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政府紙幣の可能性を探る 〜丹羽春喜氏の主張を検証する〜

政府紙幣の可能性を探る為、これまで金利や為替の仕組み等を追求してきました。
今回は、世間で取上げられている政府紙幣に関する議論の中で、大阪学院大学教授の丹羽春喜氏の主張に注目し、検証してみたいと思います。
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昭和天皇御在位60年記念10万円金貨
(画像は寺嶋コイン [1]様のHPからお借りしました)
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長野オリンピック記念1万円金貨
(画像はおたからや [2]様のHPからお借りしました)
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「カネがなければ刷りなさい」−ケインズも説いた救国の超ウラ技 ケチな減税より国民ボーナスを(「諸君」1998年5月号より)を参照させていただきました。(リンク) [3]
丹羽春喜氏の主張を簡単に要約すると、

①デフレ不況と膨大な国家債務を抱える今の日本においては、国内の総需要不足が最大の原因で、緊縮財政を実施する事は、さらに総需要を減らすことになる。
②思い切った財政出動による大規模な内需拡大政策の断行が必要で、国家債務が足枷となって二の足を踏むくらいなら、国家債務とはならない「政府紙幣」を発行すればよい。
③国民に「臨時ボーナス」を支給する事で、総需要を増加させる事が出来る。
④現在の日本は、需要が不足して実質生産が生産能力を大きく下回っている状態(その差をデフレギャ
ップと呼ぶ)にあり、この眠っている生産能力の余裕が、政府紙幣発行の裏づけとなる。また、デフレギャップを生じている間は、インフレを生じない。
⑤現在流通している日銀券と、新たに発行される政府紙幣の、通貨の両建ての問題は、技術的な応用問題としていくらでも解決できる。

この中で③の財政出動により総需要を増加させるという点については、1998年以降の国債発行による大幅な財政出動を行なっても、デフレ状況は解消されず、総需要の延びには繋がらなかった今の状況を見れば、効果は薄いと考えざるを得ません。
また、④についても、生産能力の余裕があるかどうかという問題よりも、物が欲しいという意識があるかどうかという問題の方が大きく、品目によってこの意識に差が生じていれば、部分的なインフレを引き起こす可能性は残るのではないでしょうか?
例えば、余剰資金が土地などの投機に流れた場合、再びバブルを引き起こす事も考えられます。
⑤については、二つの紙幣が流通するという混乱を避ける方法として、ユニークな案を丹羽氏は提案されています。
それは、政府が持つ「貨幣発行特権」(現在流通している硬貨は国が発行しています。この発行特権には、発行量の上限がありません)を使って、例えば50兆円分とか100兆円分の発行権を日銀に売り、日銀はその権利を担保にして日銀券を発行するという方法です。

(例)政府が100兆円分の発行権を日銀に売る。
  →日銀から政府の口座に電子マネーで100兆円を振り込む。
  →この電子マネーを使って、財政投資先の銀行口座に振り込む。
  →銀行に振り込まれた電子マネーは、日銀と民間銀行の間で日銀券に交換されて市中へ供給される。

この方法は、政府紙幣という現物を刷らなくてもよく、既存の日銀券を流通させるだけで済むので、国民生活に混乱を与える事はありません。
また、国債を発行せずに財源が確保できますから、負債を作らずに借金を返済する事も可能になります。
非常に面白い案だと思います。
これらの事を総合して考えると、物欲自体が衰弱した現在の日本では、金さえあれば物を買うという需要側の論理は成り立たず、どこにどういう目的で金を使うかという供給側の論理が必要なのではないでしょうか?
また、国家債務という足枷によって、国民生活にとって本当に必要なところに必要なだけの資金が供給されないという壁を打ち崩すにはどうすればよいかという視点で、政府紙幣やそれに代わる手法を見ていく必要があると思います。

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