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CO2排出権市場ってどうなっている?6〜東京都の取り組み

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実は日本には前回 [1]紹介した環境省が主催する自主参加型国内排出量取引制度の他に、東京都が主催する排出権取引市場が動いています。


そこで今回は、東京市場を取り上げたいと思います。
まずなぜ東京都市場を取り上げるのか?の問題意識を提示したいと思います。

実はこの排出権取引市場の仕組みを調べていたときに、三菱総合研究所のHPにぶち当たり、そのコラム(2009.2.12)『望まれる日本発「排出権」の整理』 [2]を読むと、その終わりに
“なお、国の制度は次第に収斂されていくと思われるが、東京都とは設計思想に大きな隔たりがあり、ポスト京都以降も両者が並立する可能性が懸念される。政策目的に応じた複数制度の並存は止むを得ないにせよ、将来的にはフォーマットの一元化を望みたい。”
という、まるで東京都の取組を非難しているかのように受け止められる内容が記載されていたのです。それで日本(環境省)の取り組みと東京都の違いは何なのだろう?という問題意識がフツフツと涌き出ててきたのです。

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東京都の取り組みは
2000年に公害防止条例の全面改正による「環境確保条例」公布に始まります。このとき『地球温暖化対策計画書制度』の創設が打ち出され、特に大規模事業所を対象に温室効果ガス削減を推進する動きが始まります。
なんで大規模事業所??実はこの間、産業部門では省エネや環境配慮型の生産機械の導入がなされ、CO2削減が進んでいる(例:2005年値は90年比▼43.8%)のですが、一方で業務部門(事務所ビルやサービス業)は東京へのオフィス集中やIT化により、90年比△33.2%とCO2排出量が増加しているのです。その傾向は既に2000年から顕在化していたので、
ついに2007年大規模事業所への総量削減義務化が提起され、2010年4月にその実行となりました。

さらに5月東京都は、国際炭素行動パートナーシップに、アジア唯一の正式メンバーとして参加し、具体的な排出権取引市場として国際デビューしたのです。

国際炭素行動パートナーシップ(ICAP)とは?
温室効果ガスの排出量取引の国際的な共通市場を作るための取り組み。ヨーロッパ連合(EU)、アメリカ・カリフォルニア州、ニューヨーク州、カナダ11州、ノルウェー、ニュージーランドなどが署名している。
これらの参加国および州は、取引市場設置の取り組みが温暖化防止政策にとって決定的な要素になると政治宣言の中で主張し、キャップ&トレード方式を協力して進める方針を明言している。キャップ&トレード方式は、企業が工場などで二酸化炭素(CO2)などを排出する量に行政機関が上限(キャップ)を設け、一定の削減を確保する手法である。目標より多く減らした企業がその分を排出権として、目標に達していない企業と取引(トレード)できるようにする、というものである。
EUではこの方式を使って2005年から取引を始めている。EUは、今後、この方式を土台にアメリカやカナダの10以上の州が参加する取引市場の整備を支援し、取引ルールを共通化することで、将来は国境を越えてそれぞれの市場で売買できるようにすることにしている。

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東京都には、オリンピック再誘致のため環境都市としての評価獲得という目的もあるようですが、メインはやはりCO2排出権取引においてもアジアの中心市場としての地位確保のために動いているのです。

■東京都の取り組みの特徴は
1.自主的な取り組みに留まらないで、義務的な制度にすること。
*つまり目的である地球温暖化防止は置いといて、さっさと制度として国民の義務として確立しましょうということ。

2.義務違反には制度の実効性を確保する措置(罰則や課徴金等)を導入すること。
*義務なんだから守れといえるように強制力を持たせようということ。

3.国と地方が共に積極的な役割を果たす制度であること。
*具体的には総排出許容量(キャップ)の設定や取引ルールは国が法令で定めるが、条例による基準の地方上乗せ等を可能にするなどを求めている。国と地方をどう分けるかというと、国家キャップ&トレード制度の対象は、発電所・製鉄所など特に大規模なエネルギー・資源供給施設とし、地方キャップ&トレード制度の対象は、大規模事業所や工場などとして区分けしたいようだ。CO2排出権市場を国に独占管理させるつもりはなく、自治体としてその権益を確保したいのだろう。

東京都のキャップの決め方は、グランドファザリング方式(過去実績からの算出)としている。しかし将来的にはEUが目指している、オークション方式に移行する計画だそうです。

■取引市場の仕組み
取引可能なクレジットは以下のとおり

1.超過削減量
2.都内中小クレジット
3.再エネクレジット
4.都外クレジット

1.超過削減量:文字通り、削減義務量を超えた分について、取引(売却)することができる。さらに対策によらず業績悪化や業務縮小などで大幅に排出量が減少した場合には、規準排出量の1/2を超えない削減量までは取引可能。

2.都内中小クレジット:この制度の対象となる大規模事業所とは、燃料、熱及び電気等のエネルギー使用量が、原油換算で年間1500キロリットル以上の事業所のこと。これに当たらないで、同一法人が設置する複数の都内事業所を合算したエネルギー使用量が原油換算3000キロリットル以上の場合には、中小規模事業所向け制度が適用され、「地球温暖化対策報告書」の提出が求められています。この「地球温暖化対策報告書」作成者を対象に、積極的に排出権市場に参加してもらおうという主旨で、大まかには基準量よりも削減できた分を排出権として認めていこうというものです。

3.再エネクレジット:再生可能エネルギー利用の拡大を目的としている。再生可能エネルギーとしては、太陽光(熱)、風力、地熱、水力(1000kw以下)、バイオマスが挙げられている。

4.都外クレジット:大規模事業所にあたる都外事業所を対象に、削減量の1/3までを上限として取引できる。東京都以外からもこの市場に参画してほしいということです。

ここまでで東京都の取り組みの概要が分かりました。
その上で改めて環境省(自主参加型国内排出量取引制度)の取り組みと東京都を比較してみると、大きく言えば

環境省 まずCO2削減する→削減した分を市場に排出権として流通させる
東京都 CO2排出枠をもらう→それを自分で使用するor市場に流通させる→CO2削減

という出発点に大きな違いがあることが分かります。
真偽のほどはともかくとして、曲がりなりにも温暖化対策⇒その方法としてのCO2削減という当初の目的と方法論を踏襲している環境省に対して、東京都(=EU)は市場万能主義のもと排出権市場を形成すれば、市場の力(CO2排出権という商品が高価値で取引されること)によって、結果としてCO2は削減できるというスタンスのようです。

一方で、国も今年、地球温暖化対策基本法案を成立させ、その市場化に向けて動き出しました。CO2排出権市場は世界の先進国と都市によって新しい市場として孵化しそうです。そうなると今後どうなっていくのか?次回はそれを扱いたいと思います。

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