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「農協貯金」が狙われている その2 〜農林中金、巨額増資と理事長交代〜

本日27日、農林中央金庫が、21年3月期(連結)の決算を発表しました。
それによると経常利益で6165億円の損失、当期利益で5721臆円の赤字です。 
 
この巨額の損失に対して、資本増強を3月末までに実施しています。
資本金増資(後配出資)で1兆4053臆円、劣後ローンで5123臆円、合計1兆9000臆円の資本増強を行いました。 
 
 平成21 年3月期 決算概況について [1] 
 
前回に引き続きまして、「農協貯金」です。今回は、損失の構造を具体的に見ていきたいと思います。

一体、農協と農林中金に、いま何が起きているのだろうか? 
 
 「農林中央金庫(農林中金)が1兆9000億円の緊急増資」「理事長が辞任」—こんなニュースに、農家の間から「なにがあったんだ」と心配や不安の声があがっています。JAバンクの要、農林中金に、いったいなにが起こっているのでしょうか。問題点をさぐってみました。

 いま何が起きているのか 農林中金の巨額な増資(農民連から) [2] 
 
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アメリカ発の金融危機のなか

Q なぜ増資にいたったのでしょうか。

A それは、アメリカ発の金融危機のなか、表1のように証券運用で1兆9000億円を超える膨大な含み損を発生させたためです。 
 
 サブプライムローンで経営不振に陥ったアメリカの住宅金融2社の債権保有額は、国内でダントツの3兆5000億円(08年9月末)で、表2のように、農林中金はハイリスク・ハイリターン(利ざやも大きいが損失の危険も高い)というギャンブル性の高い有価証券に80%近くの資金を投じています。
 しかもその70%近くの21兆円が海外の証券です。そもそもこの資金は、全国の農協や漁協からの預け金で、しかも模範定款例で「余裕金の3分の2以上」を(農協から信連または農林中金へ)預けるよう義務付け、資金運用に制限が加えられているのです。

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ギャンブル性高い証券で大損 〜農協・信連から強引な資金調達〜 
 
農民・漁民からの大事な資金を 
 
Q 経営陣の責任が問われますね。 
 
A そのとおりです。全国の農民や漁民から預かった大切な資金をいわばギャンブルに手を出して失敗したのですから、その責任は重大です。しかも表2のように、農林漁業のために貸し出されている資金はわずかに6%で、60%以上が一般 企業向けになっています。
 理事長の上野博史氏はその責任をとって3月で辞任するそうですが、数億円と言われる退職金を返上するとか、そういう話は聞かれません。農林中金の理事長職は、上野氏を含めずっと農水省からの天下りです。そういう点で、農水省の責任も問われています。

厳しくカギをかけられた資金… 
 
Q 多額の増資になるわけですが、どのように調達するのですか。 
 
A 緊急増資は、農林中金への信連(都道府県にある信用農協連合会)や農協の預け金のなかから、振り替えて実施されますが、その名目は、「後配出資」か「劣後ローン」という2つの方法(注)で行われます。信連や農協にとっては、払い戻しが困難な、厳しく鍵をかけられた資金といえます。 
 
 また、すでに農林中金と統合して信連がない県や、証券運用で多額の損失を生じている信連もあります。静岡や広島、大阪などの信連では、300億円を超える評価差損を発生させています。また、経営難で250億円の資本投入で支援を受けている千葉県信連にまで239億円の出資が要請されており、なりふりかまわぬ「取り立て」といえます。 
 
(注)「後配出資」とは、配当を受ける権利が普通出資よりも劣るもの。「劣後ローン」とは、一般債権より支払い順位が後にされる融資で、会社更生法適用のさいには「まず返済される見込みがない」ものとされ、リスクが高いために利子は割高となるハイリスク・ハイリターンのローン。

資金調達にこまった農協では… 
 
Q 農協や農家組合員には、どんな影響がありますか。 
 
A 北海道信連では、07年度決算で290億円の損失を出したことから、いま会員農協に300億円の増資を呼びかけています。こうした時に、農林中金の増資でさらに出資しなければならなくなります。茨城県信連では、農林中金の増資に備えて、農協から借り入れて4年間で150億円の増資を行うそうです。 
 
 このように、農林中金の増資は信連へ、さらには農協へと及んでいます。このため、資金調達にこまった農協のなかには、農家が毎月キチンと決まった金額を返済しているにもかかわらず「すぐに残り全額を返せ」といった“貸しはがし”を強要している例もみられます。

経営陣は説明責任果たせ 〜農家にしわ寄せするな〜 
 
農林漁業発展のための融資こそ 
 
Q 今回の増資にあたっては、何が問われているのでしょうか。 
 
A 一つは、農林中金の経営責任をはっきりさせることです。そのために、農協や農家組合員にキチンと説明すべきです。二つ目は、増資を理由に、貸しはがし・貸し渋りなど農家にしわ寄せをさせないことです。 
 
 農林中金の設立目的は「農林水産業の発展に寄与し、国民経済の発展に資すること」(農林中金法1条)です。農家から集めた資金を余裕金として信連や農林中金に運用を任せるのではなく、農林漁業発展のための融資に力を注ぐなど、農協の信用事業を組合員が主役の事業に改めていくことが求められています。

今回の農林中金の増資は、強制的な増資であり、その額も1兆9000億円という天文学的な金額なため、単位農協が苦しくなるのは間違いなさそうです。 
 
実際、地方の農協では、経営が厳しく農林中金に預けた資金の運用益からの分配金で糊口を凌いでいた団体も少なくないと聞きます。 
 
今後数年間に渡って、末端の農協団体の経営体力が消耗していくことになるという事態の始まりなのです。 
 

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