- 金貸しは、国家を相手に金を貸す - http://www.kanekashi.com/blog -

震災後の日本経済どうなる?〜2.物的被害の大きさ〜

震災後の日本経済どうなる?シリーズの第2回。
◇過去の記事
第1回 1..人的被害の大きさ

%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0%E5%86%99%E7%9C%9F%EF%BC%91.jpg %E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0%E5%86%99%E7%9C%9F%EF%BC%92.jpg
震災後の岩手県大槌町

政府は7月21日の関係閣僚会合で、今回の東日本大震災の復興期間を「10年間」として、国と地方を合わせて少なくとも「総額23兆円」の復旧・復興事業を実施する方針を固めました。

 この方針では、当初5年間は集中復興期間として、約8割の19兆円を投入し、残り5年間で4兆円を投入する予定ですが、財政が逼迫している状況(国と地方債合計で1,000兆も間近…)において、財源をどう確保するのか?については、まだまだ議論が続いており、混迷している様子も伺えます。
 ちなみに、当初5年間で投じる19兆円の大きな内訳ですが、被災地の土地区画整理事業や住民の集団移転など、新たな街作り事業に8〜9兆円、就業・就学支援や水産業の基盤整備など「暮らし再生」事業に3兆円を見積もっています。
今回エントリーでは、上記のような巨額の復旧・復興事業費が予定されるに至った「物的被害の大きさ(被害額)」について、現状の試算を把握してみたいと思います。
続きに行く前に応援クリックをお願いします。


◆東日本大震災の物的被害は?
阪神大震災(1995年)の場合、政府試算では被害額9.3兆円、兵庫県試算では9.93兆円とも言われます。
それに対して、復興費は約13兆円に上りましたので、単純に計算すると被害総額の約130%分が復興費用に充てられたことになります。
では、今回の東日本大震災の場合、被害規模はどの程度になるでしょうか?
平成23年6月24日に内閣府 [1](防災担当)が公式に推計値を発表しています。
※色枠は引用者による。画像はポップアップです。

[2]

内閣府試算によると、被害総額は16.9兆円に上り、阪神大震災の9.6兆円と比較しても、今回の震災が如何に甚大な被害をもたらしたかが、数字の上でも明確になります。
特徴は、地震そのものによる建築物等への被害より、東北沿岸部に押し寄せた津波によって建築物・農林水産施設に多大な被害が生じたことでしょう。
次に、内閣府以外を探索したところ、「財団法人関西社会経済研究所」が被害額を試算していることが分かりました。

東日本大震災による被害のマクロ経済に対する影響

上記のレポートから、被害額の推計について記載された箇所を抜粋します。
<ストック被害額の推計>
1.住宅       5.20兆円
2.社会インフラ   7.24兆円
3.民間企業設備  3.62兆円
4.自動車・船舶  1.28兆円
5.流通在庫等   0.44兆円
合計        17.78兆円
まず注意すべき点は、4と5に見る「動産類」が被害額として計上されていること。
合計で1.72兆円に上りますが、この数字は内閣府の被害総額には含まれていません。
今回ブログ記事の主旨「物的被害の大きさ把握」に照らし合わせれば、算入しておく必要があると考えています。
次に1〜3項目について、内閣府試算と比較してみたいと思います。
・1.住宅と3.民間企業設備の合計が、内閣府試算の建築物等に該当します。
 関西社会経済研究所 8.82兆円 : 内閣府 10.4兆円
・2.社会インフラが、内閣府試算のライフライン施設と社会基盤施設、農林水産関係とその他の合計に該当します。
 関西社会経済研究所 7.24兆円 : 内閣府 6.5兆円
(※内閣府試算における「その他」の項目は、文教施設や福祉関係・廃棄物処理施設など公共施設の被害計)
比較した結果、各々やや政府試算と数字が異なることが分かります。
主な原因として「損壊率の設定」が挙げられるようです。
→内閣府は阪神大震災と比較した損壊率を設定しているのに対し、関西総合研究所は、今回の災害で発表された実際の住宅の被害戸数と浸水地域の面積をもとに流出住宅戸数を割り出している
以上より纏めると、、
・建築物(民間や公共施設含む)、ライフライン施設、社会基盤施設(河川や道路・空港等)、農林水産施設などの被害額合計が、内閣府で16.9兆円に対し、関西社会経済研究所で16.06兆円。
・内閣府では計上されず、関西社会経済研究所では計上された動産類の被害額が1.72兆円。
よって、それらを合計して東日本大震災での物的被害の規模を求めると、
・17.78兆円〜18.62兆円となり、各々の公式発表より正確に近い値として固定することができます。

◆生産基盤が喪失したことによる被害

物的被害の把握から、少し話はそれますが、今回の津波は東北地方の生産基盤(特に農林水産関係)に大きな打撃を与えました。
平成23年3月29日の農林水産省 大臣官房統計部の発表によると、青森県・岩手県・宮城県・福島県・茨城県・千葉県で、流失や冠水等の被害を受けた「田」や「畑」は、ざっと23,600ヘクタールに上ります。
6県合計の耕地面積は約90万ヘクタールですから、全体で見た場合は2.6%の被害率になり、これだけを見れば、まだ生産基盤としては十分に確保されているような気もします。
しかし、岩手県の陸前高田市(被害率62.1%)・宮城県の山元町(同77.8%)や亘理町(同78.6%)など、市や町によっては半分、またはそれ以上の耕地面積を失うような壊滅的な打撃を被っている地域があり、市町村単位で押さえた場合、そこで住まわれている被災者の方々の被害の深刻さを十分に理解することができます。
政府はこれら23,600ヘクタールの田畑復旧につき、3年をメドに復旧を考えているようです。
(参考:朝日ニュース4月27日 [3]
津波の被害を受けた田畑では、がれきを除去した上で、用水路や排水路を復旧させ、除塩する必要があります。
物的被害もさることながら、特に被害の大きな地域は今後数年間にわたって生産自体がストップし、雇用喪失に直結する点は十分に認識しておく必要があります。
そこで、被害の全体像を捉えるにあたっては、被害地域の物的被害(資産=ストック)だけでなく、今後数年に渡って継続する生産や雇用の被害(フロー)も押さえておくべきだと考えてます。
◇ ◇ ◇
次回エントリーは、シリーズテーマを追う上で、より大きな視点に立つことで見える、世界経済の動向とそれによって日本が受ける影響について、るいネット [4]の記事を引用しながらご紹介したいと思います。
具体的には、米国債のデフォルト危機(共和党と民主党が妥協案を締結する見込みで、直近でのデフォルト危機は何とか避けられそうですが…)、そこでの金貸しの意図は何か?について迫っていきます。
その後は、さきほどの農地被害の事例に代表されるように、フローの被害について、様々な情報と仮説を元にして、当ブログなりに状況を把握→算出していきたいと思います。
次回以降のエントリーもどうぞご期待下さい!

[5] [6] [7]