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GDP信仰からの脱却15〜現在のGDPはどこまで下がるのか?

前回 [1]までの記事で、GDPに代わる新たな指標は「共認原理社会の実現度(全員参加型社会の成熟度)」を示す指標ではないか、という提起を行った。おそらく、フランスや民主党が着目している「国民幸福度」なる指標よりも、実現すれば人々の活力に繋がるものになるだろう。これは現在のマスコミや官僚など統合階級の役割を奪うものだから、一筋縄では実現しないという壁も一方であるが、長期的には不可避な時代の流れだ。
では、翻って現在のGDPは、一体どうなっていくのだろうか?
今回は、リーマンショックの起きた2008年末の「なんでや劇場」で使われた資料を参考に、これを考えてみたい。
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●長期的なGDPと就業人口の推移
下のグラフは、1955年から2005年の間の、産業別就業人口比率の推移を示したグラフである。各年の下に実質GDPの推移も併記してある。戦後、農林水産業の就業人口が急速に減少し、第2次、そして第3次産業が取って代わったのが一目瞭然だ。

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最新の実質GDPは約500兆円だが、50年前には、なんと一桁も少ない52兆円に過ぎなかった。そして、高度経済成長がほぼ終わった1975年で現在の半分強の230兆円、プラザ合意から日本中がバブルに染まり始めた1985年でも365兆円と現在より3割も小さい。あの時代から現在が3割も豊かな時代だとはどうも実感が沸かない。
●金融危機でGDPは何年代まで戻るか?
次の円グラフは、リーマンショックに始まる世界金融危機(現在はソブリン・リスクの形でくすぶっている)によって、日本のGDPがどのように萎み、失業がどのぐらい増えるのか、GDPが全体で1980年レベルまで落ち込むと仮定して試算したものだ。
試算方法は、産業別にGDPの縮小率を仮定し、失業はその4分の1の比率で縮小するものと仮定されている(つまり給与が3分の2に下がるということ)。百貨店の倒産など、現在でも縮小が最も著しい販売・飲食が50%(!)の縮小、建設・金融・エネルギーが20%の縮小、減らしにくい医療・教育・公務が3%の縮小、そして、農業は逆に10%拡大と仮定し、全体でGDPは32%縮小、失業率は11%となる。
1980年代レベル

GDP-level1980.gif

ちなみに、2008年末のなんでや劇場では、経済が1970年レベル、1960年レベルに縮小した場合も試算され、1970年レベルでGDP縮小40%、失業率15%、1960年レベルでGDP47%、失業率20%となった。
●1980年レベルの暮らしぶりって?
さて、現在から実質GDPが3割縮小すると1980年のレベルになるわけだが、この頃の暮らしぶりとはどの程度のものだっただろうか?
筆者は当時中学3年生だったが、パソコン・インターネットと携帯電話は無く、音楽はCDやi−PODではなくレコード、ビデオデッキはまだ高価で、全ての家庭にあるというものではなかった。そして、様々な家電製品の機能やデザインは今ほど華やかではなかったが、それ以外は、現在と比べて大した違いがあるという印象は無い。
当時、海外旅行はまだ高価な娯楽という感じで、ハワイやニューヨークに憧れる人間も多かった(バブル期にそれが爆発した)けれど、今や海外旅行もそれほど魅力的なものではない。無論、生活が苦しい、などという感じはまったく無かった。
要するに消費者生活的には、GDP3割縮小の暮らしとは、現在より多少モノが減る、あるいは長持ちさせないといけない、というだけで、十分やっていける世界なのだ。
問題は「仕事」だ。1980年代はまだそれら家電製品や建設需要、旅行など伸びている消費に応える仕事で暮らしを立てていたが、それらは今後は最小限に縮小される。
だから必要なのは、豊かさ追求の時代の仕事に代わる「新しい仕事」なのであり、それが無いと、上記のように失業11%となる。逆に言えば、その新しい仕事さえ潤沢に確保できるなら、GDPは3割縮小しても全く平気だということだ。

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