- 金貸しは、国家を相手に金を貸す - http://www.kanekashi.com/blog -

止まらない円高=世界通貨戦争どうなる?8〜世界通貨戦争の構造は?【前編】

前回記事 [1]では、円を除く各国主要通貨10種類(ユーロ、ポンド、スイスフラン、人民元、ブラジルレアル、ルーブル、香港ドル、豪ドル、カナダドル、インドルピー)のここ20年間の対ドル為替相場の動きをグラフ化してみた。ポンドと香港ドルを除くほぼ全ての主要通貨が、ここ1年の間、ドルに対して通貨高になっていることが分かった。
今回は、この世界的な通貨安戦争が、何が要因で、どのような構造で起こっているのか、どこがポイントになっているのかを、ブログ「ウォールストリート日記」の昨年10月の記事 [2]を紹介しながら整理してみたい。
%E3%83%89%E3%83%ABVS%E5%85%83%E3%81%9D%E3%81%AE%EF%BC%91.jpg
続きにいく前に、応援よろしくお願いします。


◇通貨安戦争によって何が生じているか?

国際通貨戦争とは、簡単に言うと、「自国通貨価値引下げ競争」のことです。リーマンショック後の不景気に苦しむアメリカに代表される先進国は、輸出拡大による景気回復を狙って、積極的な金融緩和を行っています。その結果、米ドルは主要通貨に対して軒並み値を下げており、溢れたマネーは成長率の高い発展途上国に流入して、途上国が輸出減と資産バブルの発生に苦しんでいる、という構図になっています。

上記からは、今回の国際通貨戦争はリーマンショック後のアメリカが震源地となっていることが分かる。
 アメリカ国内の不景気を解消するために、大規模な金融緩和を行った結果、これまでにない低金利の状況が生み出されている。これを投資家の視点で見れば、アメリカは投資対象として魅力が少なくなるため、高い利潤を求めて、ドルを売って高金利の国で運用しようということになる。
結果として、アメリカからどんどんお金が逃げて(ドルが売られて)、ドル安が進行する。
一方、投資家がアメリカから持ち出したお金は、相対的に高金利の国で、且つこれから成長が見込まれる「発展途上国」へ向かうことになる。
発展途上国への過度のお金の流入は、そのまま通貨高に直結し、輸出企業にダメージを与えていく。
また、形を変えて株式なり不動産が買われることで、価値が吊り上り、資産バブルが生じる。 
発展途上国としては実体経済以上に通貨や資産価値が跳ね上り、経済安定のための対策に迫られた状況にある。
この流れを図解に纏めてみました。
%E5%9B%B3%E8%A7%A3.gif
◇不満が高まる途上国。中国がスケープゴートに!?

アメリカに代表される先進国は、景気減速に立ち向かうために、超緩和的な金融政策(ゼロ金利誘導、量的緩和など)を継続し、その結果、先進各国の金利は、非常に低くなっています。

アメリカが自国のことだけを考えて金融緩和を続けることによって、世界中の国に被害が広がっている、という批判は、世界中から起こっています。〜中略〜 また、ブラジルやタイでは、外国人による自国通貨建債券の取得にかかる税金を上げたり、源泉税を新たに設けたりと、投機資金流入対策に追われています。

Economist誌では、現時点ではこうした戦いは、本格的な「戦争」と呼べるほどには至っていないが、先進国の不況の問題の根が深いことを考えると、先進国の金融緩和が近い将来に収まる保証はなく、世界中で通貨安を求める声が政治的に一層高まるリスクがある。そうなると、中国をスケープゴートにしようとする要求も強まる恐れがあり、最悪の場合は、本格的な貿易紛争につながる可能性もある、と警告しています。

アメリカを震源地とする金融緩和によって、発展途上国は投機資金の流入対策のために、必死の対策に追われている。発展途上国側としては、先進国側の都合で経済が振り回される状況に対し、不満がたまることは十分に理解できる。
そこで、アメリカではなく「中国がスケープゴート」になる可能性が生じるのはなぜだろうか?
ドルと元の問題に焦点を当てた下記引用の文章を参考に整理したい。
◇アメリカと中国の通貨戦争が本質

一番最初の人民元の問題ですが、同通貨は現在、主に米ドルに対してペッグ(連動)しており、そのレートは中国人民銀行(PBOC)が人為的に管理しています。しかし同通貨の価値が過小評価されているという批判の声は、中国との貿易不均衡を解消したいアメリカのみならず、中国と競争する立場にいる、より自由経済的な為替政策を取る途上国からも、日に日に高まっているように思います。

人民元の割安さについては、同じ号のEconomistの中の記事「A indigestible problem(消化不能の問題)」が、「ビッグマック・インデックス」(世界中にレストランを展開するマクドナルドのハンバーガーの値段を用いた、為替価値の比較)を用いて、アメリカでは$3.71のビッグマックが北京では$2.18と40%も割安である、と解説しています。

莫大な貿易赤字を抱えるアメリカにとって、目下赤字額1位の中国との貿易不均衡をどうする?という問題に切り込むことは、避けて通れない課題である。
輸出を拡大したいアメリカにとっては、貿易不均衡の是正のために「ドル安元高」誘導は、何とか実現したいところであろう。
ちなみに、ドル安誘導は前述図解の通り、発展途上国に対しては金融緩和策によって実現できている。
しかし、中国はそうはいかない。何故か?
これが引用記事の通り、元がドルペッグ(連動)している所に原因が求められる。
元に対してドル安誘導するためには、金利差を付けて為替市場の力を用いるのではなく、「政治的手段」に頼るしかないのだ。
だから、国際的に「中国」の元が過少評価されている!と喧伝され、スケープゴートにされようとしている。もっとも中国は、一定程度その評価を受け止めて元高を進めているが、まだまだ不十分という評価のようだ。
ここまで整理して、改めて今言われる「国際通貨戦争」を捉え直してみたい。
もとはと言えば、リーマンショック後の国内経済建て直しのため、アメリカの金融緩和→ドル安誘導に始まる。
アメリカから見れば、為替市場の力によって発展途上国を中心に一定の成果を上げているといえよう。
しかし、その中でも最も解決すべき、貿易赤字の主たる要因になっている中国だけはそうはいかない。
つまり、国際通貨戦争の本質は、ドル元レートを巡るアメリカと中国との通貨戦争に求めることができる。
次回は、ドル元レートの攻防を中心に、まずは状況から整理していきたい。

[3] [4] [5]