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北朝鮮、これからどうなる?3 〜北朝鮮の実態〜

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金正日(キムジョンイル)が2011年12月17日に死去し、三男の金正恩 (キムジョンウン) が最高指導者の地位を継承しました。正恩は過去1998年〜2000年にスイスの公立学校に通うなど、西側文化を経験しているため、対外関係において開放的な態度を期待する声が上がっています。しかし、すでに国営メディアを通じて軍優先の「先軍政治」を継承し、外交面でも政策に変更が無いことが宣言されました。まだ28歳と若く、権力基盤が固まっていないので、当分は身内と側近が国家運営を支え、父親が生前敷いたレールを走っていくことになりそうです。 
 
はたして正恩体制はうまくいくでしょうか? 
 
外交政策や経済政策の失敗、国内の暴動、さらにはクーデターなど、不安材料は非常に多くあります。食料難や電力難の解消、住民向け配給物資の調達が急がれますが、現在のような封鎖的政策では改善すらおぼつきません。そうなれば民心離反は加速し、長期的には体制維持の脅威となります。 
 
そういうわけで、『北朝鮮、これからどうなる?』シリーズの第3回では、北朝鮮の今後を占なう上で重要な判断材料となりそうな、 
・経済の現状〜GDP 
・食糧事情 
・エネルギー事情 
・軍事 
について、順番に整理していきたいと思います。 
 
※シリーズの過去記事 
第1回:『傀儡政権として出発した金日成が、権力を掌握していく過程』 [1] 
第2回:『国際関係—瀬戸際外交』 [2] 
 
いつも応援ありがとうございます  
 
 


 
【経済の現状〜GDP】 
北朝鮮の経済は世界でも最低水準です。 
 
経済の現状に関してはkinbricksnow 「知られざる北朝鮮経済の実態=ステレオタイプの日本メディア報道」 [3]より引用させていただきました。 

■70年代初頭までは隆盛を誇った北朝鮮経済 
北朝鮮は、今でこそ経済がひどく落ち込んだ国になったが、かつて70年代初め頃までは、韓国に負けないぐらい頑張っていた。石炭(無煙炭)や鉱物資源に恵まれ、その埋蔵価値は6兆ドル(約468兆円)を超え、韓国の24倍に及ぶと韓国の資源会社は見ている。北朝鮮は大戦中に日本が残したインフラを活用し、経済発展を果たしたのだ。 
しかし、1974年頃から、工業化と輸出強化を図った韓国に引き離され始める。今や、韓国の輸出入金額8900億ドル(約69兆4000億円、2010年)に対し、北朝鮮のそれは42億ドル(約3280億円)しかない。200倍の差である。少ない輸出品に代わって、ミサイルや麻薬、偽造たばこ等で数億ドルの外貨を稼いでいると、10月31日の米国国務省のレポートは伝えている。

 

■韓国の40分の1、世界195位のGDP 
北朝鮮の2010年のGOPは、韓国中央銀行の推計によると、およそ265億ドル(約2兆700億円)。パナマ、ヨルダン、ラトビア、キプロスといった小国なみである。人口は2430万人とちょうど韓国の半分いるが、GDPは韓国の40分の1だ。CIAによると、世界228か国中、195位だという。

 

■92年以降の急激な落ち込み 
一人当たりのGDPでみると、92年以降の落ち込みが著しい。1991年にソ連が崩壊し、閉鎖国への援助の手がなくなってからだ。1974年ごろに一人当たり2850ドル(約22万2000円、現在のエジプトほど)まで伸びた北朝鮮のGDPは、その後20年近くチュチェ思想のもと停滞した後、1992年ごろより、現在に至るまで大きく落ち込んで行く。配給制度が不調をきたし、街に「コッチェビ(花燕)」と呼ばれる浮浪児が急増し始めたのが1994年頃からである。 
現在は一人当たり1090ドル(約8万5000円)と、なんと1960年代頃までの水準に落ち込んでしまった。

 
これは韓国・北朝鮮の1人当たりのGDPの長期推移です。 
図録韓国・北朝鮮の1人当たりGDPの長期推移 [4]より [5] 
グラフにしてみるとその差はより際立ちます。韓国は高い経済成長を遂げたため、生活水準は17倍に達し、大きな所得格差、経済力格差が生じています。 
 

■没落の最大の要因「チュチェ(主体)思想」 
最大の経済発展の失敗は、72年ごろより、金日成が育ったソ連からも、朝鮮戦争で助けてくれた中国からも独立した「チュチェ(主体)思想」を、経済分野にも適用しようとしたからのようだ。 
早い話が経済鎖国である。20世紀終わりごろから21世紀にかけて世界はいやでもグローバル化していったのに、ひとり取り残された。資源はあっても、燃料や部品や材料が足りなくては工業化は進まない。

 
現在の北朝鮮内外の状況を考えると、経済の自力回復はまず無理でしょう。当面は北朝鮮に友好的な中国頼みです。現在も中国は食料・肥料を支援していますが、それは当然、国益に適った対朝戦略です。北朝鮮に眠る豊富な鉱物資源、石炭や金、鉄鉱石、亜鉛、そして希少金属の価値は6兆ドル(約468兆円)とも言われています。中国はこの争奪戦で一歩リードしており、北朝鮮で開発権を確保した鉱山は既に20を超えています。 
 
 
【エネルギー事情】 
北朝鮮のエネルギー供給はかなり深刻です。 
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■平壌でさえ日常的に停電が起きる程の電力不足 
人工衛星から撮影した夜の東アジアは、北朝鮮の部分だけ真っ暗である。日本や韓国、中国は赤々と電気が灯っている様子がよくわかる。 
ところが、北朝鮮の部分はわずかに平壌の一部に灯りが見える程度なのだ。北朝鮮の発電力は、およそ「700万キロワット時」と言われるが、現実には250万キロワット時程度だと言われる。東日本大震災後の東京電力の発電量は、4000万キロワット時だった。北朝鮮の電気事情が、いかにひどいかわかる。 
しかも、首都の平壌でさえ毎日のように停電が起き、電気使用も朝と夜間の一定時間に制限されている。地方までは、とても電気は送電されない。電力は、軍需産業に優先して回されるため、普通の産業や工場には電気も回せない状態にある。 
(書籍:なるほどよくわかる「北朝鮮の真実」より引用)

 
今後の北朝鮮の経済回復がどこまで進むかは、エネルギー問題をどのように解決するかにかかっています。 
しかし、北朝鮮の困難なエネルギー事情は、石炭への高い依存とともに、資金や技術不足で長期にわたって開発が遅れたことの結果であり、そう簡単に解決できる問題ではありません。 
 
 
【食糧事情】 
北朝鮮経済において、エネルギー問題と並ぶもう一つの重要な問題は食糧問題です。 

■毎年50万トンから100万トンの食糧難に陥っている 
北朝鮮は、毎年食糧難に陥り、国連機関や海外諸国に支援を求めている。2011年にも、国際機関に食糧支援を要請した。 
どのくらいの食糧が必要なのか。2200万人の国民が十分に食べるためには、600万トンの食糧が必要と言われる。また、最低でも450万トンが必要だとも言われる。ところが北朝鮮の食糧生産は400万トン前後とされている。 
このため、毎年50万トンから100万トンの食糧が不足する。国連の世界食糧計画(WFO)などが、韓国やアメリカに毎年食糧支援を要請してきた。しかし、各国は食糧支援に最近は消極的である。 
特に、韓国が食糧支援に積極的でない。国際社会は、北朝鮮の食糧難を天災などの災害のためではなく、人災と考え出している。15年以上も食糧難を続けながら、核開発に資金を回しているからだ。
(書籍:なるほどよくわかる「北朝鮮の真実」より引用)

 
正確な数は公表されていないので分かりませんが、北朝鮮の食糧事情はかなり厳しい状況にあり、その困窮度は餓死者が出るほどです。 
 
もともと地理や気候など、自然条件からみて食料自給への道が厳しいのは事実ですが、ここまで農業生産が低下したのは、国民を無視した指導者の思いつき政策が原因です。例えば、連作や密集栽培による農地の地力の低下、傾斜地の耕地開発による土壌の流出、大規模干拓地造成の失敗などです。 
さらに、「主体農法」なる社会主義的な縛りが、適地適作や適期適作といった農民の主体的な取り組みを阻害しています。ちなみに旧ソ連では、全耕作面積の数%に過ぎないダーチャという自留地の収穫が全収穫の半数を占め、経済危機時に国民の困窮を救ったと言われています。実は北朝鮮でも同じように、主体性を発揮できる自宅の畑では、とうもろこしや野菜が協同農場よりもはるかに立派に育っているのです。しかし最近になって、この自留地にも管理強化が始まっています。 
 
 
【軍事】 
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「先軍政治」を掲げ、何よりも周辺諸国からの脅威に備えるため軍備拡充に力を入れている。過去数十年にわたり国防のために莫大な資源をつぎ込み、世界で5番目に大きい100万人を超える軍隊を有し、国内総生産 (GDP) に占めるその比率が高い。推定軍事費 (CIA) 年間6000億円のうち4000億円強を核兵器・ミサイルに集中配分している。一方で、通常兵器は旧式の上、財政難のため、戦闘機や戦車の訓練用燃料すら確保が難しいとされており、兵器の性能、兵の練度ともに韓国軍との差は歴然と考えられている。世界最大規模の特殊部隊と米陸軍45万の2倍の90万の兵力の歩兵主体の地上軍を持ち、散開・分散が必要な核戦争に特化した構成となっている。 
Wikipedia朝鮮民主主義人民共和国3.4軍事 [6]より引用)

 
これは世界各国の軍事力あるいは軍事傾斜度を示すため、軍事力人数と軍事支出対GDP比を掲げたグラフです。 
図録▽世界各国の軍事力 [7]より 
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北朝鮮の軍隊は人民軍129万人で、中国、インド、米国、ロシアに次ぐ世界5番目です。人口の5%水準に該当する世界最高水準です。そのほか民兵組織770万人を合わせれば、全人口の40%ラインに達します。 
そして、注目すべきはGDPに占める軍事支出の高さです(右側、紫の棒グラフ)。北朝鮮のGDP公表値がはっきりしないためグラフから消えていますが、それはGDP比25%と言われていますから、いかに突出した数字であるかが分かります。  
北朝鮮の軍事部門は、人力やお金の投入だけでなく、ただでさえ不足するエネルギーと食糧の最大消費処でもあります。軍事力重視、軍需部門重視は、経済的効果が小さいこの部分に過度な投資を生み、経済的非効率と生産沈滞を呼び、食糧不足に拍車をかけ、結果として国民の生活を圧迫しています。 
 
 
【まとめ】 
経済、エネルギー、食料、軍事と順番に見てきましたが、上述のように、北朝鮮が今日の閉塞状態から自力で抜け出す可能性は極めて低いことが分かりました。状況が好転しなければ北朝鮮は崩壊してしまうので、最終的にはエネルギー開発や食糧確保で国際的な支援に頼ることになりそうです。 
 
国際支援は、核問題を解決して国際社会との関係を改善することが大前提となります。しかし一方で、核を放棄するということは、北朝鮮が瀬戸際政策の外交カードを失うことを意味します。また、緊張と圧力が弱まり、軍の威信が無くなれば、国内を統治も難しくなります。こうしたリスクをおかして、正恩体制が、経済支援の獲得に専念することができるでしょうか。 
 
いよいよ次回は北朝鮮の未来予測です。 
シリーズ第4回:『北朝鮮、これからどうなる?④』をおたのしみに。

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