- 金貸しは、国家を相手に金を貸す - http://www.kanekashi.com/blog -

食糧自立への道を探る8.米国農業が生み出したモンスター

米国農業法の成立は、大恐慌後の1934年。農業経営を安定化させ、巨大な農産物輸出力を確立して、75年が経過する。 
 
この75年の米国農業の歴史が、巨大な穀物メジャー、種子独占企業というモンスター企業を生み出した。 
 
今回は、『自殺する種子—アグロバイオ企業が食を支配する—』(安田節子著、平凡社新書、2009年6月刊)を手掛かりにして、アグロバイオ企業の欺瞞に迫ります。 
今回のキーワードはターミネータ・テクノロジーです。 
 
    GMO01.bmp
    (写真解説は不要ですね 😀 但し、シュワちゃん の加州財政破綻は注目)

ターミネータ・テクノロジーは、種子に致死性タンパク質を作る遺伝子を組み込む技術。
1世代目は播くと成長して収穫できるが、2世代目はこの遺伝子が発現し致死性タンパク質を生成し、種子の成長を阻止する技術。つまり、2年目は、収穫不能となる技術。
この技術により遺伝子組換え作物の種子は、自家採種ができない。つまり、遺伝子組換え種子を、毎年、種子企業から購入することになる。
アグロバイオ企業(代表企業はモンサント社)は、遺伝子組換え種子が、一人歩きをしない為に、この技術を開発した。

本文に行く前にクリックを! 
 
   
 


1.米国政府は、利益追求のモンスター(種子独占企業、巨大農場、穀物メジャー)を支援 
 
大恐慌後の農業法は、当時中心であった小規模自営農家を救済する為に始まりました。
しかし、市場原理に委ねられた結果、米国農業は、大企業と巨大農場が、全てを決定する構造に行き着いてしまいました。 
政府・連邦農務省の予算の多くは、現在、これらの大企業・巨大農場への支援となっています。 
 
①研究開発支援/知的所有権保護 → 種子独占企業/知的所有権で種子ビジネスを独占
②農業法に基づく補助金 → 巨大農場を益々拡大させる
③河川運搬施設を建設管理 → 穀物メジャー/運搬施設を利用し、河川流通網を独占
 
 
そして、種子独占企業は、世界の諸国・農業者に対して、「知的所有権による恫喝と遺伝子組換え種子普及による囲いこみ」を進めています。
また、穀物メジャーは、世界の諸国に、安い価格で食料輸出を行うことで、その国の伝統農業を破壊して来ました。 
まさに、世界の食料を支配しているのです。
  GMO02.bmp
③穀物メジャーについては、食料価格高騰はなぜおこるの?その5穀物メジャーって? [1]を参考にして頂いて、②巨大農場への転換、①種子独占企業を扱います。 
 
2.家族農業・小規模農場が衰退し、巨大農場が主流になる 
 
米国の2007年農業センサスによると、2007年の総農家数は、220万戸でした。 
年間の農畜産物販売額が25万ドル(約2500万円)以上の農家は、一般的に大規模農家(農場)と呼ばれています。この25万ドル以上の農家は、戸数で21万戸(全農家数の29%)ですが、全米販売総額の85%を占めています。
そして、100万ドル(約1億円)以上販売の超大規模農家(農場)は、5.7万戸(農家総数の2.6%)に過ぎないのですが、全米販売総額の59%を占めています。 
 
3%の巨大農場が、農業生産の6割を担っているというように、巨大農場への寡占化が進んでいるのです。

米国の農場数は、1935年の680万戸をピークとして年々減少を続け、2006年においては、209万戸とピーク時から70%も減少しています。とくに小規模な家族農家が減少し、その分規模拡大が進みました。そしていまや米国の農地面積の半分、また販売額の半分を占めるようになったのが、部分借地あるいは全農地借地で単一作物生産する大規模農場なのです。そこでは農場労働者が農作業を行い、農場主である経営者は、オフィスでシカゴの穀物相場をにらみ売り時を探ることや、政府補助金の調達などを主な仕事としています。地域コミュニティに根ざした小規模な家族農家は激減してしまいました。

『自殺する種子』より 
 
なお、この巨大農場の農地面積は、概ね、2500エーカー(約1000ヘクタール)以上です。 
 
3.農業の喉元を押さえていく、アグロバイオ企業(種子独占企業) 
 
1990年代のバイオテクノロジーにより、遺伝子操作を施した『種子』が登場します。遺伝子操作により、多収量の種子、農薬に強い種子、害虫に強い種子の開発競争が始まりました。
その開発競争の中から、化学会社であるモンサント社、デュポン社が、巨大な種子会社に変貌しました。 
 
  ◆世界の種子会社トップ10(2006年) 
  GMO04003.bmp  出典:『自殺する種子』 
 
トップ企業のモンサント社は、農薬メーカーです。代表的な農薬は、除草剤の『ラウンドアップ』。その除草剤『ラウンドアップ』に強い、遺伝子組換え種子を開発します。
農家は、除草剤『ラウンドアップ』を農場に撒き、全ての雑草の発芽を抑えた上で、『ラウンドアップ』に強い遺伝子組換え種子を播き、その作物だけを発芽・生育させます。 
モンサント社にとっては、除草剤『ラウンドアップ』と『遺伝子組換え種子』がセットで売れる訳です。 
 
米国農業は、1年に一つの作物だけを何百ヘクタールと栽培します。大規模モノカルチャー農業です。
大規模農業は機械化による超省力化農業ですので、除草剤と遺伝子組換え種子の組み合わせという省力化を追及します。その結果、巨大農場が一斉に遺伝子組換え種子を採用して行きました。
米国での遺伝子組換え種子の利用は、大豆では9割以上、とうもろこしで6割〜7割、ワタで8割程度まで高まっています。(世界全体の利用率からの推定ですが。) 
 
遺伝子組換え種子は、やはり『種子』ですから、次の季節に播けば、立派に発芽します。
アグロバイオ企業は、農家による『遺伝子組換え種子』の繰り返し栽培に対し、特許権(知的所有権)の侵害だと主張し、農家の訴訟まで行っています。
 
 
しかし、全ての農家を監視する訳には行きませんので、冒頭のターミネータ・テクノロジーの登場です。 
ターミネータ・テクノロジーを組み込んだ『遺伝子組換え種子』で、毎年、アグロバイオ企業から、必ず、種子を購入させようとするのです。 
 
さすがに、世界中の農業者から、『次世代を作らない欠陥種子』、『種子(自然)への冒涜』との批判を受け、モンサント社は、「食用作物」には、このターミネータ・テクノロジーは使用しないと表明しました。まずは、食用作物でない『ワタ』からということです。 
 
(参考)アグロバイオ企業、穀物メジャーの巨額な売上と利益 
 
最後に、アグロバイオ企業(種子独占企業)のトップ・モンサント社と穀物メジャートップのカーギル社の、モンスターぶりをみてみます。 
 
モンサント社は、1995〜2000年に50社余りの世界の種子会社を買収しています。そして、2005年に、世界最大の果実・野菜の種苗会社であるセミニス社を14億ドル(1400臆円)で買収し、世界トップ種子会社になっています。
モンサント社の2008年度(2007年9月〜2008年8月)の売上規模は、07年度比36%増の114億ドル(約1.2兆円)です。利益は、07年度の2倍の20億ドル(約2000億円)です。
売上構成は、種子/64億ドル、農薬/41億ドル、その他9億ドルです。 
カーギル社の2008年度(2007年6月〜2008年5月)の売上は、07年度比36%増の1204億ドル(約12兆円)、利益は39.5億ドル(約3950億円)です。 
 
日本最大の製粉企業である日清製粉Gの2008年度の売上は、4666臆円、経常利益は246臆円です。また、食品大手である菱食の2008年度売上は、1兆4000臆円、経常利益はわずか82臆円に過ぎません。 
 
米国のアグリバイオ企業、穀物メジャーが、如何にすごいモンスターか分かりますね。 
 
世界の国々、小規模農業者・伝統農業は、この米国巨大企業(モンスター)の横暴に対して、反撃しなければなりません。 
 
 参考サイト 
 
 2007年米国農業センサス関係
 リンク [2] 
 
 遺伝子組換え種子の栽培状況(モンスター・モンサント社の頁ですが)
 世界での作付け面積 [3] 
 

[4] [5] [6]