpg 
 
現在のロシア経済状況 
 
活発な原油・天然ガス開発と、その後の商品市況の急騰を追い風とするオイルマネーで高成長を享受したロシア経済はグルジア侵攻とリーマンショックを受け資金流出の勢いが強まっている。資金流出により昨年後半から急速に下落した株式市場は底這基調が続き、ルーブル安、インフレ圧力も一層拍車がかかり倒産、失業率の増加という‘98年金融破局に似た状況となっている。 
 
株式相場の推移 [2]
為替相場の推移 [3]
小売価格とインフレ率の推移 [4]
雇用環境の推移 [5] 
 
はたして、プーチンの国家資本主義戦略はうまく行くのか、その背後にある政策意図は?
はたまた‘98年8月の金融破局の二の舞を踏むのか? 
 
続きを読む前に、クリックを!

 
 


‘90年代の金融破局 
 
‘91年6月、当時のパブロフ首相は国庫を点検してみたら外貨準備はほとんど残っていなかった、という爆弾発言を行ってロシアは恐慌に突入し、アジア通貨不安を契機として’98年8月に株価は半年で1/8に、ルーブルは1/3~1/4にまで暴落し金融破局(デフォールト)に至った。
余談であるが、この’90年代大混乱のトラウマを残すロシア市民は、近年の経済繁栄を持続的なものとは考えておらず、「金があるうちに使ってしまえ」という気持ちで、近年の消費ブームを演出してきた側面がある。 
 
今回も金融破局に至るか? 
 
(WORLD Trendsより引用させていただきました。リンク [6]

外貨準備高は一時的に4,600億ドル超に達し、その後は急速な資金流出の影響で今年1月末時点では3,466億ドルまで減少したものの、依然として中国、日本に次ぐ世界第3位の規模にある。 
 
外貨準備の規模が短期債務残高の数倍に上ることから、単純に考えれば、先月報道された民間債務の整理といった事態は起きにくいと言える。ただし、上述のように足元で資金繰りに窮する新興財閥の支援に際しても、政府の意向が大きく左右していることを勘案すれば、外貨準備を用いてまで支援する必要がないと判断される企業が出る可能性は少なくないと考えられる。また、昨年後半の資金流出により外貨準備が急速に減少したこと、原油をはじめとする商品市況の一段の下落懸念を主因に、主要格付機関が見通しの引き下げや格付けそのものの引き下げに動いており、依然としてすべての機関で「投資適格」のレベルにあるものの、その潜在的なリスクは高まりつつあると言える。

(「オイルマネーあふれるロシアで金づまり」河東哲夫氏より引用させていただきました。リンク [7]

まだ記憶に新しい98年8月のも含め、ソ連崩壊後ロシアは何回か債務繰り延べ、そして不支払いを繰り返した。また今回それが繰り返されるのかと言えば、今回は以前の100倍もの外貨準備を抱えているので、せいぜいルーブル切り下げ、それに伴う国内のインフレ悪化くらいが当面予想されるところだ。

  rosia01.bmp 
  rosia02.bmp 
つまり、当面は潤沢に蓄えられた外貨準備金と3,000から7,000億ドルともいわれる在外資産も勘案すればで98年8月の金融恐慌のような事態とはならないが、今後の原油価格状況と政府(プーチン)の動向に大きく左右される状況であると言える。 
 
原油価格 
 
昨年7月に最高値145.29ドル/BLから昨年12月には31.41ドル/BLと80%近く下落し、その後41ドル近くまで持ち直している。今年2月初めにはプーチン首相が1バーレル当たり41ドルとして歳出を見直すよう指示が出され財政赤字対策が打ち出されている。短中期で見た場合、原油価格暴落がよほど長期に続かない限り、仮に40ドル前後で価格が安定したとしても原油価格変動を機に金融破綻状況に陥ることはまずはないと思われる。 
 
  %EF%BC%B7%EF%BC%B4%EF%BC%A9%E5%8E%9F%E6%B2%B9%E4%BE%A1%E6%A0%BC%EF%BC%881%E5%B9%B4%EF%BC%89%E3%81%B1%E3%82%89%E3%81%A3%E3%81%A8%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%88.png
WTI原油価格(1年)推移 
 
ロシア政府の動向 
 
今後は政府(プーチン)の動きが金融市況を大きく左右する可能性が残される。
冒頭に紹介したプーチンのリストはロシアの国家資本主義を進める政策の一環で昨年9月にはスビャス銀行を実質的に国営の開発銀行が買収、原料炭最大手MECHELの経営活動への介入など政策保守化傾向を強め、企業に対する中央集権的支配を強固に進めようとしている。 
 
ロシア労働人口の1/3が国家予算から給与をもらっている状態で、ソ連回帰の「保守バネ」はロシア社会に深く根差し「(プーチンが)指令すれば実現する」というソ連時代のメンタリティーは根強く、政府の思惑を阻止する反対勢力の動きは今のところ皆無と言っていい状況である。 
 
欧州、イギリス金融への甚大なる影響 
 
ロシアの企業、銀行は欧州、とりわけイギリスから外資を調達している。仮に、「国家に寄与しない企業」と政府裁定が下され、企業の切り捨てが断行された場合は、債務不履行が多発され欧州、イギリス金融破綻の危機につながりかねない。この事態は、欧州、イギリス金融の生命線をロシアが握っている状況と見做してよい。
かくして、ロシア政府が国際金融への影響力を高め国家資本主義を成就するため切り札を有効に活用するという構図が見えます。 
 
ロシア政府が強硬に進めている企業再国有化政策も、国際金融での影響力を最大発揮させるエースカードを引く巧妙な策略が背景にあるのではないかと思います。 
 

[8] [9] [10]