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金融資本主義の崩壊、その実相追求 6.米国債不安から急遽訪中した米副大統領

8月2日、オバマ大統領による上限引上げ法案「財政コントロール法(Budget Control Act of 2011)」署名により米国債デフォルトは一旦回避されました。8月5日、金融危機以来最大の下落幅を記録、ダウジョーンズ工業株価平均指数は500ポイント以上下落しています。8月6日、国際格付機関スタンダード&プアーズは、米国の長期国債信用格付けを最高レベルの「AAA」から「AAプラス」に一段階引き下げ、格付けの見通しを「ネガティブ」としました。米国債の格付けがAAAから落ちたのは史上初めてです。

このような情勢の中、バイデン米副大統領が8月17日に北京入りをしました。この時期の訪中は、中米双方にとって、どのような目的を持っていたのでしょうか?

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     写真はバイデン副大統領と温家宝首相(ロイター)

今回は、次のような視点で中国の実相を見ていくことにします。

1.バイデン副大統領は米国債は安全だと表明しに行った
2.急増する外貨準備、ウエイトを下げる米国債
3.外貨準備の分散化を大胆に推察する

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1.バイデン副大統領は米国債は安全だと表明しに行った

人民網等の記事を見てみます。

バイデン米副大統領が本日訪中、注目される数々の議題 [1] 
 
米財務省高官は15日のブリーフィングで、8月初めにオバマ大統領の署名する包括的赤字削減法案について、バイデン副大統領が米債務交渉の全過程に参与した高官として中国側に説明し、債務問題の処理に向けて力強い措置を講じていることを伝えると述べた。 
 
同高官は「米国債はAAAからの歴史的な格下げをされ、米債務危機の暗雲は遅々として去っていないが、バイデン副大統領は訪中時に『米国にはわれわれの直面する厳しい財政試練に全力で対応する能力と意欲がある』と強調する」と表明した。

米財務省高官が、今回のバイデン米副大統領の訪中目的は「米国債は安全。安心して欲しい」と中国政府に説明しに行くことだと表明しました。

習近平国家副主席がバイデン米副大統領と会談 「中米協力パートナーシップの一層の発展に4提案」 [2] 
 
習副主席は中米協力パートナーシップの一層の発展ついて(1)中米協力パートナーシップの大きな方向性を揺るがず、しっかりと捉える(2)包括的・互恵的経済パートナーシップを深める(3)中米関係の健全で安定した発展を確保する鍵は互いの核心的利益の尊重だ(4)中米グローバルパートナー協力を一層強化する—-の4提案を示した。

習近平副主席との会談では、米国債問題は議題に入っていなかったようです。

胡錦濤主席がバイデン米副大統領と会談 「遠大な視点に立って協力関係の発展を」 [3] 
 
胡主席は今年に入ってからの中米関係の新たな進展を積極的に評価。・・・中米双方は両国間の重大な問題、敏感な問題を適切に処理し、両国関係発展の大局を確固として守り、相互尊重と利益共有に基づく中米協力パートナーシップの健全で安定した、踏み込んだ発展を促していくべきだ」と述べた。

胡錦濤主席としての発言なので、抽象的なものに止まっています。

温家宝首相がバイデン米副大統領と会談、米副大統領、中国に米債の安全性を再確認 米中間の信頼醸成に努力(ロイター) [4] 
 
温首相は「米国が国債に関する約束と義務を順守し、米国債の安全性と流動性と価値を保全するとのメッセージをバイデン副大統領が中国国民に向けて発信したことは非常に重要なことだった」と述べた。 
 
これに対してバイデン副大統領は、米政府は中国政府の米国債への投資に感謝しており、米国は中国による投資を歓迎すると発言。米国債について「一切懸念することはないと明言する」と述べた。

温首相からズバリ米国債問題について中国側の懸念が示され、それを受けてバイデン米副大統領から米国債は安全だと説明し、米国への継続信任を要請した会談でした。

訪中前の米財務省高官のブリーフィングの通り、バイデン米副大統領の訪中目的は「米国債は安全」だと説明しに行った事が明らかになりました。

2.急増する外貨準備、ウエイトを下げる米国債

急増する外貨準備

中国は管理変動相場制で輸出産業保護政策を継続しながらも、人民元為替レートの上昇を求める外国からの圧力(特に米国)を交わす為、変動幅制限(基準レート)を定め人民元レートの上昇を受け入れています。

中国は世界資本(欧米の金貸し)に対する強い警戒心を抱え、多くの新興国が、やすやすと欧米の金貸し達に蹂躙されている状況と比べ、中国政府は独自の経済政策を取っています。

しかし、国家管理下に置かれた人民元安の状況が長期にわたり維持された結果、生み出される貿易差益が膨大な外貨を稼ぎ出し、外貨準備高は過去最高を更新し続けています。現在、米国との通商摩擦問題も解決の糸口を見出せず、エスカレートする一方です。

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中国の外貨準備は2000年以降上昇基調に入り、2006年2月には日本を抜いて世界一となりました。2011年6月の外貨準備高は3兆1975億ドルに達しています。

人民元管理、ドル資産の保有

実事求是 [5]から引用します。

2010年6月に再開した人民元改革の実態 
 
中国は金融政策の独立性の向上と米国との通商摩擦の緩和を目指して、人民元改革に取り組んできた。その一環として、中国人民銀行(中央銀行)は2010年6月19日に、人民元レートの弾力性を一段と高めると表明し、週明けの21日に2008年9月のリーマン・ショック以来続いた事実上のドルペッグ制を終了し、人民元の切り上げを再開した。これにより、中国は、2005年7月に行われた「人民元改革」が導入され、約3年間にわたって実施された「管理変動相場制」に復帰した。

次に外貨準備高と米国債保有の状況を見てみます。

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2005年7月「人民元改革」以降は、為替相場、外貨準備高とも急上昇している状況が見られます。しかし、米国債保有残高、米エージェンシー債保有残高は、外貨準備高に比べ、増加ペースが小さいです。外貨準備における、米ドル(米国債、米エージェンシー債)の比率を下げています。

中国の外貨準備の多様化、米ドル離れが読み取れます。

3.外貨準備の分散化を大胆に推察する

2011年6月の中国外貨準備は、中国外為管理局の発表によると、3兆1975億ドルに達しています。

一方、米国財務省から発表される財務省証券(米国債)の国別保有をみると、中国の保有額が第1位で、1兆1655億ドルです(2011年6月末)。
因みに、第2位は日本の9110億ドル、第3位が英国の3495億ドルです。

また、中国は、2010年で、米エージェンシー債を4000億ドルほどもっています。(米財務省統計)

エイジェンシー債とは、米国政府の関係機関が発行する債券(借金)のことです。具体的には、ファニーメイ(米連邦住宅抵当金庫)とフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)です。

中国は、米国債と米エージェンシー債を合わせて、1兆6000億ドルほどもっている事になります。

中国の外貨準備3兆2000億ドルのうち、米国政府債権が1兆6000億ドルですから、残り1兆6000億ドルは何をもっているのかが問題になります。

もちろん、中国の外貨運用ファンドによる米国株式や企業社債への投資というドル資産投資がありますので、1兆6000億ドル全てがドル以外ではありませんが、1兆ドル以上をドル以外へと分散しているものと思われます。

そこで、断片的に伝わる動向から、大胆に、1兆ドル以上の中身を推察してみます。

大きく、以下の5分野への分散が行われているでしょう。

①金の保有を拡大。近年数百トン規模で金を買い増し、2010年末には、1054トンを保有しています。
今後6000トン規模まで拡大するとの報道もあります。

②ユーロ資産。これは解説するまでもありませんね。

③二国間通貨決済に基づく、BRICS通貨(資産)。

中国ロシア間で、ドルを介しない決済がスタートしました。人民元とロシアルーブルでの決済です。両国がそれぞれ相手国の通貨を外貨準備としてもつのです。ルーブルを中国が外貨としてもちます。中国とブラジルの間なら、中国はブラジルレアルを外貨準備としてもちます。中南米諸国の通貨(資産)ももっていそうですね。

中国とロシア、2国間の貿易決済で人民元とルーブルの利用拡大で合意 [6] 
 
[北京23日ロイター]中国とロシアは、両国の企業が、現在の兌換通貨に加え、人民元とルーブル建てで貿易決済することを認めることで合意した。中国人民銀行(中央銀行)が23日、明らかにした。両国は自国通貨での2国間取引を促進し、ドルへの依存度を低減することを目指しており、中国は昨年11月、ロシアは12月に人民元とルーブルの取引を開始した。

④アジア諸国の資産(例えば日本国債)。

中国が、日本国債の保有を増やしているとの報道が行われました。1兆円規模で日本国債を買い増している動きです。同じような動きは、対韓国、対アセアン諸国でしているはずです。

中国の外準運用先、多様化加速を=人民銀金融政策委メンバーリンク [7] 
 
[北京14日ロイター]中国人民銀行(中央銀行)金融政策委員会メンバーの夏斌氏は14日、ドル下落のリスクをヘッジするため、中国は外貨準備の運用先多様化を加速する必要があるとの見解を示した。夏斌氏は、中国が多様化の一環として、日本国債などドル以外の資産を積み増したことに言及した。

⑤香港ドル。

通貨の面でいえば、香港ドルは外貨になります。香港経済との一体化が進んでいますので、相当規模の香港ドルを外貨として確保しているはずです。

上記の5つの分野に、それぞれ1000億ドル〜3000億ドル規模で分散しているのではないかと推察できると思います。

中国は、衰退する基軸通貨ドルと心中するつもりはなく、米国に安定要求を行う一方で、着々と国家の富を他の通貨建て資産に分散しています。

数年以内、早ければ2012年にも、基軸通貨ドルの崩壊、世界大恐慌が予想されます。

日本はどうするのかが、喫緊の課題となりました。

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