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金融資本主義の崩壊、その実相追求 3.ギリシャのEU加盟、ユーロ参加の実相

先週末、ギリシャ救済問題を討議していたユーロ圏首脳会議で、総額1,590億ユーロ(約18兆円)の追加支援策が合意された。支援の条件も大幅に見直され、返済期間延長や金利低減も図られた。また、欧州金融安定化基金(EFSE)の機能を拡充し、財政危機に陥った諸国の国債を市場から購入する機能や緊急融資機能を与えることで、セーフティーネットの強化策も図られた。これで当面の危機は一旦は回避された。

しかし、ギリシャの債務救済にこれほどまでに時間を要した理由はどこにあるのか。また、EU諸国との意識の断絶はどこにあるのか。これまではギリシャ人の体質と国家の放漫経営が経済危機の全てであるかのように言われているが本当はどうなのか。

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抗議集会が頻繁に行なわれるシンタグア広場の結婚式。ギリシャ人の風貌は、中東・オリエントに近い

写真は、本文に登場するブログ『ギリシャへそしてギリシャから』よりお借りしました。

今回はギリシャのEU加盟、ユーロ参加の実相について、ギリシャの国家・国民性とドイツの身勝手さも含め詳しく見ていきたい。

1.ギリシャの特徴、国民性は半欧州・半オリエント 
2.ギリシャはシエスタ(昼寝)をしている訳ではない 
3.統一通貨ユーロは専らドイツを利した 
4.ユーロメンバーとして太った七面鳥になったギリシャ

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1.ギリシャの特徴、国民性は半欧州・半オリエント

ギリシャと相思相愛36年の管理人さんの現地報告『ギリシャへそしてギリシャから [1]』よりギリシャの特徴、国民性をみてみる。

我々はギリシャ人でありたい [2]

現在のギリシャを形づけることになる きっかけその瞬間がyoutubeで見られます。

1977年のギリシャ共和国国会。最初に演説しているのはアンドレアス・パパンドレウ(今回の選挙で選ばれた新首相ヨルゴス・パパンドレウの父)です。

彼が『ギリシャが欧州経済共同体(のちのEU)に参加することが我々国民にとって重大な決断となることには同感である。しかし、この決断をするために我々国民は西側世界の一員となるという犠牲を払うことで・・』と言いかけていると

『待て、何を言ってるんだ』と、怒りをみなぎらせ発言の途中から割ってはいるのが時の首相コンスタンディノス・カラマンリス(前コスタス・カラマンリス首相の叔父)。

ギリシャは西欧だ・・・ギリシャ国民が西欧人であるのは自明の事実だ』とパパンドレウの発言をさえぎります。

ここからが素晴らしいのです。突然の横やりに 答えは用意していなかったはずですが、『我々は むしろ ギリシャ人でありたい』と、アンドレアス・パパンドレウが切り返し国会の中に大きな拍手が起こります。

しかし、この後の選挙で パパンドレウの党派は破れカラマンリス首相が再選されます。

結果 ギリシャ共和国は 欧州経済共同体に加わり、バルカン半島の最端とエーゲ海の島々に散らばって残るビザンチン文明の後継者というユニークな立場から徐々にヨーロッパ諸国のひとつへと変化していくことになるのです。

私が最初に出会ったギリシャは まだ 今のようなヨーロッパ的な国ではなかった気がします。

どうなるギリシャ? [3]

ギリシャは独立後、大国の支配を切り抜けて、うまく独自性を貫いてきました。

交渉上手な彼らは、異教徒の脅威にさらされる西洋文明の源という感傷的な弱みをついて、西洋の列強の支持を後ろ盾に独立をなしとげました。

冷戦中はアメリカに基地を提供しながら、ソビエトに接近し、なにかにつけてNATOの脱退をほのめかすことを武器に、西側から重要国とみなされ守られました。国内から現れた独裁者の圧政時代を耐えぬき、国民は自由を勝ち取った瞬間に、西洋から押し付けられた王族を追い出したのです。

スペインや、チュニジアやトルコの海岸は巨大な白亜のホテルチェーンに覆われていいます。そこだけが地元の人たちとは切り離されたバーチャルな世界に作られている事が多いのです。

そういう場所に訪れるのは、太陽と砂浜があれば後は値段で選ぶツアー客です。地元の雇用を増やすという口実の裏で、利益の殆どは国際的な企業に吸い上げられていきます。

それに反してギリシャの魅力は小さな家族経営のホテルやペンション、島ごと、地方ごとに異なる言葉や音楽に直に触れられる参加型リゾート、臨時村人体験ができる場所なのです。ちょっと不便で、特になんのアトラクションもなくって、のんびりして景色が美しいようなところです。

国が破産して、IMFや多額の援助をしたドイツの意見を無視できなくなったとき、ギリシャが「効率」を考え始めるとき、その独自の魅力が失われてしまうのではないかと、とても心配になるのです。

次はギリシャの魅力にとりつかれてアテネに定住し、西洋文化のゆりかごと呼ばれるギリシャから、今日のアテネやギリシャ人の国民性、財政危機問題などについて、様々なメディアに発信されている有馬めぐむさんのギリシャ側の視点に立った愛情溢れる記事からみる。

2.ギリシャはシエスタ(昼寝)をしている訳ではない

ギリシャ危機の渦中から〜財政危機はなぜ起こったのか?〜 有馬めぐむ> [4]より紹介する。

ギリシャの人々に何がおこったのか?

「ギリシャの人々はシエスタをしたりして、あまり働かないのでこうなったんでしょうか?」「働く気がないからストやデモをしているのですか?」などという質問を投げかけてくる人もいて、失笑してしまう。
大都市アテネのホワイトカラーでシエスタをしている人など存在しない。昼食だって手早くサンドイッチなどを15分くらいで食べるだけ。しっかり1時間、昼休みをとる企業はなく、公務員は別として、民間会社の人々はあくせくと働いている。ドイツとギリシャを「アリとキリギリス」に例えたメディアもあったが、あの東西ドイツ統一の経済混乱の際、ギリシャはドイツに経済支援もした。それらを念頭に入れれば、ただギリシャをキリギリス扱いするのはあまりにも単純だ。

実際、IMFの統計では、2000年頃から今までに至るまで、ギリシャのGDP成長率はドイツのそれよりずっと伸びを見せていた。だから突然の財政破綻発言は国民にとっても寝耳に水の出来事だった。

莫大な政治資金が忽然と消えたのは、現首相のパパンドレウ家、前首相のカラマンリス家に代表される世襲制の特権階級的政治が繰り広げられ、ドイツのシーメンス社事件など、閣僚の汚職が星の数ほどあったからだ。日本の“消えた年金”ではないが、責任の所在はうやむや、名前のあがっている政治家は辞職もせずに国会に居座り続けている。これらのツケを払わされるのはごめんだと国民が猛反発するのは当たり前だ。

 

3.統一通貨ユーロは専らドイツを利した

ユーロ共同体のトリック

ドイツはギリシャ国債を多く保有している。それならなぜメルケル首相はなぜのらりくらりとギリシャ支援を渋り、ユーロの下落を“待って”いたのか。それはEUの共同体としてのからくりにある。「ドイツは劣等生のギリシャの面倒を見なくてはいけないから気の毒だ」などと思っている人がいるようだが、これは全く逆である。強い通貨と弱い通貨の国が一緒になった時、どういうことが起こるか考えてみれば明白だろう。米ドルとの関係性でも優等生のドイツが引き締め金利政策を採れば、EUメンバーの国もそれに習えをしなくてはいけない。結果、強いドイツ以外の国はどっと不景気になってしまうのだ。もちろんこれは当初から予想されたため、安定を図る取り決めもあったのだが、今となってはすっかりなし崩しだ。

ユーロが導入されて、ギリシャや他の南欧の国々ではメルセデス、BMWなどの車が買いやすくなった。家電製品だって、シーメンス、ミレ、ボッシュなど大半がドイツ製。南欧の国々はドイツにとって最高の顧客となった。

今回のギリシャ危機でのユーロ下落は、産業国のドイツにとっては、大歓迎すべきこと。ギリシャ国債を見捨てても国益への見返りは十分にある。ドイツ企業に勤めていれば、日本人だってそんなことは百も承知。日本国内のメディアに話をする際と、欧州在留邦人ビジネスマンのための経済誌などに寄稿する際、担当者からして温度差があるのはそのためだ。欧州在住でそのからくりをわかっていないビジネスマンなどいないだろう。

しかしメルケルはやりすぎてしまった。何もわからずギリシャ支援反対をを叫ぶ国民の叫びを利用しつつ、国益も過剰に得ようとした。二兎を追うものは一兎をも得ず。州選挙の結果は如実だった。

一方ギリシャは観光国。眩い太陽と青く澄んだ海には多くの観光客が訪れる。しかしユーロ導入で一気にインフレが起こり、「同じ地中海リゾートならトルコが安い」と観光客の大半は持っていかれてしまった。また欧州中の人々がバカンスに押し寄せるギリシャの地価は跳ね上がった。アテネ近郊の高級リゾート地ヴーリャグメニは現在ヨーロッパでも1,2を争う地価の高い地域となった。景勝地の別荘を買いあさったのは大半がドイツ人だと言われている。以前、ギリシャ人の別荘所有率はミドルクラスでもかなり高かったが、通貨統合後、ギリシャ人が別荘を購入することはほぼ不可能となった。

ギリシャ危機の渦中から〜財政危機はなぜ起こったのか? [4]

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左からベンツのEクラス、シーメンスの掃除機、ボッシュの冷蔵庫

4.ユーロメンバーとして太った七面鳥になったギリシャ?

なぜギリシャはユーロのメンバーに?

ではなぜギリシャはユーロのメンバーになりたかったのか?そこには対トルコに根ざす深刻な問題が横たわっている。

ギリシャはオスマン・トルコに約400年間占領されていた。過酷な占領時代には人口の約4分の1が虐殺された。壮絶な独立戦争の後、独立を果たしてからも軍事的ないざこざは耐えない。ギリシャにはEUの傘下での保護が必要不可欠だった。

トルコは軍事国家の側面が強く、領空侵犯は日常茶飯事。戦闘機のスクランブルだけでも莫大な費用がかかる。海洋権益の問題も揉めている。

実にギリシャは1年に40億ユーロも防衛費につぎ込んでいるのだ。全体の予算に対する防衛費の割合は巨大すぎて、小国でこんな軍事費を割いている国は欧州で他に存在しない。

移民対策もそうだ。欧州の玄関口となるギリシャには毎日大量にアフリカ、アジアからの不法移民が船で押し寄せる。2500もある島々の海岸線をヘリで見回るのは、穴の開いた財布を持たせられているようなもの。「手分けしてほしいなら、EUには加盟してね」と言われてしまった。

またこの戦闘機、潜水艦、ヘリなどの大半はドイツから購入しているのである。ここ数年で購入した潜水艦だけでも60億ユーロ!実にギリシャはドイツの最大のクライアントなのだ。

ギリシャ危機の渦中から〜財政危機はなぜ起こったのか? [4]

ギリシャ、債務増大の中で潜水艦購入 [5]

地中海の債務国ギリシャは、ドイツからの2隻の潜水艦購入に10億ユーロ(1122億円)以上を支払うことになって いる。同国はまた、フリゲート艦6隻、救難用ヘリコプター15機をフランスから購入して多額の支払いをする方針だ。

武器の多くは、ギリシャ救済で最大の負担を受け入れ、身の丈にあった生活をしろとうるさく批判しているドイツから来ている。

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  ギリシャがドイツから購入する潜水艦

食い物にされ続けるギリシャ

今日のギリシャのある大手新聞の記事。

「ジョージ・ソロスとその仲間たちは数年前からギリシャに目をつけていた。やせ細った七面鳥をもっと太らせよう。ギリシャ政府にゴールドマン・サックスが接触。皆でギリシャの国家資金を汲み出した。さあ太りに太った七面鳥(ギリシャの財政赤字)、今が食べごろ!ことし2月(注:2010年2月)、ニューヨークではジョージ・ソロスとその仲間たちが、美味しい七面鳥を目の前に、パーティの準備を始めたのだ」

ギリシャ危機の渦中から〜財政危機はなぜ起こったのか? [4]

半西欧、半オリエントのギリシャが、EU加盟、ユーロ参加により、つかの間の繁栄を味わった。しかし、その反動は大きく、半オリエントの視点から、『債務不履行(デフォルト)を行い、ユーロから離脱、ドラクマ(旧ギリシャ通貨)への復帰、そして貧乏だが緩やかな生活原点への回帰』という議論が静かに進行している。

以上、今回はギリシャのEU加盟、ユーロ参加の実相について、ギリシャの立場に立った視点でみた。

次回は「EUと通貨ユーロのシステム限界、EUと英米の危機を巡った相互牽制」を扱う。

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