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日本の税システムを考える−8 一般取引税で社会が変わる!?(1)

前回の「世界のおもしろ税」 [1]記事は楽しんで頂けましたでしょうか? 😀
びっくりな税金ばかりでしたが、今後も機会を見つけては連載したいと思います。
ご期待下さい!
さて、今回からはブログ界で提起されている新しい税制への提言記事「一般取引税を導入して夢のジパングへ」 [2]を参照しながら、日本の税制の目指すべき方向性について探っていきたいと思います。
提言を扱う連載記事としては、以下の3部作で予定しております
1.一般取引税とは?その狙いは?
2.世界で提案されてきた一般取引税及びその問題点(トービン税・ファタ税・APT税)
3.一般取引税導入後のシュミレーション〜可能性と影響の整理〜

◆初めに
まず、日本の財政状況を見ますと、国債発行額は地方債含めて850兆円を超え、借金を重ねながらの自転車操業状態であることは皆さんご存知の通りです。さらに、この悪循環を断ち切る方針が、政府から示されないまま、借金は雪だるま式に増えるばかりです。
フローで見てみます。
平成20年度のプライマリーバランス(歳入総額から国債発行収入を差引いた金額と、歳出総額から国債費を差し引いた金額の差)が14兆円の赤字となっていますが、まず均衡状態に立て直すためにはどうすれば良いのでしょうか?
政府としては「公共事業見直し」「事業仕分け」等で歳出カットに腐心していますが、増税は止む無しという風潮でしょう。
いつもながら、財界中心に景気浮揚を狙って「法人税減税」が叫ばれていますが、その代償として消費税増税は避けて通れない政策になりそうです。
※民主党は公約で4年間の消費税増税の凍結を掲げていますが、それも時間の問題でしょう…
hatoyama.jpg
画像はこちら [3]からお借りしています。
ちなみに、現行5%の消費税で税収は約10兆円です(2008年の税収は約44兆3,000億円)。単純に7%増税すれば追加14兆円でプライマリーバランスの達成が可能になります。
(そんなに上げれば、消費が落ち込むんじゃないの!?という点は一旦棚上げですが…)
今回ご紹介する一般取引税の導入では、なんと税率1%で25兆円の追加財源を確保することが可能です(現行消費税を廃止して、さらに15兆円の追加財源を獲得することが可能)
平成20年度の税収は44兆3,000億円ですから、税率2%に設定すると、所得税や法人税、消費税や相続税などの今ある税金を全て廃止して、歳入を賄うことが可能です。
一般取引税とは何?その仕組みは?
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◆一般取引税とは?

商取引(ここでは商取引の意味を一般的な通貨の移転の意味に拡張して用いる)の決済の時点で決済にかかる金額に一定の税率を乗じて徴収する課税方式であり、もっとも公正かつ効率的な究極の徴税方式である。
課税ベースは全銀ネット上の日々のトランザクション(取引/決済)である。この中にはATMを操作して他行口座に送金する振込みなどの業務も含まれる。現在全銀ネット上では1営業日当りおよそ10兆円のトランザクションが処理されている。仮に1年=240営業日としても、全銀ネット上のトランザクション総額は年間で2400兆円に上り、この1%を取引税として徴収することによって、24兆円の税収を得ることができる。

まず、全銀ネットとは、銀行だけでなく、信用組合・信用協同組合・協同農業組合などを含めた全ての民間金融機関(日本振興銀行などを除く)と日本銀行が参加する金融システムです(リンク [4])。一般取引税は、その中で口座を持つ人同士が、銀行を通じてお金のやり取り(取引/決済)をすれば、その金額に対して、一定の税率がかかって税金が徴収されます。
尚、徴収先はお金の「受取人」です。
例を挙げてみます。AさんがBさんから1,000円の買い物をして、銀行口座を利用して振り込んだとします。税率が1%なら990円がBさんの口座に入金され、残り10円が税金として徴収されます。
また、C法人が新入社員10人に20万ずつ給料を振り込むとします。税率が1%なら198,000円が各々の社員の口座に入金され、合計2万の税金が徴収されます。
単純明快で非常に分かり易い税金のシステムです。
◆税務署に代わり、銀行が税金を集約
納税の実務は全て銀行が担います(便利!!)。具体的には、受取人口座を有する銀行は入金額から所定税率の徴税額を差引いた金額を受取人口座に移動し、徴収した税額を毎日定時に日銀内の国庫当座預金口座に送金するシステムです。
あくまで徴税対象は全銀ネット上の取引であって、現金取引は課税対象外です。
◆一般取引税導入の狙いの中心は?
では、銀行口座を通せば、取引決済の「全て」が課税対象になるのか?
結論は、違います。そして、その理由には一般取引税における重要な認識が含まれています。

市中銀行間の取引に課税しない。 証券取引所、手形交換所・電子マネー、外国為替決済システム、債権決済システムなどの「クリアリング・システム」における内部トランザクションに関しては原則として課税を行わない。ただし、これらのクリアリング・システムから銀行口座を介して外部(たとえばそのクリアリング・システムの参加者の銀行口座)に送金するか、外部からの送金を受けた時点での課税は免れない、つまり、「現物経済に戻ったとき」に課税されるといえる。

※一般取引税導入後のシュミレーション
1.税率0.5%
徴税額12兆円 現行消費税を廃止することができる
2.税率1.0%
徴税額25兆円 現行消費税を廃止した上で15兆円の追加財源が得られる
3.税率2.0%
徴税額50兆円 既存国税を直ちに全廃して一般取引税に一本化できる
4.税率3.0%
徴税額75兆円 既存国税を全廃した上で30兆円の追加財源が得られる
5.税率5.0%
徴税額125兆円 国と地方自治体のすべての租税を廃止することができる

については、市中銀行の取引に課税すると、銀行間同士でのマネーの融通がストップしてしまいます。これは、インターバンク市場では、非常に低利の利息(0.003%等)で貸し借りが行われており、そこに1%でも課税すれば完全にマネーの流れがストップしてしまいます。
国家の金融システムが崩壊するような税制は無意味ですし、税収を金融システムに依存しないものとするという原則から外れます。
について、全銀ネット上でも「金融取引」は課税対象外です。もう少し正確に言うと、取引所や交換所内でやり取りされるマネーは課税対象外で、口座に振り戻された時点で課税対象になります。
株式の売買を例に上げると、一旦証券会社の口座に預けて(信用取引)、それが取引所内で売買されている間は課税対象外、売買された結果のお金が、口座に入る時点で課税されます。
つまり、一般取引税で最も注目される点が、国家の財政をマネー経済(バクチ経済)の上に築くのではなく、実物経済の上に構築することに主眼が置かれている点が重要な認識であり、本質部分です。
資本主義のグローバル化によって、先進国のほぼ全てが借金国家に転落していますが、その借金も元を辿れば、中央銀行によって生み出された帳簿上の数字に過ぎず、現実にはありもしない架空マネーの上に成り立っていることが分かります。金貸しの主戦場たる投機マネー市場に、国家財政を築くのでは国家の主体性が薄れる危険性が高いため、徐々に金貸しの手の及びにくい実体経済中心の税制を構築していくという認識が中心的と見ています。
さて、次回の記事では、海外の「一般取引税」(トービン税・ファタ税・APT税)の事例を扱ってみたいと思います。
今回ご紹介した一般取引税は、それら構想中の税の構造的問題を指摘しつつ、学ぶべき点を柔軟に取り込んでいることが分かります。
お楽しみに

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