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TPPからみる世界の貿易情勢 〜 アメリカの意図

 韓国とアメリカが自由貿易協定(FTA)に合意したことで、ますます日本の出遅れ感をあおり、TPPへの参加を主張する声が大きくなってきています。
 TPP参加表明を早期に行い、アジア太平洋地域の貿易・投資分野のルール作りにおいて、より有利に、かつ主導的役割を果たして行かなければ、今後日本は周辺諸国から孤立してしまうと政府やマスコミが声高に叫ぶ一方で、現実は12月6日からニュージーランドで行われた、TPP拡大交渉会合へのオブザーバー参加が認められず、会議室の外で参加9カ国から事情を聞くことさえ許されませんでした。
 このような状況で、日本がTPPへの参加表明を急ごうとするのはなぜか?
 その点を考える為に、TPPを通じてアメリカが意図している事は何か?について、今回は扱ってみたいと思います。
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 TPPは現在、アメリカ主導により、参加国間でのルール作りの交渉が進められています。その内容は、公式には明らかにされていませんが、その交渉の場に参加するだけでも、アメリカは日本に対して条件を突きつけてきています。
■TPP交渉に参加するに当たって、アメリカが要求してきているもの
1.前提条件(自由化例外品目の提示)を持っての交渉参加は認めない。
→自由化対象外品目は、交渉の中でしか決定しない。
2.WTO協定の義務を順守して、日本郵政への優遇処置の撤廃。
→2010年5月21日ジュネーブで行われた協議で、米国と欧州連合が日本郵政に関する懸念を表明。
 WTO協定の下で日本が履行を約束した内国民待遇規定(輸入品・サービスに適用される待遇が、同種の国産品・サービスと比べて差別的であってはならないという原則)を順守するように要請している
3.アメリカ産牛肉に対する規制撤廃。
→月齢制限の撤廃、SRM(特定危険部位)の範囲の見直し
 先にアメリカとFTA協定を結んだ韓国も、月齢30ヶ月以上の米国産牛肉の輸入を規制しており、今回のFTA合意内容からは外され、継続協議となっている。
 また、TPP交渉で扱われている内容は、日本政府には伝聞情報としてしか伝わっていませんが、その中で、すでにTPP交渉の具体的な作業部会として立ち上げられている内容をみると、TPPを通じてアメリカが狙っている本当の目的が見えてきそうです。
■TPPを通じてアメリカが狙っていると思われるもの
 TPPのルール作りに向けて、具体的な検討を行う24の作業部会が立ち上げられているといわれています。
 それらの作業部会で扱われている内容について、いくつか紹介します。

・市場アクセス
 ①サービス提供者数の制限、②サービス取引総額あるいは資産の制限、③サービス事業の総数あるいは総産出量の制限、④サービスセクターに雇用あるいは関係する自然人の総数の制限、⑤サービスを提供する法人あるいはジョイントベンチャーの形態の制限、を行うことを禁じる等。
・貿易円滑化
 税関手続の円滑化、税関協力、関税評価、事前教示、ペーパーレス貿易の促進、至急貨物通関、リスク管理などを規定。物品の税関からの放出は到着から48 時間以内に行えるよう手続きを行う等。
・衛生植物検疫措置(SPS)
 SPS 委員会の設置と作業計画の策定、実施取極めの策定と実行、所管官庁と照会所、措置の同等、輸入検査、情報交換と技術協力などを規定。衛生植物検疫措置が同等であり、病気の無発生地域と承認されれば、輸入国は輸出国がリスクを管理する能力を有することを認める等。
・貿易の技術的障害(TBT)
 国際基準の利用、措置の同等、適合性評価手続き、TBT 委員会の設置、協議などを規定。電気機器の安全性と電磁気互換性、牛肉の格付けプログラム、靴のラベリングの基準化等。
・政府調達
 政府調達に関連して、他の締約国の物品、サービスおよびそれらの提供者を自国の物品、サービスおよび提供者よりも不利に取り扱ってはならない。
また、他の締約国の自然人と関係を持ち、あるいは所有されている自国の提供者を他の自国の提供者よりも不利に取り扱ってはならない等。
・知的財産権
 著作権、商標、地理的表示、意匠、特許、集積回路の回路配置、開示されていない情報の保護等。
・競争政策
 民間および政府のビジネス活動を含む全ての商業活動に、事業体による差別および原産地および仕向地による差別を行わない方法で競争法を適用することにより、貿易・投資に対する障壁を削減・除去することを約束する等。

(参考)季刊 国際貿易と投資 Autumn2010/No.81 [1]
 関税率の撤廃にばかり注目が集まっていますが、その影では、市場への参加基準や手続きの簡素化、安全基準の見直し、企業間競争における政策の関与に対する制限といったような、いわゆる市場開放へ向けたさまざまなルール作りが進められようとしています。
 実際のところアメリカは、日本との関税はすでに低いので、関税撤廃にはあまり興味がないと思われます。
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(内閣官房「包括的経済連携に関する検討状況」 [2]より)
 例えば、2007年、2009年、2010年の日韓米の為替レートを比較すると、
                (2007年7月頃)    (2009年4月頃)     (2010年12月)
  円/米ドル        124円/1ドル     100円/1ドル     83円/1ドル
韓国ウォン/米ドル  905ウォン/1ドル  1315ウォン/1ドル  1150ウォン/1ドル

となっています。
 ここから為替変動率を見ると、円/米ドルの’09/’10比は約20%増’07/’10比では約50%増です。
 一方韓国ウォン/米ドルの09/’10比は約14%増’07/’10比では約20%減です。
 これらを単純比較すると、’09/’10比の日韓差は約6%’07/’10比の差では約70%となり、関税率よりも、為替変動率の影響のほうがはるかに大きいことがわかります。
 これまでの内容を踏まえて考えれば、農業だけではなく、金融、保険、医療、電波(TV)等、広い範囲での規制緩和こそがアメリカの狙いと言えるのではないでしょうか?
 自由化の名の下に、各国(特に日本)の非関税障壁を取り払い、アメリカのやり方に染め上げて属国化することが、アメリカの真の狙いだと言っても、言い過ぎではないように思います。

ウィキペディア [3]より引用)
 非関税障壁(ひかんぜいしょうへき)とは、関税以外の方法によって貿易を制限すること。
 または、その制限の解除要件のことである。非関税措置と呼ぶこともある。
 具体的には、輸入に対して数量制限・課徴金を課す、輸入時に煩雑な手続きや検査を要求する事。または国内生産に対して助成金などの保護を与える事などによって行われる。
 また拡大解釈的には、輸出入に不平等な結果をもたらす、国特有の社会制度や経済構造を含む場合がある
(非関税障壁の例)
・公衆衛生を守るため、一定の規格を満たさない食品や農産物の輸入を認めない
・労働者酷使によって価格競争力を得た製品を労働ダンピング商品として排除する
・宗教的理由(戒律、タブー)によって規範に反する製品を排除する
・政府調達先を事実上国内企業に限る
・国内販売製品の一定割合以上の部品に国内生産品の使用を義務付ける
・自国文化育成のため、テレビ放映や映画上映における輸入コンテンツの割合の制限枠を設ける。
・障害者保護を行わない国家・地域で製造された製品を排除する
・環境汚染対策を十分に行わない国家・地域で製造された製品を排除する
・遺伝子工学(いわゆるバイオテクノロジー)的手法を用いた農/畜産物を排除する
・資源管理国際協定に従わない国家・地域で収穫された水産物(マグロが好例)を排除する。

外務省HP [4]より引用)
■マグロ漁業の国際的なルールを遵守しない漁業の根絶に向けた取組
 各地域漁業管理機関がマグロ資源の保存管理のために定めた規制を逃れるため、地域漁業管理機関の非締約国等に船籍を移して無秩序な操業を行う便宜置籍船(FOC:Flag of Convenience)など、ルールを守らない漁業が国際的な問題となっています。
 国際的なルールを遵守しない便宜置籍漁船等による無秩序な操業はIllegal(違法)、Unreported(無報告)、Unregulated(無規制)の頭文字をとってIUU漁業と呼ばれています。
 ICCATでは、IUU漁業を行っている漁船リストを作成し、輸入業者等に対し、IUU漁船によって漁獲されたマグロの買付けをしないよう、また、船用機器の製造者等に対し、IUU漁船に船用機器が装備されないよう要請を行う決議が採択されたほか、便宜置籍漁船の船籍国(ボリビア、グルジア)産のメバチマグロの輸入禁止措置が実施されています。また、他の地域漁業管理機関においてもデータ収集制度、漁船登録制度、監視制度等の対策が取られています。

■中国の動き
 EUと並んでアメリカの対抗馬となっているのが中国です。
 アメリカ側としては、TPPでアジア太平洋地域を、個別のFTAで韓国を取り込みながら中国を追い込み、最終的には中国も取り込みたいという思いがあるでしょうが、現時点でアジアとの繋がりは、中国のほうが大きくリードしています。
 中国はASEAN10カ国(インドネシア、マレーシア、ブルネイ、フィリピン、シンガポール、タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、ミャンマー)とFTAを締結(以下、「ACFTA」)しています。
 
 ACFTAは、2002年11月に締結された「ASEAN−中国包括的経済協力枠組み協定」(以下「枠組み協定」)と、これに基づく関連諸規定で構成されています。
 そのうち、関税引き下げの期限・方法等を規定しているのが、2004年11月に締結された「ASEAN−中国包括的経済協力枠組み協定における物品貿易協定」(以下、「物品貿易協定」)です。
 約7000品目をカバーする人口規模で世界最大の自由貿易圏の誕生として注目され、2010年1月に正式発効し、90%以上の品目で関税撤廃が行われています。
 ACFTAの「枠組み協定」によれば、今後サービス貿易や投資に関する協定も締結されることになっていますが、現時点では、ACFTAはモノの貿易に限定された協定であるといえます。
 この点がアメリカの付け入る点であり、ACFTAよりも先にTPPにおいてサービス貿易や投資に関する協定を実現させることで、ASEAN地域を中国から引き離すことも可能となります。
 日本に対してTPPへの参加表明を急がせる意図も、」この辺りにあるのではないかと推測できます。
■グローバル化からブロック経済化へ
 世界経済は、グローバル化から一転して、EU・中国・アメリカのそれぞれを中心とするブロック経済化へと進んでいます。
 アジアを縄張り闘争の舞台としたブロック経済化が進むと、どのような社会になるのでしょうか?
 それを考える手掛かりとして、過去に起こったブロック経済化について、次回は扱ってみたいと思います。

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