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『なぜ今、TPPなのか?』【11】コラム:日本は貿易立国って本当?

『なぜ今、TPPなのか?』のシリーズでは、ニュースが伝えない背後構造を探るべく、これまで世界に広がるブロック経済圏の現状や世界各国がTPPをどう見ているのか?を調査してきましたが、今回はコラム『日本は貿易立国って本当?』と題して、日本の貿易事情を探っていきます。

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リンク [1]
今までの記事は以下をご覧ください。
【1】プロローグ [2]
【2】基礎知識の整理 [3]
【3】貿易自由化交渉の歴史 [4]
【4】世界に広がるブロック経済圏の現状(1):欧州 [5]
【5】世界に広がるブロック経済圏の現状(2):北中米、南米 [6]
【6】世界に広がるブロック経済圏の現状(3):アジア [7]
【7】中国はどう見ているか? [8]
【8】中国はどう見ているか?(なぜ中国はTPPに参加しない?分析編) [9]
【9】ロシアはどう見ているか?〜資源大国ロシアの世界戦略〜 [10]
【10】EUはどう見ているか? [11]
応援よろしくお願いします。


表題にあるように、【日本は貿易立国】と小学生の頃から教わってきていると思いますが、果たして本当なのでしょうか?この辺りを追究することで、TPP参加が日本にとってどのようなメリット・デメリットがあるのかを考えるきっかけにしていただければと思います。
■日本が貿易立国と言われるのは
日本が貿易立国と言われる理由は以下の通りです。

・輸出>輸入で、毎年大きな貿易黒字(10兆円〜15兆円規模)を出している
・資源が乏しいので、資源を買うために外貨を稼がなくてはならない。

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■実際には貿易立国ではない?
それでは以下のデータを見てみてください。日本は本当に貿易立国と言えるでしょうか?
□各国の一人当たりの輸出額
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グラフから、日本の一人あたり輸出額は高くないことが読み取れる。つまり国内において輸出産業は大きくないと言える。日本は工業国であるが、その多くは国内向けに生産されていると考えられる。
□各国の一人当たりの輸入額
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日本は一人あたり輸入額は非常に小さいことがわかる。つまり、日本の貿易黒字額を押し上げていたのは、輸入の小ささにあることがわかる。
□各国のGDPに対する輸入額の割合
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各国のGDPに対する輸入額の割合を比較してみると、日本の割合の小ささがより顕著であることがわかる。
□日本の輸出依存度
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日本の輸出依存度は決して高くなく、むしろ低い方だと言える。
□日本の乗用車・家庭用電気機器の輸出対GDP(2009年)
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グラフより、日本の自動車輸出の対GDP比率は1.23%、家電・電子機器輸出わずか0.036%であることがわかる。自動車業界は日米自動車摩擦以降、米国現地生産分を6割にまで増やしており、輸出から現地生産へと移り変わっている。
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このグラフから、依然輸出一位は自動車であることがわかり、その自動車輸出の対GDP比率が低いことからも、日本は決して貿易立国ではないと言える。
■日本の本当の姿は内需大国

高度成長期の60年から64年までは本当に経済が成長していた時代である。今日の新興国以上の経済成長率を日本は実現していた。この期間の設備投資率は 18〜20%程度を維持しており、これが乗数効果によって所得を増やし、総需要を拡大させた。またこの旺盛な設備投資が一方で生産力を産み、総需要の増大に対応した(投資の二面性)。つまりこの時代の日本経済は、供給サイドの成長理論がある程度適応できる形であった。しかしこの時代、輸出のGDP比率はずっと7〜9%であり、輸出が日本経済をリードしていたという印象は薄い。特に輸出額から輸入額を差し引いた純輸出額は毎年マイナスで推移していた。輸出は自生的であり独立的であるのに対して、輸入は所得の従属関数と言える。つまり爆発的に経済が成長しGDPが拡大したため、むしろ輸出以上に輸入が伸びていたのである。景気が良くなり輸入が増えると、緊縮財政と金融引締めを行って景気の過熱を冷ましていた。このように日本の高度経済成長期の前期においては「昔から日本経済は輸出によって経済成長を実現してきた」というセリフは全くあてはまらない。

次は「日本は貿易立国であり、輸出が日本経済の命運を握っている」というセリフを検証する。たしかに東京オリンピックを境に、輸出はある程度伸び、貿易収支は黒字化した。しかし輸出のGDP比率はだいたい7〜9%である。10%を少し超えたのは71年と 74〜77年ぐらいである(昔から設備投資のGDP比率の方がずっと大きくまた変動も大きい)。日本の輸出が伸びるのは、決まって日本の景気が後退した時である。71年にはニクソンショックがあり、74〜77年はオイルショックと日本列島改造ブームの崩壊による景気低迷が続いた。またこれらの前にもGDP比18〜20%といった大きな設備投資ブームがあった。つまり過剰な設備投資の余剰生産物のはけ口が輸出であった。そしてこれらの年はおしなべて経済成長率は小さい。つまり輸出は日本経済の下支えになっているが、経済を牽引しているということはない。また常に無視されているのが、日本の輸出のGDP比率が韓国や中国に比べずっと小さいという事実である。中国の比率は25%ぐらいであり、韓国にいたっては35〜50%と言われている。これらの国が本当の貿易立国である。日本は加工貿易国であり貿易黒字国であるが、決して貿易立国ではない。むしろ日本の本当の姿は米国に次ぐ内需大国である。何も知らないマスコミ人や政治家、そしてデータを見ようとしないエコノミストや経済学者がとんだ誤解をしているのである。

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■まとめ
日本は貿易黒字額の大きさから貿易立国と言われていますが、日本国民一人当たりの輸出入額、日本の輸出上位品目の輸出対GDP比率から見ると、決して貿易立国であるとは言えないことがわかります。それは現在だけでなく、戦後の高度経済成長期から変わらず、むしろ本当は内需大国であることがわかります。このような事実から日本がTPPに参加する必要性、その意義を考えてみる必要がありそうです。

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