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「ユーロ統合」どうなる? 第2回〜ユーロ統合の構造的欠陥〜

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ギリシャの財政危機がPIIGSの他の国に飛び火しています。影響はユーロ圏全体にまで広がり、終末はすぐそこまで来ています。 
 
そもそも、ユーロ圏はどうしてこのような苦境に陥ったのでしょうか? 
 
第1回 [1]ユーロ統合のプラス面を扱いましたが、第2回ではユーロ統合のマイナス面=構造的欠陥について扱っていきたいと思います。 
 
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■ユーロの構造的欠陥〜①ユーロ導入が招いた経常収支格差(弱国の競争力低下) 
これは、スペインとアイルランドの財政収支と経常収支のグラフです。 
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<画像はFacebook「What Really Caused the Eurozone Crisis?」 [3]よりお借りしました>
 
Fiscal balance(財政収支)=国の歳入から歳出を差し引いたもの。 
CA balance(経常収支)=国の間の貿易や投資などのサービス取引の結果、どれだけ儲かったか、どれだけ損をしたのかを示したもの。 
 
まず、赤で描いた財政収支の折れ線を見てみます。2006年時点ではプラスを維持し、財政は健全な状態にあったことが分かります。ユーロ危機の原因は財政赤字だと言われていますが、むしろ注目すべきは経常赤字です。 
 
そこで、青で描いた経済収支の折れ線を見てみると、1999年通貨統合以降、経常赤字は急速に膨らんでいったことが分かります。 
 
いったい何が起こっていたのでしょうか? 
 
その時、スペインやアイルランドに、ドイツやフランスから大量のお金が流れ込みました。ユーロ圏の国々から投資すれば、為替リスクを負わずに高い金利を得られたからです。 
そして、後述するユーロ圏の構造的欠陥もあいまって、スペインやアイルランドは対外的な競争力を失い、巨額の貿易赤字を出すようになりました。 

PIIGSは、地域共通通貨「ユーロ」にすることによって、メリット・デメリットがある。メリットはユーロの通貨価値は高いため、外国から物を安く輸入することができる。一方、自国で生産した物を外国に輸出すると、物価価値が高いため売れない→産業の空洞化。もともとPIIGSは産業に弱い国々の為、産業はさらに低下していってしまう。 
生産力の低下に伴い、国力も低下し資金不足になり、国内の運営も厳しくなっていく。 
⇒資金を調達する為に国債を発行する。この国債はユーロ建ての為、外資にとってはおいしい話なので食いついてくる。(利率が高く、ユーロ建てなので安定している) 
 
国債を発行すれば、外資がたくさん買ってくれる為、PIIGSは生産力を高めるより国債を発行し続けてしまう。
→その国債を金儲けに利用され、ギリシャ危機に繋がっていく。 
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上記のグラフを見てみると一目瞭然である。 
産業に強いドイツは対外債務が50%に対して、産業に弱いギリシャ、ポルトガルでは対外債務が80%以上になってしまっている。 
これはユーロという共通通貨化によって高まった価値とユーロ諸国、特に生産力の低い国々とのアンバランスによって生じた現象である。 
『ユーロ発国家財政危機の行方』3.地域共通通貨「ユーロ」の弱点構造 [5]より> 

 
経済力の強い国は、ユーロ圏では貿易障壁撤廃、ユーロ圏の外では有利な為替レート・金利によって輸出が増え、経常収支の黒字が拡大していきました。 
 
弱い国も、投資が続いているうちは金回りが良くなって、国民生活は一見潤ったかのように見えました。しかし、これもドイツやフランスの後ろ盾があってのことです。「生産力は衰え、対外競争力を失い、他国の支え無しでは国家として存続できない」、これが揺るがしがたい現実でした。 
 
ユーロ圏各国の経常収支格差は以下の通り拡大しています。 
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「画像は世界経済の現状と今後の見通し」 [7]よりお借りしました。> 
 
 
■ユーロの構造的欠陥②〜自国の経済を統制できない 
さらに、ユーロ圏各国は、為替介入や金融政策をECB(欧州中央銀行)に委ねており、自国の経済を統制できないという構造を持っています。 
 
ECBは各国と利害調整を図りながら政策を取らざるを得ず、そうした場合、どうしてもイニシアチブは強い国が握ります。とすれば、上述したように強い国は富み弱い国は貧すという状況の中で、弱い国が期待するような政策は出てこないわけです。
結局は対外債務に依存せざるを得ず、経済・財政状況を更に不安定化させるという悪循環になってしまいます。
 
 
 
■市場は国家を統合できない 
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市場はあっという間に国家を飲み込みました。 
 
2008年の金融危機を受けて「ユーロが危ない」となり、資本は一気に引き上げられました。国も銀行も資金調達の手段を失い、連鎖的に流動性不足と支払い不能の危機に陥る羽目になりました。 
 
今となっては、ギリシャを破綻させてそれを欧州各国で引き受けたとしても、今度はポルトガルやアイルランドやスペインが、いつギリシャの二の舞になるかわかりません。 

要するに、市場はどこまでも私権闘争の抜け道でしかなく、従ってそれ自体では決して自立して存在できず、国家に寄生するしかない。だから、市場は、云わば国家というモチに生えたカビである。カビがどんどん繁殖すれば、やがてカビ同士がくっつく。世間では、それをグローバル化などと美化して、そこに何か新しい可能性があるかのように喧伝しているが、それも真っ赤な嘘であって、市場が国家の養分を吸い尽くせば、市場も国家も共倒れになるだけである。 
<るいネット「超国家・超市場論11 市場は社会を統合する機能を持たない」 [8]より>

もともと、ユーロ圏各国は金融政策としては利害が一致していたものの、歴史事情もあって、政治面、経済面、財政面では一枚岩ではありませんでした。にもかかわらず、国々を市場次元で統合しようとしたものだから、ほころびはいたるところで出てきます。 
 
市場は国家から養分を吸いとり、いずれは共倒れです。 
 
次回は「ユーロ各国の現状 [9]」を詳しく見ていきたいと思います。

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