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地域通貨と結びついた電子マネー

 前回は電子マネー事業に行政が加わっている事例(「行政が取り組む電子マネー」 [1])を紹介しましたが、今回は地域通貨として電子マネーが利用されている例を紹介します。
 地域通貨とは、国全体で共通して使われている法定通貨に対して、限られた地域内でのみ流通する通貨のことを指します。
 主に、互いに助けられ支え合うサービスや行為を時間や点数、紙幣などにおきかえ、これを通貨として財やサービスと交換するといったシステムを通じて、地域の活性化に役立てられています。
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「Kameno’s Digital Photo Log」 [2]さんからお借りしました。)
 地域通貨は様々な国で取り入れられていて、その数は世界中で3000以上あるといわれています。
 その中でも今回は、世界初の地域通貨といわれる「LETS」を取り上げて見たいと思います。
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■LETS(Local Exchange Trading System)
 LETSとは、地域交換交易システムの略称で、カナダのバンクーバー島にあるコモックスバレーというところで、1983年から実施されたシステムがその原型です。
 1981年から82年にかけて、カナダは深刻な不況に陥いりました。利息は公定レートで14%、ハウス・ローンで18%というインフレで、とくにコモックスバレーはカナダのバクーバー島にある人口約五万人程の田舎だから都会よりもより一層状況が悪くて、どこを向いてもお金がないという状態でした。
 お金がないのだったら、お金をつくってしまえばよい。
 LETSの発案者であるマイケル・リントンは、周りの仲間に呼びかけ、お互いが提供できることをリストにし、それらを交換し合うことで、不況の中でも互いの生活を支え合うことができるような相互扶助のしくみを立ち上げました。
<LETSの考え方>
①登録した会員が自分名義の口座を開設してゼロ勘定からスタート。
②事務局が定期的に会報やインターネットのホームページで誰がどのような財やサービスを提供できるか、また、誰がどのような財やサービスを求めているのかを会員に知らせる。
③各会員はその情報をみて、欲しいものがあれば相手に連絡を取り、価格などの条件を交渉する。
④取引が成立すれば、その結果を運営団体に報告し、各会員の口座に記録される。
(会員には定期的に口座の収支が報告される)
⑤口座残高に利子はつかない。(無利子の原則)
⑥LETSの付帯サービス事業の非営利的コストは、利用者が利用程度に応じて平等に負担する。
⑦口座保有者は登記人に照会することで、他の口座保有者の口座残高や取引実績について知ることができる。
⑧原則として現金と交換することはできず、LETS勘定の付け替えによって流通する。

<創始者:マイケル・リントン>
 1945年スコットランド生まれ。カナダ在住。
 大学で物理、経営、教育を学んだ後、工事現場、漁師、運転手、スキー・インストラクターなどの職を転々としてきたが、コンピューター・コンサルタントを仕事としているときにLETSを発案した。

 しかし、コモックスバレーのLETSは、コスト問題などにより1988年には運用停止となりました。リントンはこの失敗の原因を、事業者の参加の欠如であると考え、LETSの考え方を発展させた「コミュニティウェイ」というシステム考案し、運用を開始しました。
 2009年では、参加事業者38、参加者約300人、流通量は約8万コミュニティウェイドルと言われています。
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「新しい経済活動を伴う地域経済の活性化に関する研究会」 [3]報告書(平成16年3月)より引用させていただきました。
 LETSの考え方は90年代にイギリス、オーストラリア、ニュージーランド等で急速に普及し、その後世界各国に広がりました。日本でも実施されています。
■LETSの考え方を応用した日本の事例「ピーナッツ」
 NPO法人千葉まちづくりサポートセンターが運営する「ピーナッツ」は、1999年からゆりの木商店街周辺を中心に広まり、平成15年時点で参加事業者約60、参加者約580人の規模まで拡大しています。
 当初は「大福帳」とよばれるものに記載する通帳方式をとっていましたが、現在ではインターネットを使った電子マネー方式で運用されています。
 具体的なやり取りの例を、NPO法人千葉まちづくりサポートセンターからピーナッツ運営部門として独立した「㈱みんなのまち」 [4]のホームページから、抜粋して紹介させていただきます。

 シャンプーと顔そりエステなどに1時間あまり。全部で合計 6,300円。現金5,985円と消費税299円、それと315Pea(Pea:ピーナッツの単位) を支払いました。
 このお店は表示価格の5%をPeaで受け取ってくれます。(6,300-315)×1.05円+315Pea=今日の支払い。
 お店の若いスタッフと私とで、相手の交換リングに取引内容(サービスの中味、金額等)を書きあってサインをするのですが、クレジットカードで買い物をした時の事務的なサインとは全然感じが違います。
 サービスを受けた方と提供した方とが、内容と金額を一緒にチェックする作業から、連帯感というか信頼感というか何かしら豊かな和やかな気持ちになりました。これは予期しないことでした。
 そして極めつけが、すべて終了後のアミーゴ!と声をかけあいながらの握手。これが必須業務(!)だそうで、聞いた時はびっくりしたけれど、4人のスタッフと次々に握手をしてアミーゴ!アミーゴ!の声が店内に響き渡りました。(居合わせたお客もさぞ驚いたことでしょう)
 会長さんと店長さん以外のスタッフは照れていたけれど、なかなか楽しく盛り上がりました。

 農家が台風被害で泣いた時には、普通は時給1000peaですがお見舞い相場で一日2000peaで延べ50人ものメンバーが片付けに行きました。
 私の家では大体15品目入っているピーナッツボックスと称するみかん箱程度の箱で有機無農薬野菜を宅配してもらっています。1割ピーナッツ払いです。地域循環型農業が成立します。
 散髪屋さんでは、出張理容や送迎サービスを1000peaでやっています。

 「ピーナッツ」のシステムを考案された、㈱みんなのまち代表取締役社長の村山和彦さんは、地域経済活力を測る指標は円の取引累計を時間で除した係数地域のコミュニティの活力を測る指標は助け合いも含めてピーナッツの取引累計を時間で除した係数だとおっしゃっています。

 ある村で観光客に対して1000円の親子丼を売っているとします。原価は600円とします。
 この村ではお米もとれるし、卵も鶏肉も玉葱もできます。原材料を村内で調達するために300円分のピーナッツを巡回タグとして付けます。
 原価300円+300pでできた親子丼を1000円で売れば地域には700円が入ります。600円かけて1000円で売るよりも、そのほうがより確実に村に円が入ります。
 キッコーマンの原材料は殆ど全部輸入ものです。北海道の千歳工場だけは道産の麦を使っています。
 ここにブッシェル(仮名)という地域通貨を作って麦を道農協から買ったとしましょう。そのかわり農協に醤油をブッシェルで卸します。
 結果的に物々交換ですが、千歳工場の醤油の円原価が下がります。資金調達も軽くなります。その醤油を本州に持ってきて一般の価格で売れば、それだけ確実に北海道には円が入ります。
 大企業でも地域通貨利用の可能性はありますし、国産原材料を使用することで市民の要求している遺伝子操作の無い国産農産物利用の道が広がります。
 結果として食料の自給率を上げることができます。おまけにこのブッシェルの流通は道内の他分野に広がります。

■地域通貨と結びついた電子マネーとは?
 LETSの考え方や、それを応用した「ピーナッツ」の事例から、地域通貨と結びついた電子マネーと、一般に流通する紙幣や硬貨といった法定通貨に対する認識の違いを考えて見ると、以下のようなことがあげられると思います。

・お金は必要に応じて発行される。
・負債はコミュニティへの依存度を表すだけで、次にコミュニティへ提供できるものは何かを考えるきっかけをもたらす。
・人と物ではなく、人と人を結びつける媒介となっている。

 これらのことから、地域通貨と結びついた電子マネーは、今ある「お金」というものに対する認識の転換を促すものであり、裏返せば、その認識転換なしには地域通貨と法定通貨の位置付けや共存を可能にすることはできないということがいえるのではないでしょうか。

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