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G20な国々⑬ フランス共和国

G20な国々シリーズ、今回はフランスです。

最近のフランス関係のニュースはこんなかんじ…。


・ファンド規制、欧州で綱引き EU案に英反発、仏独は強化主張(リンク [1]
・仏、パキスタンと原子力協力へ(リンク [2]
・ダライ・ラマ6月に訪仏へ パリ名誉市民に(リンク [3]
・仏、多国籍企業への課税体制強化 不正な利益移転排除(リンク [4]

 なんとなくフランスの多極化戦略が見えている気がします。


[5]
アラフォー世代のフランスのイメージといえばこんな感じですが…その実態は?


○基礎情報

1.人口 
約6,400万人(2008年、仏国立人口問題研究所)

2.面積
54万4,000平方キロメートル(仏本土、仏国立統計経済研究所)

3.宗教
カトリック、イスラム教、プロテスタント、ユダヤ教

4.経済概要

               2003年   2004年   2005年   2006年   2007年
GDP(10億ドル)      1,800     2,061    2,147     2,267    2,590
一人当たりGDP(ドル) 27,410    28,305    29,758     31,055   32,684
経済成長率(%)     1.1       2.5      1.9       2.2       2.2
物価上昇率(%)     2.2        2.3      1.9       1.9      1.6
失業率(%)      9.0        9.3        9.2        9.2       8.3

5.主要産業、産業の特徴
化学、機械、食品、繊維等
農業は西欧最大の規模
工業においては宇宙・航空産業、原子力産業などの先端産業が発達
伝統的産業も栄えている(ファッション等)

6.総貿易額
輸出:4,096億ユーロ、輸入:4,653億ユーロ(2008年)(仏経済産業雇用省)

7.主要貿易品目
輸出 電気機器、自動車、航空・宇宙機材
輸入 自動車、電気機器、電子部品

(外務省:リンク [6]


 フランスは国土の36%が農地であり、自給率122%にのぼるEU最大の農業国であると同時に、航空宇宙、自動車、原子力産業の発達した工業国であり、観光客入国数では世界一という大変マルチな国です。


 そんなフランスと日本の意外な繋がりに「柔道」があります。フランスの柔道人口は日本の3倍の60万人といわれており世界一です。

[7]
フランスの生んだ100㎏超級世界王者 テディ・リネール
19歳、身長204cm、体重129kg(あまりの悪ガキぶりに親が持て余して道場に放り込んだとか。こっ怖ひ…)

 柔道は子供に<礼儀><規律>を学ばせるものとしてフランスでは大変人気があるそうです。ちなみにあのプーチン首相も柔道の黒帯の持主で「私は子供のころ不良だった。柔道と出会っていなかったらどうなっていたかわからない」と言っています(彼の場合は街の不良でいてくれた方が日本のためにはありがたいような気もしますが)。


 さて、そんなフランスの実態を鋭く切り込んだ秀逸な記事がありますので紹介したいと思います。

『フランスの変身』2007.10.16  田中 宇 (リンク [8]


 フランスは20世紀はじめから、イギリスの好敵手として振る舞うことが国家戦略だった。正確には、イギリスが「国際社会」という舞台の大仕掛けを演出するために、好敵手としてのフランスを必要としており、フランスはイギリスの要請に応じて振る舞ってきた。
 ▼フランスはイギリスの「やらせの敵」
 裏表のある英仏関係を象徴する歴史的出来事の一つは、中東のオスマン・トルコ帝国を分割した1916年のサイクス・ピコ秘密協定である。この協定で、イギリスはパレスチナ(今のイスラエル、パレスチナ占領地、ヨルダン)を取り、フランスはシリアとレバノンを取った。中東では、フランスよりイギリスの影響力が強かったが、イギリスの外交官マーク・サイクスは、フランスの外交官ジョルジュ・ピコの老練な交渉術に負けて、シリアとレバノンという過分な広さの地域をフランスに取られてしまったことになっている。しかし、私が見るところ、この公式説明は信用できない。
 フランスは、海岸沿いのレバノンは欲しかったが、内陸のシリアは欲しがらず、シリアの中心地ダマスカスにフランス軍を派遣するのを面倒くさがった。イギリスは、一時はシリア領としてフランスにあげたモスル周辺(今のイラク北部)に大きな油田があることがわかると、船の燃料が石炭から石油に代わる時期に、モスルをフランスから取り戻し、英領イラクに組み入れている。こうした経緯を見ると、イギリスは中東支配を効率的に行うためにフランスを誘い、フランスはレバノンをもらえるので、受動的にイギリスの策略に呼応したのだと考えられる。
▼米英イスラエルに接近したサルコジ
 今年5月、フランス大統領に就任したニコラ・サルコジは、米英覇権の好敵手であり続けるという従来の国家戦略からの離脱をはっきり打ち出した。サルコジは、大統領就任前の選挙期間中から「親米」「親英」の方向性を表明し「米英流の経済合理化によって、フランス経済を強化する」という戦略を掲げた。大統領就任後は、休暇でアメリカを訪問し、ブッシュ大統領と親密な交際を展開した。
▼米英覇権衰退を見越したサルコジの親米英
 サルコジは、口では親米路線を表明しているが、アメリカのためにフランスの従来方針を変えることはしていない。たとえばアメリカは以前からフランスに、農業補助金を減らせ(アメリカの農業産品の輸入を増やせ)と要求し続けているが、サルコジは自国の農業補助金の維持を早くから表明し、EU市場の対外開放を抑制しようとしている。
 サルコジは「米英の市場原理主義はすばらしい」と言いつつも、その一方で、仏・独・英などの企業の合弁で旅客機を作っているエアバス社の態勢を、従来より国家統制(反市場原理)の方向に転換させようとしている。今年6月、サルコジはドイツのメルケル首相に、独仏政府でエアバスの運営を考える会議を開こうと提案し、メルケルに「ドイツでエアバスに経営参加しているのは政府ではなく、民間企業であるダイムラー社なので、政府の出る幕ではない」と断られている。
▼ビルダーバーグの代わりに欧州賢人会議
 サルコジは、NATOの軍事部門に41年ぶりに復帰する意志も表明しているが、これも、アメリカの覇権衰退によって、NATOがアメリカ中心・欧州従属の同盟体制から、米欧対等の同盟へと変質し、もしかするとNATOからEU統合軍が離脱していくかもしれないという今後の状況下で、フランスの発言権を確保したいという思惑に違いない。
 サルコジはまた、G8について「中国、メキシコ、ブラジル、インドをG8に入れてG13にすべきだ」と主張している。今の米英中心のG8を、中国やロシア、ブラジルなど「非米諸国」の力が強い多極主義的な国際意志決定組織にすることを容認している。フランスは、欧米中心主義から多極主義への世界体制の転換をはっきり容認するようになった。
                  (一部抜粋)




 イギリスとは昔から仲が悪く、アメリカの言うことにいちいちイチャモンを付けずにはいられない皮肉屋というフランスのイメージが、実は全て計算されつくされたものだというのは驚きです。


 しかし、元々イギリスとフランスの王族は親戚のようなものであり、領土も取ったり取られたりの繰り返し。(12世紀初頭にはフランスのボルドー地方が相続の関係でイギリスに編入、航海技術に長けたイギリスがフランス中のワインをボルドー港から輸出しまくったおかげでボルドーワインは一大ブランドの地位を築いた。その後百年戦争でジャンヌダルクが活躍しフランス領に復帰。イギリスを追い出したフランスは、ボルドーワインは世界一ぃぃっ〜と自慢のタネに…。)

 フランスのしたたかさは筋金入りです。


○NATO(北大西洋条約機構)への復帰リンク [9]) フランスは1966年にNATOの軍事機構から離脱した(政治機構には継続して加盟)。1992年に軍事委員会への復帰を表明、1995年にはシラク大統領が軍事機構への復帰も示唆したが、実現しなかった。しかし、親米路線を強調するサルコジ大統領は2007年11月に再び復帰を示唆し、2008年6月にNATO創設60周年(2009年4月)に合わせて復帰するとし、2009年4月4日の首脳会議で、NATO軍事機構への43年ぶりの完全復帰を宣言した。
○ブレア元英国首相をヨーロッパの大統領へ後押し 02/09/2009(リンク [10]
 イギリスのトニーブレア元首相がヨーロッパの大統領に?
フランスのサルコジ大統領がトニーブレア元英国首相を、来年ヨーロッパの大統領にするようにプッシュをしている。



 今後、多極化へ向う世界の中でEUが一つの極となりそうですが、その中でフランスがどのような動きを見せるのか、目が離せない国であることは間違いなさそうです。

[11] [12] [13]