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CO2排出権市場ってどうなっている??4〜排出権市場をリードするEUの試み〜

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「CO2排出権市場ってどうなっている??」シリーズ
1.CO2排出権市場ってどうなっている? [1]
2.排出権取引の仕組み [2]
3.排出権には種類がある [3]
に続く第4弾。
今回は、排出権取引市場を急拡大させているEUの排出権取引制度について詳しく触れて見たいと思います。
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 まずは、京都議定書でCO2排出権の共認がされて以降の、世界の排出権取引市場設立の流れを見てみましょう。
<世界の排出権取引市場>
1997年 京都議定書…排出権を共認
2003年 シカゴ気候取引所(CCX)の設立
 ・北米の自主参加型の、温室効果ガス排出権の取引市場
 ・温室効果ガス(6ガス)の排出削減について、法的拘束力のある契約を結んでいる。
 ・キャップアンドトレード方式
2005年 欧州排出権取引市場(EU-ETS)の設立
 ・EU域内におけるCO2排出権取引市場
 ・取引対象は、温室効果ガスの内CO2のみを対象としている。
 ・キャップアンドトレード方式
2008年 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局を介した国際取引の開始
 ・京都議定書に基づく国際排出権取引市場
 ・温室効果ガス(6ガス)の排出削減を対象に、京都メカニズムの結果生じるクレジット  の取引を行う。
 ・気候変動枠組条約(COP3)で、温室効果ガス排出量の上限を設定。
2009年 地域温室効果ガスイニシアティブ(RGGI)
 ・米国北東部および中部大西洋の10州からなるCO2排出権取引市場
 ・取引対象は、温室効果ガスの内CO2のみを対象としている。
 ・キャップアンドトレード方式
<排出権取引の最大規模を誇る欧州排出権取引制度の中身>
 世界でも最大規模の取引量を誇るEUのCO2排出権取引市場。その中心的な仕組みである「キャップアンドトレード方式」について引用します。

  EUの排出権取引制度は、企業による二酸化炭素排出に上限(Cap)を設定し、排出者にEU排出枠(EU排出許可証、EU Allowance)とよばれる売買可能なクレジットを割り当てるものである。
 具体的には、加盟国政府はEUによって割り当てられた国別の排出枠を、欧州委員会の承認を受けた国家割り当て計画により、個別企業に割り当てる。割り当てを受けた個別企業は年間を通じて排出枠以上の削減(排出枠内での排出)に成功した場合、余剰分を排出権市場で売却することができ、逆に排出量が排出枠を上回った企業は排出量を枠内におさめるために排出権を排出権市場で購入するという制度(キャップ&トレード;排出上限の割り当てと売買)である。

財団法人 国際貿易投資研究所(ITI) フラッシュ111 [4] より引用
<EUのこれまでの政策と状況>
 EU排出権取引制度(EU-ETS)は2005年から実施されています。2020年までの期間を3つの段階(フェーズ)にわけ、段階的に政策立案されています。
(政策内容)
第一フェーズ(2005〜2007年)
・規制対象は、温室効果ガスのうちCO2のみ
・規制業種は電力・熱供給、製油所、鉄・非鉄金属、セメント、ガラス、窯業、パルプ
(対象業種のCO2総排出量はEU全体の約4割を占める)
第二フェーズ(2008〜2012年)
・規制業種に航空部門を追加
(CO2排出量が多いにもかかわらず、第一フェーズでは規制対象外だった)
(EU域内の状況)

【電力会社の例】
 電力会社では、電力の需要予測から、割り当てられたアローワンス以上のCO2が発生すると見て、その分を電力価格に上乗せした。
 結果として、暖冬等の自然要因もあり、当初割当量超えることは無かったため、便乗値上げとの批判が相次いだ。
【鉄鋼業、アルミ製造業等の例】
 電力を大量に使う鉄鋼業や、アルミ製造業等の業種では、国際競争力維持の為、先の電力価格の値上がり分を製品価格に転嫁できない。
 このような電力消費型企業は、自己防衛のため、電力価格の安い国やEU域外に生産施設を移したり、それらの地域での生産量を増やすという動きが見られた。

「排出権取引とは何か」 北村 慶 著 より引用

【自動車会社の例】
 欧州委員会では2007年2月の段階で、EU市場で販売される新車のCO2排出量について、2012年までに自動車メーカーの努力で130グラム/キロメートルに削減し、道路の改良などで10グラム/キロメートルを追加削減して、最終的に120グラム/キロメートルとするという基本方針を発表していた。
 2007年12月、(1)CO2排出量を車両重量ごとに新たに設定するとともに、(2)規制値を達成できない自動車メーカーには罰則規定を適用する規定を新たに盛り込んでいる。
 今回新たに設けられた罰則規定には、単位排出量未達1グラムにつき2012年20ユーロ、13年35ユーロ、14年60ユーロ、15年以降95ユーロの罰金が盛り込まれた。罰金は新車の販売台数に乗じて算出されるため、販売台数の多いメーカーにとっては極めて大きなコスト負担につながる可能性がある。

財団法人 国際貿易投資研究所(ITI) フラッシュ106 [5] より引用

 この欧州委員会の規制案に対して、欧州自動車工業会(ACEA)など業界団体は規制の内容が厳しすぎるとして激しく反発、特に自動車重量の大きい高級車、大型車の生産が多いドイツ自動車メーカーは、欧州委員会案の重量別規制値が導入された場合でもドイツ車は、フランスやイタリアなどの小型車と比べて不利を被るとして、政府も巻き込んで、EUに対して激しいロビー活動を展開していた。
 ドイツの経済紙ハンデルスブラット紙(08年12月2日付)によれば、今回、欧州議会とEU議長国(フランス)との間で合意に達した妥協案には次のような内容が盛り込まれている。
①新車に対する120グラム/kmの規制値達成を、12年には新車販売台数の65%、13年には同75%、14年80%とし、15年にすべての新車に対して適用する(すなわち当初案の12年完全適用を15年に延ばし大幅な暫定期間を設ける)。
②規制値(CO2排出許可量)は、(ⅰ)自動車メーカーのエンジン等の改良によるものが120グラム/km、(ⅱ)タイヤの改良やバイオエネルギーの利用による上乗せ分を10グラム/km、(ⅲ)電動部品の改良など部品メーカーの技術革新による上乗せ分を7グラム/kmとし、全体の規制値を137グラム/kmとする。
③規制値を達成できない場合の罰金は、(ⅰ)12年以降、超過分が1グラムの場合は5ユーロ、2グラムの場合15ユーロ、3グラムの場合25ユーロ、超過分が3グラムを上回る場合は4グラム以上の1グラムにつき95ユーロとし、(ⅱ)19年以降は超過1グラム当たりの罰金を一律95ユーロとする。
上記合意案は今後欧州議会の本会議における採決、閣僚理事会での承認を経て、法制化される予定である。

財団法人 国際貿易投資研究所(ITI) フラッシュ118 [6] より引用
 EU域内排出権の割り当て配分計画は激しい論争となり、第一フェーズでは、1万以上の規制対象施設に無償で配られる事になり、その量も結果的に甘めの配分査定となりました。
 キャップアンドトレード方式の最大の問題は、アローワンス(排出枠)を、いかに平等に配分するか?という点であり、この配分方式として、一長一短はあるものの、以下の3つが考えられています。
 なお、現在のEU排出権取引制度では、グランドファザリング方式が主流です。
<アローワンス割り当て方式の種類>
・グランドファザリング方式
 対象工場や施設の過去における温室効果ガスの排出量実績を元にアローワンスを計算し、割り当てる。
 過去に熱効率を改善し、環境対策を行った企業ほど、結果として厳しいアローワンスを割り当てられてしまう。
 また、新規参入者に対しては、過去の実績が無いためにアローワンスの割り当てが出来ない。
・ベンチマーク方式
 利用可能な最良の技術を用いて、一定量の製品を作る場合に排出されるCO2の量を決め、それに基づいてアローワンスを割り当てる。
 つまり、業界で最も効率よく生産している工場を基準(ベンチマーク)として、それに見合う分だけしか割り当てない。
 現在利用可能な最良の生産技術は何かの合意形成が難しい、自社技術の公開が他社に対する優位性を損なうといった問題がある。
・オークション方式
 対象施設は年度の初めに国又は自治体から排出量を入札で購入する。
 国又は自治体がオークションに出す総枠には上限があるので、例えば安値で入札したために必要な枠を入手できなかった施設はその不足分を市場で調達することになる。(米北東部及び中部大西洋10州(RGGI)は実施している。)
<EUの今後の政策展開>
 EU排出権取引制度の第三フェーズにおける政策内容が議論されています。
 現時点での案を以下に紹介しますが、京都議定書第二約束期間に重なる期間設定で、ポスト京都議定書を強く意識した内容になっています。

第三フェーズ(案)(2013〜2020年)
・1年ごとに削減目標を定め、直線的に削減目標を設定
(EU単独で1990年比20%削減、国際枠組みが出来れば同30%削減)
・削減管理主体の変更
(EU(欧州委員会)が指定する規制業種(EU全体の排出量の40%程度を占める)に対する排出量削減責任はEU、その他のCO2排出主体(EU全体の排出量の60%程度を占める)に対する排出量削減責任は加盟国
・アローワンス無償配布からオークション方式による有償化への段階的移行
(排出枠の配分は、原則、オークション方式とするという方針を打ち出す)
・建設・運輸・農業・産業廃棄物処理等の削減対象への取り組み
・規制対象ガスのCO2以外への拡大
・京都議定書排出権の利用制限の強化
(京都議定書排出権の利用に厳しい制限を課す事で、中国等の発展途上国に対し、何らかの削減義務を負う事を促す為の布石)
・国別に排出量を割り当てる事を廃止する。
・排出量を大量に出す業種については、EU(欧州委員会)が一括してアローワンスを取り決める。
・一人当たりGDPを各国の経済力のベンチマークにして、削減目標に軽重をつける。
(削減目標に軽重をつけ、旧東欧諸国等域内の発展途上国に配慮)

「排出権取引とは何か」 北村 慶 著 より引用

<2013年以降、オークション方式の導入を提案>
改革案の最大の目玉は、「オークション方式を初期配分のベースとする」という考え方を打ち出したことである。
これは排出量が多い企業ほど大量の排出枠を無償で確保できる現行方式では、省エネ努力が反映されにくいという指摘に応えたもので、オークション方式であれば省エネが進んだ企業は排出枠の購入が少なくて済むという利点がある。
 欧州委員会の資料によれば、新方式では、現行の27の国別排出枠(national cap)に代わってEU全体をカバーする単一の排出枠(a single EU-wide cap)が設定され、この単一の排出枠が完全に調整されたルール(fully harmonized rules)に基づき加盟国に配分され、各加盟国が排出枠のオークションを実施することになる。
 オークションによる排出枠の売却収入は加盟国の収入となり、加盟国は再生可能エネルギー関連の技術革新や第二世代のバイオ燃料技術の開発、二酸化炭素の捕捉と地中貯留技術の開発といった環境関連技術の研究開発に資金を有効活用することが可能になる。

財団法人 国際貿易投資研究所(ITI) フラッシュ111 [4] より引用
 二酸化炭素を強制的に削減する政策手段の代表的なものとしては、排出される二酸化炭素に対して課税する炭素税(環境税)とEUが実施しているような排出権取引制度があります。
 炭素税の場合は、税収が生まれるため、それを環境関連技術開発の財源として活用できる半面、いったん税率が定められると税率の迅速な変更が難しいことが上げられます。
 一方、EUの排出権取引制度(現行)の場合は、市場と連動した二酸化炭素の削減を期待できますが、排出枠を企業に無償で配分するため、炭素税のように税収が生じません。
 したがって、環境技術関連の研究開発などで必要となる資金は別途手立てする必要が生じてきます。
今回のオークション方式導入の提案は、炭素税に比較して現行のEU排出権取引制度の持つ弱点を補おうとするものであり、排出権取引市場システムにおいてEUは一歩も二歩も先を行っているといえるでしょう。

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