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世界経済破局への長い序章? 6.天然ガスのアジア(中国)売り込みに追詰められたロシア

このシリーズでは以下のようなテーマを扱ってきました。 
 
1.ドバイ破綻の背後にある暗闘
2.次の弱い環はFDIC(連邦預金保険公社)か
3.ギリシャ危機=欧州通貨ユーロの危機
4.米国連邦政府、毎月法案審議で自転車操業中
5.中国2010年経済予測〜資産バブルの行方は? 
 
今回はロシアの’09年天然ガス事情を紹介します。

通貨危機の1998年より辛かった2009年
 
 
ロシアで世論調査を実施している大手民間調査会社のレワダ・センターはロシア国民が2009年をどのように見ているかという調査結果を12月末に公表しました。
最近の12年間では2009年が「一番大変な年」と答えた人の割合が最も多く、20%にも達したそうです。これに対して、ルーブル危機が起きた1998年を「一番大変な年」として位置づけた人の割合は12%にとどまり、調査関係者を驚かす結果となったようです。確かに、2009年はウクライナとの天然ガス紛争で東ヨーロッパ中が震え上がったことに始まり、シベリアでの大きな水力発電所事故、モスクワ〜サンクトペテルブルグ間の幹線鉄道のテロ爆破事件など大変な事件がいくつも起こった年でした。 
 
ロシア経済の復興でいったんは所得が10倍にも膨らんでいました。中流階級の層が急速に拡大、1バレル147ドルにまで高騰した石油価格のバブルに沸いていた2008年7月までの「豊かな生活」の記憶があまりに鮮明でした。それが一転、経済が大きく落ち込みました。その落差に愕然としているロシア人の姿が目に浮かびます。

以上、JB PRESSより抜粋引用させていただきました。リンク [1] 
 
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’09年1月5日、ウクライナの首都キエフ近くの村にあるガス輸送施設で、圧力がゼロになっていることを示す計器(ロイター=共同)
この写真は天然ガスの買手が着かないただのパイプ、ロシアの天然ガス政策の将来を暗示しているようにも見えます。
 
憂さ晴らしにウォッカを一杯グイッとあおりたいロシア市民の気持ちも良くわかります。 
 
本文を読む前に、クリックをおねがいします!

 
 


資源の国際価格に左右されるロシア経済 
 
’08年9月のサブプライム問題を端に発した世界金融破綻の影響で燃料資源需要が急激に冷え込み、株価市場(RTS)の被害は著しく、2008年5月から2009年6月にかけて、時価総額は40%弱減少しました。その背景には内外需要と設備投資の大幅な減少があります。2008年1月〜2009年9月の資本収支(対内・対外投資収支)はマイナス1600億ドルにまで達しました。 
 
石油売上状況では、’09年第2四半期に石油関連企業が復調を示した後、第3四半期におけるガスプロム・ネフチの売上高は、前期比37%増の70億ドルとなりましたが(前期は52億6900万ドル)、前年同期と比較すると、34.5%下回る結果となっています。 
 
このように、ロシア経済は石油や天然ガスの市場価格変動に大きく影響を受ける燃料資源頼みの状況に置かれています。技術革新をベースとした経済構造変革を旗印にしていますが、簡単にこの資源頼みの状況が変わるとは思えません。 
 
さて、年があけてこの’10年 ロシア経済状況の見通しはどうなるのでしょうか? 
 
ここで、資源頼みロシア経済の近未来を見るために世界一の埋蔵量を誇る
天然ガス市場に焦点を当ててみます。 
 
以下はJOGMEC 調査部:本村真澄氏—ロシア:2009 年、ロシアの天然ガス輸出は大幅減—LNG 指向は更に強まる—から抜粋引用させていただきます。リンク [1]

1.ロシアの天然ガス輸出は大幅減—LNG 指向は更に強まる 
 
ロシアの2009 年上半期の天然ガス生産量は対前年同期比20.8%減の2,740 億m3 と大きく下落し、天然ガス輸出量は対前年同期比39%減の812 億m3 となっている。2009 年に入ってロシアの天然ガス生産が20%も減退するという、ソ連時代からの天然ガス開発の歴史にもなかった現象が起こっている。これは、既往ガス田の減退といった地質学的な理由によるものではなく、主として国内および欧州・CIS における需要減、つまり「天然ガスが売れない」というのが実態である。 
 
その原因についてロシア経済発展省は以下の4点を挙げていた。
① 国内市場での電力・工業分野での需要低下
②冬場の暖冬による民生需要減
③2009 年1 月前半の対ウクライナ天然ガス供給停止による輸出減
④2008 年9 月以降の世界的な経済危機による需要減
更に、需要減についてその後の動向を加えるならば、
⑤ロシアから欧州への天然ガス輸出価格が石油製品連動であることから、原油価格に約半年遅れで追随して下落すると見込まれることによるガスの「買い控え」の影響が大きいと思われる。 
 
欧州向けの80%の水準に設定されていたウクライナ向けガス価格は第1四半期$360/1,000 m3であったものが、第2四半期には$270-280/1,000m3 へと25%急落している。実際に欧州市場では、以下のような対応が取られていた。 
 
⑤−1 「買い控え」のために夏までは備蓄ガスを優先使用。
⑤−2 Take or Pay 条項の抵触しないぎりぎりまで(場合によっては適用を受けてペナルティを支払ってでも)輸入量を減らし、より安価となるスポットLNG を優先使用。

欧州への天然ガス供給で立場が逆転したロシア 
 
ロシアの天然ガス政策はこのような市場の変化に対応しなければならない局面に立たされています。ロシアは2003年〜2008年の間、ガスの元栓を握って強気を押し通し、言い値で購入しないのならば強制的に供給停止するぞと恫喝を加えながら価格引き上げをおこない、外貨を獲得してきました。かくして、ロシア経済のGDPはウナギ登りの高成長を果たせたのですが、’09年を境にして、(特に欧州においては)どうも殿様商売が成立しなくなってきているようです。

2.ロシア天然ガス生産の実態 
 
2009 年の天然ガス生産の急落(図1) 
 
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2009 年の1 月から4 月までは、15%〜18%の減退率であったものが、5 月以降は21〜22%と更に拡大し、ガス販売はより低迷することになった。 
 
3.ロシアからの天然ガス輸出と欧州における天然ガスの需要減 
2009 年の上半期のロシア天然ガス輸出(Interfax 2009/7/21)単位10億m3(表1)
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欧州各国の需要減は、2008 年9 月以降の世界的な経済危機によるものである。2009 年上半期の欧州の天然ガス需要減の状況を(図4)に示す。
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(表1)によれば、今年上半期のCIS 以外の欧州への輸出は32%減と、(図4)に見る欧州主要国の需要減に遙かに上回る状況となっている。これは、2009 年を通じて天然ガス価格が下落することを見越して備蓄ガスを優先使用したこと、そして更に長期契約のパイプライン・ガスを遙かに下回る価格となったスポットLNG を積極的に導入したことによるものと思われる。・・・
これらのLNG は主にノルウェーとカタールからのものであるが、その価格は石油製品連動長期契約によるパイプライン・ガスによるものの半額と言われている。

欧州の天然ガス戦略 
 
08年9月のリーマンショックによるEU(ドイツ以東)の景気急降下による天然ガス需要減少からロシアの天然ガス輸出が大幅に減少しました。EUは、より巧妙に高価格の天然ガス買い取りを抑制し、備蓄でしのぐ方策を執ったのです。また、半額ともいわれる底価格のノルウェイ産のスポットLNGの調達を積極的におこない、ロシア産天然ガス価格の下落を待ったということです。 
 
ロシア経済の低迷
世界経済が低迷する状況の中、実質GDP成長率
中国8.5
インド5.4
ブラジル▼0.7
ロシア▼7.5 
 
ブラジルがやや低調ですが、BICs諸国が健闘する中、ロシアの落ち込みは顕著となっています。ロシア経済が、いかに資源頼み(他人まかせ?)であるかを窺い知ることができます。 
 
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4.ロシアの新しい天然ガス政策 
 
ロシアが、天然ガス販売において長期契約に固執し変化を望まない様子は、あたかもサウジアラビアが石油戦略を変えようとしない姿勢に酷似していると批判されてきた。しかし、実態は長期契約を基本とする政策は維持しつつも、2000年代に入ってからはLNG事業への進展と、パイプラインの東方展開の2点が掲げられ、着実に多角化が図られてきた。今回の需要急落という事態を受け、このような新政策はより必要性を高めており、より強力なLNG シフト、パイプライン市場の拡大が進められるものと思われる。

欧州に痛めつけられたロシアは、中国に向けた天然ガス供給の動きを加速しています。

5.中国市場への接近
2009 年6 月24 日に、ガスプロムとCNPC との間で「天然ガス部門における協力関係の覚書」が交わされ、これを受けて、10 月12 日から14 日にかけて、プーチン首相は北京を訪問し、温家宝首相とガス案件を含め34 件の経済案件に署名した。・・・ 
 
ガスプロムとCNPC が中国向けガス供給契約の主要条件に係る合意書を締結し、露中両国の首相が出席する中、両社の社長がそれぞれ署名を行った。Gazprom 社長Alexei Miller によれば、同合意書では、西シベリアから供給される西ルートおよび極東・東シベリア、サハリン大陸棚から供給される東ルート(図7)が示されており、両ルートを経由した総ガス供給量は約700億m3/年(西ルート:300億m3/年および東ルート:380 億m3/年)となり、正確な供給量は契約書の締結を待って規定されることになる。%E5%A4%A9%E7%84%B6%E3%82%AC%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3.bmp

今のところ、中国もロシアとの天然ガス供給交渉は前向きに取り組んでいるようですが、肝心のガス供給価格については決着していません。ここ数年の間は、燃料資源価格の動向によってロシア経済の浮き沈みが左右される傾向に歯止めをかける事は難しい局面のようです。 
 
余談ですが、年明け早々にメドベージェフ大統領はウォッカの値段を2倍に値上げするという政策を打ちあげました。表向きは市民の健康を守るということが値上げ政策の理由となっているようですが、ウォッカ好きのロシア市民にとっては踏んだり蹴ったりの状況です。 
 

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