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2012年、新興国はどう動く?(8)〜イラン戦争は起こるのか?⇒中東は金貸しと新興国との三つ巴の覇権闘争に〜

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※イスラエルのネタニヤフ首相と米国のオバマ大統領
 
 
「2012年、新興国はどう動く」シリーズ、中東編の第二弾です。
 
前回の2012年01月29日の記事、「2012年、新興国はどう動く?(3)緊迫度を増すイラン情勢の行方は? [1]」では、イラン制裁に焦点を当て、イランと主要各国との関係を軸に緊迫するイラン情勢を分析しました。
 
この段階では、圧力を強める米国、イスラエルと、それに強固に反発するイランの強気な外交(ホルムズ海峡封鎖を示唆)によって、一触即発かとも思われる緊迫感がありました。
しかし、その後は膠着状態が続き、何か米国(やイスラエル)は攻め手を欠いている(焦りの)印象さえあります。
 
但しこのまま膠着状態が続くことは考えにくく、結局のところ「戦争は起こるのかどうか」、が一つの焦点となりそうです。
(もし戦争になれば、第三次世界大戦とも言える大国同士の戦争に発展する可能性もあるからです)
 
そこで今回は、それぞれの勢力の背後に潜む力関係をおさえた上で、「イラン戦争は起こるのかどうか」を予測してみたいと思います。
 
 
いつも応援ありがとうございます。


 
■ 米国内ですら一枚岩になっていない
イラン制裁を扇動している中心は米国ですが、イラン制裁⇒戦争路線に対し、実は米国内でも意見が真っ二つに割れている状況にあります。イラン制裁中心勢力の米国ですら一枚岩になっていないのが実態です。
米国=戦争のイメージが強いですが、実態としては米国内で戦争への忌避感が広がっており、それを受けてオバマ大統領も大幅な軍事費削減計画を打ち出している状況です(先日行われたイスラエルのネタニヤフ首相と米国のオバマ大統領との会談でも、オバマ大統領はイスラエルに対して単独での軍事攻撃の自制を促しています)。
 
この戦争への忌避感の直接的なきっかけとなったのが、イラク戦争の失敗にあります。
 
 


 
■ イラク戦争の失敗が決定打に
イラク戦争のそもそもの発端となったのは、911同時多発テロ事件です。米国はこれに対し「対テロ戦争」と銘打ってアフガニスタンを侵攻。さらに米国は、911事件の首謀者とされるウサマ・ビンラディン(アル・カーイダ指導者)とフセイン大統領との関係や、イラクの大量破壊兵器計画をでっち上げ(参考記事 [2])、イラク戦争を始めました。
 
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しかし、米国の思惑とは裏腹にイラク戦争は長期化→泥沼化し、兵士の疲弊やでっち上げの事実が明るみになるにつれ、米国内で(さらには世界世論的にも)厭戦ムードが広がっていきます。
さらに、戦争の本当の目的であったイラク石油利権については、イラク戦争の間に中国やロシアにことごとく持っていかれることになります。
 
戦費増→経済逼迫と国民の活力衰弱という大きな代償を払うことになった一方で、本当の目的(石油利権の獲得)は何一つ得られないという、米国にとっては最悪の結果となりました。(参考記事 [3]
(さらには、民主化されたイラクでは親イラン派が権力を持つことになり、反米国家としてのイラン・イラクの結束を高める結果となっています)
 
これが決定打となり、米国内でも、反戦争の論調が拡大していきます。
 
 


 
■ 米国が戦争に踏み込みにくいもう一つの理由
上記に加え、米国が戦争に踏み切りにくい理由がもう一つあります。それはもし戦争を仕掛けた場合、米国にとって(イラク戦争の時より)さらに孤独な戦いになるということです。
イラク戦争を黙認していた中国、ロシアは、今回は明確にイラン支持を表明。よってもしイランに戦争を仕掛けた場合には中国、ロシアをも敵に回すことになり、これは米国としてもかなり厳しい戦いとなります。
 
また、イラン制裁に共鳴している欧州は、現在金融危機真っ只中にあり、戦争になった場合に、それを支援するだけの余力がほとんどありません(なので、戦争はしたくないというのが本音でしょう)。さらには、欧州にはイランから石油を輸入している国も多くあり、制裁への足並みが揃いにくいというのが実態です。
 
ゆえに、イランに戦争を仕掛けた場合の勝算から見ても、米国はかなり厳しい状況にあると言えます。
 
イランは、おそらくそのような米国や制裁支持の国の状況をわかっているからこそ、強気の姿勢に出られるのでしょう。
 
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■ 戦争経済は終焉に向かうのか
もともと、国家に戦争をさせて(お金を貸して)儲けるというのは、金貸しの常套手段でした。ゆえに第二次大戦までは金貸しの仕掛けによって数々の戦争が繰り返されました。そして、二度の世界大戦によって、金貸しの最大勢力ロスチャイルドと対抗するまでに資本力を拡大したのが、米国ロックフェラーです。
 
その後ロックフェラーは、対ソ冷戦→中東(湾岸戦争)→対テロ(アフガン、イラク)と仮想敵を作り出しては戦争を繰り返し、自らの力の基盤を維持してきました。(参考記事 [4]
そして今、イラン(の核開発)を標的にしているのです。
 
しかし、上記からも、いよいよ仮想敵をでっち上げることそのものが難しくなってきており、戦争の口実が作り出せない状況(→戦争経済の終焉)に追い込まれつつあります。
 
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よって今の状況では(イスラエルが暴走して戦争を仕掛けない限りは)米国主導で戦争を仕掛けることはできないでしょう。イスラエルも、米国が積極的に支援してくれる見込みもないため、うかつには仕掛けられないはずです。
こうなると、米国はイラク戦争に続き、またも中東石油利権獲得が失敗に終わる可能性が高そうです。
 
 


 
■ 中東は金貸しと新興国の三つ巴状態に
イラク戦争に続き、イラン制裁も米国の失敗に終わる可能性が高まっていますが、米国はこれでみすみす中東から引き下がることはないでしょう。実際、親米国家のサウジアラビアに対しては、民主化⇒市場化圧力を強めているようです。(女性参政権etc)
 
対するロスチャイルドは、中東民主化運動を仕掛けることによって着々と米国ロックフェラーの締め出しを図っています(欧ロスチャイルドと米ロックフェラーが暴落の引き金を引くタイミングは、どのような状況で生まれるのか? [5]
 
一方で、新興国の中心勢力である中国、ロシア、ブラジルはイラン支持の立場を明確にしており、その結果中東におけるイランの影響力が大きくなっている状況にあります。
 
これを覇権闘争という視点で捉えるとどうなるでしょうか。
 
これまでの世界情勢は、専ら金貸し同士(ロスチャイルド、ロックフェラー)の覇権争いが中心でした。しかしリーマンショック以降の世界的な金融危機によって金貸しの基盤は根底から揺るがされ、代わって中国やロシアを中心とする新興国が大きく台頭することになりました。現在の世界情勢がこれら三つ巴の覇権闘争に移行しつつあり、上述のような中東情勢はこの大きな流れの一局面であると言えるでしょう。
 
 
中国に関しては、前回の記事「2012年、新興国はどう動く?(7)〜覇権か?破局か?分水嶺に立つ中国〜 [6]」で触れましたが、ロシアではプーチンの大統領返り咲きが決定し、さらに勢いを増していきそうです。今のところ、これら新興国が金貸し支配からの脱却に一番近い位置にあるようにも思えます。
 
続く「2012年、新興国はどう動く」シリーズでは、新興国と金貸しとの覇権闘争についてもさらに追求していきたいと思います。ご期待ください。
 
 

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