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『なぜ今、TPPなのか?』【4】世界に広がるブロック経済圏の現状①:欧州

『なぜ今、TPPなのか?』をテーマに前回は「貿易自由化交渉の歴史 [1]」でGATT→WTO→FTA/EPAやブロック経済の存在を扱いました。
今回からは「世界に広がるブロック経済圏の現状」ということで3回に分けて主要なブロック経済の仕組みについて扱いますが、今回はその1回目①欧州(EU)です。
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まずは本題に入る前にいつものヤツをお願いいたします。


今回は、通貨までも統一してしまったブロック経済圏であるEUについてまずは設立の経緯から確認して行きましょう。
1)EU設立の経緯

EUの設立について大雑把な時系列でまとめてみると・・・

’52年:欧州石炭鉄鋼共同体が設立
’58年:欧州経済共同体と欧州原子力共同体
’67年:欧州諸共同体
’95年:WTO設立
’99年:ユーロが誕生

先週あつかったWTOの頓挫がユーロ誕生を決定付けたといっても過言では無いでしょう。
GATT→WTOは先進国主導。(米国が中心と思われるが、EUも相乗り。)つまり現在のEU諸国はWTOで発展途上国も含めて自由貿易を推進する役割を担っていました。
一方EU諸国は米国と覇権争いを続けており、米国に対抗するためにEU統合を深化させてきた。その戦略の一つが通貨統合「ユーロ」と言えます。
2)EUの政策はうまく行っている?
このようなEUの政策はうまく行っているのか?まずは現状を分析してみたいと思います。

①EU27の主要国・地域別輸出入

表に示すように、EU域内では貿易障壁の撤廃・完全自由化により域内貿易が輸出入全体の2/3となっています。
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国別ではアメリカとの貿易が大きな割合を占めていますが、BRICS(中国・ロシア・ブラジル)との貿易が急上昇しているのも注目です。

②貿易の状況(域内外・品目別)

次にEU27の主要品目別輸出入について、域外・域内の状況を見てみましょう。
・食料品などは構成比で見ると数%
・主要な貿易品目は化学工業製品、原料別半製品、機械・輸送機器類など
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食料品などの比率が低いのは、EU特有の農業補助による保護政策が影響していると思われます。
以下の表は2005年のEU予算の分野別割当を示しますが、4割以上を農業補助に当てていま
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EU域内では共通農業政策(CAP)により各国の域内外からの安価な農作物に対抗できるよう、補助金を与えてEUの農作物を安価に消費者に提供しています。
③欧州経済の概観
ブロック経済により域内の完全自由化をした欧州ですが、現在の経済状況をマクロでみるとどうなっているか?
世界のGDPの約3割を占めるEU経済は、2004〜2007年の間、実質GDP成長率が前年比2%を上回るという堅調さを維持してきました。その背景として、欧州域内の貿易・直接投資の拡大、域内消費市場の拡大などが挙げられます。
しかしながら、EU経済は、米国サブプライム・住宅ローン問題の影響もあり、2007年秋頃から成長率が徐々に低下し、さらに、2008年9月のリーマン・ショック以後は景気が急速に悪化。実質GDP成長率の推移をみると、2008年第2四半期の前期比マイナス0.1%から、同年第4四半期には同マイナス1.5%にまで落ち込んでいる。需要項目別にみると、外需が大幅なマイナスとなったほか、設備投資や個人消費、住宅投資といった内需も総じて悪化しました。つまり欧州経済は非常厳しい状況といえます。
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3)拡大する域内経済格差

次にEU域内での貿易に占めるシェアを見てみましょう。
①各地域内と各地域間の貿易の流れ
以下の表はドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギーなど欧州統合のスタート時点からのメンバーを「コア国」とし、その他の国々を地理的分布によって「南欧」、「北欧」、「イギリス/アイルランド」の4地域に分類し、各地域内と各地域間の貿易の流れを示しています。
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域内貿易を品目別・国別に分類された上記資料を見ると輸出(出し手)と輸入(受け手)の地域分布の比較からは輸出(出し手)については各地域の産業構造の特徴を反映してばらつきがより大きいことが見えてきます。
機械機器以外の品目では、南欧は農産物のほか、その他製品、繊維・衣類等の労働集約的製品でウエイトが高く、その傾向は95年以降強まっているとのことです。
北欧は鉱物性生産品のほか、金属製品、その他製品、イギリス・アイルランドは鉱物性製品、化学・プラスチック等の輸出についてそれぞれ相対的に高いシェアを占めています。
これらは域内で産業間の役割分担が存在することを示しています。
②自動車・情報機器の域内輸出入金額の分析
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上記データからは自動車産業の場合、域内外で製品と同時に部品等の主たる出し手となっているドイツに対し、ベルギー、スペイン、イギリスの生産はドイツを始めとする域内からの部品等の調達によって支えられていることが見て取れます。
パソコンなど情報機器の分野での産業内貿易の構図は、オランダ、ドイツ、イギリス、アイルランドを中心とする地域分布と、製品、部分品ともにEU全体の域外に対する貿易収支が赤字(輸出より輸入が超過)、すなわち域外への依存度が高い構造となっている点で自動車と異なっています。
アイルランド、オランダ、ドイツの情報機器を含む電気機器での域内における輸出特化は、相対的に多額の域外からの製品、部品等の調達によって支えられているということです。
上記の違いは、製品の特性あるいは価格帯による棲み分けに繋がります。例えば自動車産業には、ドイツが域内外向けの中大型乗用車(高級車)を提供するのに対し、スペイン、ベルギーは域内向けの中小型乗用車(大衆車)を提供しているということです。
上記のような違いを考慮しながら次のグラフを見ると域内貿易での役割分担が経済格差の拡大へと繋がっているともいえます。
③域内格差の拡大
オランダ、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアなど主要なユーロ圏各国の名目GDPの推移です。
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経済の基本原理から考えてもユーロ導入により各国間で価値の異なっていた通貨を無理やり統一した為に導入前の自国通貨とユーロの価格差で以下のような貿易上のメリット・デメリットが出てきます。

・導入前の自国通貨の価値が高い国⇒ユーロ導入で輸出増
・導入前の自国通貨の価値が低い国⇒ユーロ導入で輸入増

従来は貿易収支の黒字・赤字(でこぼこ)は、それぞれの国での為替調整で平準化されるのが市場の原理でしたが、ユーロ導入で制度的に国毎に為替調整が出来ないルールとなったので、貿易黒字国はますます黒字に、貿易赤字国ますます赤字になる傾向が強まり、経済格差が広がる構造にあります。

4)結論:EUは構造的にうまく行くことは無い!

EUの現状を見てきましたが大きく
・EU全体のGDPが下降傾向
・域内では構成国間での産業構造の違いから経済格差の拡大

という状況を見るとEUがうまく行っているとは言いがたい状況はっきりしてきます。
加えて労働者は域内で移動が自由ですが、失業率はここに来て急上昇であり特にスペインでは25歳以下の若者の失業率が5割に上ります。
通貨統合までしたブロック経済圏はEUが最初ですが、一方で通貨統一のため、ユーロ圏各国は、為替介入や金融政策をECB(欧州中央銀行)に委ねており、自国の経済を統制できないという構造となっており、域内自由経済を実現したにもかかわらず域内格差拡大、域外との競争力の低下に繋がっている状況です。
次は、『世界に広がるブロック経済圏の現状②:北中米、南米』をお送りします。

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