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CO2排出権市場ってどうなっている??5〜EUに追従しようとする日本の排出権市場〜

「CO2排出権市場ってどうなっている?」シリーズの第5回。
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画像はこちら [1]からお借りしました
今回は、日本国内における排出権市場の歴史や今後の見通しを、環境省作成資料「キャップ&トレード方式による国内排出量取引制度について」 [2]を参照しながら、纏めていきます。
前回までの記事はこちら
1.プロローグ [3]
2.排出権取引の仕組み [4]
3.排出権には種類がある [5]
4.排出権市場をリードするEUの試み [6]
1997年京都議定書によって、参加する国それぞれに対して、CO2の削減目標が定められていますが、日本は2012年までに1990年比で-6%達成することを約束しています。
2.排出権取引の仕組みより引用

附属書Ⅰ国は、2008年〜2012年の5年間(第一約束期間)の温室効果ガス排出量の上限を設定しています。各国の初期割当量は下式で計算されます。
各国の初期割当量=基準年排出量×排出削減数値目標×5年
ここで基準年排出量とは1990年の温室効果ガスの排出量のこと、排出削減数値目標は日本の場合、−6%です。

ちなみに、目標を達成できなかった場合は…
1.過剰に排出した量を1.3倍し、第2約束期間の総排出枠から差引く
2.遵守行動計画を作成する
3.国際排出量取引によって京都ユニットを移転する資格を停止する
と、なかなか厳しい罰則が課せられているようです
では、この状況下で日本政府はどのような手を打ってきているのでしょうか?
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◇自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)
2005年に日本国内で初めて設立された排出権取引市場です。
リンク [7]
効果的なCO2の削減と、市場化におけるノウハウ蓄積を目的として作られました。
環境省が補助金を出すことで成立する、国家が主導する市場です。
具体的に見てみます。
【対象者】
企業の自主参加型です。
2008年度の参加企業 [8]は61社。代表的な企業としては、「三菱樹脂 長浜工場」「キッコーマン 野田工場」「UCC上島珈琲 兵庫飲料工場」等が上げられます。
※参加登録は事業所・工場単位。
【市場の仕組み】
国がCO2排出削減設備に対する補助金を出す代わりに、企業は一定量の排出削減の約束を行い、排出枠の取引によって目標達成を図ろうとする制度です。
尚、上限を超えてしまった企業は、補助金の返却と企業名の公表という罰則規定があります。
【排出枠の設定方法】
目標を保有する企業は、過去3年間の排出量実績の平均値を基準年排出量として、そこから削減目標量を差引いた排出量を上限として定めます。
企業は排出量が上限を上回らないように、自社内で削減努力を行ったり、他の参加者と排出枠の取引を実施したりします。排出枠の取引には、取引仲介システムを使います。
各企業の排出量は、第三者検証を受けCA(環境省の下に設置され、本制度のルール管理を行う組織)の承認をもって確定し、登録簿システム上で管理されます。
登録簿システムや排出量管理システム、取引マッチングシステムは、取引を行う上で重要なシステムですが、これらの作成や保守管理は三菱総合研究所が担っているようです。
◇オフセット・クレジット制度(J-VER)
JVETSより少し遅れて2008年に同じく環境省によって創設された制度です。
オフセットとは? 大阪CDMネットワークHP [9]より引用。

カーボンオフセットとは、事業活動、生活、イベント等で、CO2の排出抑制に努め、抑制しきれない排出量分については、他の場所で実現した温室効果ガス排出削減・吸収量(排出権)を購入することで、その排出量の一部または全部をオフセットする(相殺する)ことです。
カーボンオフセットの方法としては、オフセットするために必要な量のクレジット(排出権)を「調達」し「無効化」する、もしくは植林活動などのオフセット活動を実施することなどが考えられます。

ちなみに、ここで認められた排出権は転売することも可能です。
平成22年5月末時点では累計29件のプロジェクトが登録されており、内12件が排出削減系、17件が森林吸収系で占められています。

以上より、既に国内で創設された市場(JVETS・J-VER)を見てきましたが、共通するのは、将来の排出権市場構築のための「実験的」位置付けであるという点です。
そのため、自主参加制という形態を取り、参加する企業にも補助金というインセンティブが与えられていました。
そして、今年政府から、上記実験を踏まえた上での、国内における排出権市場整備の方向性を示す重要な法案が提出されています。
◇地球温暖化対策基本法案
特定の企業に参加を義務付け、排出権市場の構築をより一層推進する目的で作られています。
2020年までに温室効果ガスを1990年比で25%削減、また2050年までに80%を削減する 、という高い指標値が物議(経済への影響は!?本当に達成できるの!?)を呼ぶ法案でもありますが、今年5月18日に衆議院を通過しました。
中身を上げると、
・暮らしに新たな負担を求める「環境税」の導入
・企業に温室効果ガスの排出削減を義務付けた上で削減量の過不足を売買する「国内排出量取引制度」を施行後1年以内に創設する
・再生可能エネルギーの買取制度の創設
が盛り込まれています。
ここでは、国内排出量取引市場に絞って取り上げてみます。
【対象者】
排出削減に大きな影響を及ぼす産業や業種が対象になります。化石燃料を扱う産業を中心に、川上事業者と川下事業者、どちらに課すかの検討が行われています。
※川上事業者
化石燃料の採掘・輸送、生産・輸入、販売
 川下事業者
化石燃料の直接排出(発電所等)、間接排出(産業)
【市場の仕組み】
政府が企業毎に排出枠(温室効果ガスの排出総量の上限値)を設定し、一定期間を定めて観測します。
そこで、排出枠が余った企業はその分を「売る」ことができ、逆に排出枠を超えた場合は「買う」ことで、市場原理に乗せて全体として削減目標を達成しようという試みです。
※キャップ&トレード方式と呼びます。
【排出枠の設定方法】
では、企業毎の排出枠は具体的にどのような方法で決めるのでしょうか?
排出枠の設定次第で、企業の業績が左右されることから、枠の設定には慎重さが求められます。
どれも長所・短所がありますが、現在は次の3つの方法から選択するべく、検討されています。
①ベンチマーク方式 
 業種・製品に係る望ましい排出原単位(生産量当たりのCO2排出量:ベンチマーク)を設定し、これに生産量を乗じて排出枠を設定。
②グランドファザリング方式
 過去の(排出)実績に応じて排出枠を設定
③オークション方式
 排出枠を競売によって配分。
 上記の①、②と違って企業は排出枠を有償で買うことになります。
【費用緩和措置】
・排出枠価格が長期高止まりしたり、大幅に急変動することは、企業にとっては望ましくない。
・一時的にでも制度の運営に支障を来たした場合、排出量取引制度の信頼性を低下させることにつながる。
上記の懸念点を踏まえて、あらかじめ費用緩和措置を組み込んでおくことによって、制度の安定性の確保することが考えられています。
●バンキング
余剰となった排出枠を次年度に繰り越し
●ボローイング
排出枠が不足する場合に、将来配分される予定の排出枠を使用
●価格上限(セイフティバルブ)
事前に排出枠価格を設定(設定された価格を支払うと政府から排出枠を入手可能)
●外部クレジットの活用
制度の対象外の排出源で行われた削減量に基づくクレジットを活用
●他国の制度とリンク
他国の制度とリンクし相互に排出枠の取引

さて、ここまで地球温暖化対策基本法案の骨子を見てきましたが、この法案は、温室効果ガス削減に向けた法律整備であり、狙いの中心は排出権市場の構築にあると思われます。
ここで改めて、世界の排出権市場を押さえ直すと、1997年の京都議定書で世界的に排出権が共認されて以降、2003年にシカゴ気候取引所(CCX)の設立、2005年の欧州排出権取引市場(EU-ETS)の設立、2008年のニュージーランドでNZ-ETSの設立、2009年のアメリカでのRGGIの設立と、各国にて次々と排出権市場が立ち上げらてきました。
その中でも、欧州排出権取引市場(当シリーズ第4回 [6]で紹介)は最大規模を誇る市場に成長しています。
今回の基本法案から、日本における排出権の市場化は、ほぼその全てが欧州排出権取引市場(EU-ETS)に追従していることが理解できます。

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