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シリーズ「食糧危機は来るのか?」4〜日本経済は再び国際収支の天井を迎えるのか〜

前々回のエントリー [1]では「農産物の市場化(=自由化)では、決して食糧危機の問題は解決できない」こと、前回のエントリー [2]では「金貸し達によって制度を使った市場拡大(=支配)が行われ、その結果、途上国の食糧危機が生まれ続けている」ことを紹介しました。
今回は現状の日本における輸出入問題と食糧問題、その方向性を考えてみます。
     
現状の日本は、リーマンショック以降の輸出額低下、TPP(環太平洋経済連携協定)への参入判断など、社会背景が大きく変動している状況下にあります。
また、世界的な食糧価格の状況は、新興国の需要拡大や昨年からの気候変動、商品市場への投機資金流入などにより、史上最高の価格高騰が生じているのです。(詳しくは本編の「食糧価格指数」の推移グラフを参照ください)
   
[3]
      
輸出額が頭打ちとなり、食糧などの輸入額が高まっていく可能性が高くなる現状において、日本はどうしていくべきなのかでしょうか。
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①日本の輸出・輸入の状況⇒輸出額の頭打ち、輸入額の増大
まず、今の日本の輸出・輸入の状況を押さえてみましょう。
(1)リーマンショック(2008.09)による影響   
・主要な輸出先である欧米が、金融不安から企業倒産も含めて、非常に厳しい経済状況に陥った結果、市場が縮小し、日本の輸出品の売り上げが大きく低下しました。
           
・欧米が円安から円高に転換し、為替差益による輸出品の売り上げが大きく落ち込み、その結果、輸出を柱とする日本企業は大きな損益を出しました。
           
[4]
<日本の輸出入総額の推移グラフ>財務省データより
[5]
<為替相場の推移>
     
(2)TPPへ参入した場合の影響 
・TPPに参入するか否かはまだ決定されていませんが、米従路線をとる菅内閣では参入の可能性が高そうです。そこで問題となるのが(本当の問題は他にもありますが [6])、食糧輸入に関する問題でしょう。
現状でも輸入品の方が価格は安く、その上関税撤廃ともなれば、国内生産品では価格競争で勝てない品目が多々出てくることが考えられます。
(十勝総合振興局の試算によると、TPPに参加した場合、農業産出額で1382億円、十勝全体で5037億円の損失が生まれ、4万人が失職するとされている。 「利益?不利益?そもそも「TPP」の目的って何?」 [7]より)
     
そうなれば、先進国の中でも最も低い自給率(40%)が、更に低くなります。
      
[8]
<国別自給率の推移>
        
(3)食糧の価格高騰 
まず、下記の国連食糧農業機関(FAO)による「食糧価格指数」の推移グラフ [9]を参照ください。
[10]
            
2008年に高騰した食糧価格指数が一旦沈静化した後、昨年後半から再び高騰し始め、史上最高を記録しました。これには以下の内容が影響しています。
         
1.中国やインドなど新興国で需要が拡大
2.世界的な天候不順の影響で生産高が落ち込み、需給が逼迫
3.商品市場への投機資金の流入、高騰

     
以下「農業情報研究所 1月のFAO食料価格指数 史上最高に」 [11]より

国連食糧農業機関(FAO)の今年1月の世界食糧価格指数が史上最高を記録しています。
(中略)
実際、世界中で食料インフレが起きている。チュニジアに始まり北アフリカ・中東全体に広がりつつある独裁政権打倒の動きは、食料・石油価格の高騰(と失業蔓延がもたらす生活苦)が引き金になっている。長期独裁への反撃が、どうして今始まったのか。それなしでは説明できない。
(中略)
今はデフレの食料輸入大国日本も、国際価格高騰が続くかぎり、いずれ食料価格高騰、あるいは食料欠乏で行き詰る。世界食料市場がこの大荒れの時代に自由貿易の大海に漕ぎ出せば、間違いなく沈没する。

これらから見て取れることは
●市場縮小や為替の影響から、輸出額がこれまでのように大きく伸びることは困難な状況になる。
●新興国の需要増加や、天候、世界情勢の不安定さ、更にTPPへの参入となれば、食糧(エネルギー)価格の増加に伴い、輸入額は増加(自給率は更に低下)する方向に進む。
 
  
ことが考えられます。
            
           
②「国際収支の天井」の可能性 ⇒ 海外から食糧を買う時代は終わった 
(1)国債収支の天井
先に見てきたとおり、日本の輸出は世界金融不安以降大きく低下し、やや回復の兆しを見せているとはいえ、欧米市場の危うさと、アメリカ主導の円高が続くなかで、これまでのように貿易黒字を得ることが困難な状況になっています。
       
一方、「世界的な食糧価格の高騰」と「日本のTPP参入」となれば、食糧とエネルギーの大半を輸入に頼っている日本では、輸入総額がどんどんと高くなっていくことは明らかです。
世界経済の状況や食糧価格の高騰から判断すると、日本の輸出額減、輸入額増の構図が浮かび上がってきます。    
そこで考えられるのが戦後しばらくの間存在していた「国際収支の天井」という言葉です。
     
以下「日本経済は再び国際収支の天井を迎えるのか」 [12]から引用します。

2007年の日本の貿易構造を見ると、鉱物性燃料を20.3兆円、食糧を6.0兆円輸入していることがわかる。つまり、エネルギーと食べものを海外から26.3兆円も買って生活しているということである。そのためにも外貨を稼がざるを得ず、輸出の上位3品目、自動車を17.7兆円、半導体等電子部品を5.2兆円、鉄鋼を4.0兆円輸出することで合計26.9兆円の実績をあげ、エネルギーと食に充当しているという構図が描ける。
    
仮に、エネルギー、食糧の価格高騰が進行し、価格が倍になったとして、2007年の輸入量を確保しようとすれば、52.6兆円の輸入代金を投入せざるを得ないことになる。ということは、2007年の日本の輸出の上位10品目(上記3品目に加えて、自動車部品、原動機、有機化学品、プラスチック、科学・光学機器、電気回路等機器、電算機部品)で稼いだ外貨を全部投入しても46.8兆円にしかならず、2007年の輸出総額83.9兆円の3分の2をもってエネルギーと食糧を買わねばならないことになる。
     
戦後しばらくの間、日本の経済白書には「国際収支の天井」という言葉が存在した。「売るものがないから買いたいものも買えない」ということで、輸出産業が育っていないから輸入も思うようにできないことを意味していた。再び、この「国際収支の天井」という言葉を想起させられる事態となりつつある。
       
「エネルギーと食糧は海外から買うほうが効率的だ」という時代は終わりつつある。エネルギーと食糧を耕作する文明への転換が求められるということである。再生可能エネルギーの開発、食糧自給率向上は明確に時代のテーマとなりつつある。例えば、現在39%といわれる食糧自給率を5割レベルにまで上げるための農業生産法人(2007年に9,460にまで増大)の充実など課題は見えてきている。

   
「国際収支の天井」とは、輸入額がどんどん増えていくと、外貨のバランスを保つ為には、輸出額を増やすことが必要になる。それが無理なら、国内需要を抑えて輸入額を減らすしかない。
つまり国際収支の赤字(輸入超過)を改善するために、国内が経済成長をしていても、無理やりそれを押さえ込むことが必要になる、というものです。
          
(2)外貨準備高のリスク
ちなみに日本の外貨準備高は増加の傾向を示していますが、その約90%が「証券」でありアメリカ国債がその中心と考えられます。
つまり、外貨準備高はアメリカのドル暴落が起これば、一気に目減りすることが考えられるのです。
     
[13]  [14]
          
これまでの内容を整理すると、
1.輸出額はこれからは大きく伸びない。
2.食糧・エネルギーの輸入額は増える。
3.外貨準備高もドル暴落が起こると、一気に目減りする。

以上のことから、もはや食糧(エネルギー)を輸入に頼っている時代ではなくなったと考えるべきではないでしょうか。

   
   
③自給率の向上が必要 ⇒「農」の再生が必要。        
(1)市場価格では勝てない。国内生産者への補助金が必要
では、現実に海外から食糧を買うのをやめる=自給を高めるにはどうしていくべきでしょうか。
TPP参入への可能性も考えると、市場価格で輸入品に対抗するには困難です。
    
現実に「小麦」は、政府が一括窓口で海外から安価で購入し、加工する製粉会社等へは小麦の国内生産者への補助金分を加算して転売することで、国内生産者を保護する政策をとっています。 
          
よってまず、「国」「政府」による国内生産者への国家補助金が必要になると思います。
   
     
(2)「農」を再生する
自給率を高めるには、まず就農者を増やしていく必要があります。
そのためには、「農」自体の再生が必要となることは、云うまでもありません。
この「農」の再生が最も重要なポイントなのではないかと思います。
        
シリーズ「活力再生需要を事業化する」9〜『生産の場として、儲かる農業』がみんな期待の応える事になるのでは? [15]を参照ください。
    
輸入品が増えれば、ますます食の安全志向の高まりが助長され、かつこのまま国際的な食糧価格の高騰が続けば、多少高くても目に見える安全・安心を優先して国内商品を買う人は増えてくるでしょう。
市場という旧い評価の場の中で評価を勝ち取っていくこと、「農」の持つ共認充足や教育機能、集団や地域再生などの多面的な価値(本源価値)を再生していくことが必要になるのだと思います。
   

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