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米国はどのように衰退してゆくのか?(10) 金融主義の末期・米国ドル崩壊への道 その5.加速する世界のドル離れ

前回の投稿 [1]では、国際通貨である米ドルが崩壊寸前にまで至った過程に触れました。
70年代を境に、先進国を中心に貧困が克服されたにも関わらず、金融経済界が博打経済へと舵をきった結果、08年にリーマンショックが起こり、世界中が金融危機に陥りました。ドルの巨額の損失を埋め合わせるべく、更にドル・米国債を大量に刷ったことも相まってか、ドルの価値と信用は著しく低下してしまいました。
 
今回は、世界金融危機以降加速して止まない、世界のドル離れの具体的な現象 を整理していきたいと思います。
 
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(写真はコチラ [2]よりお借りしました。)
 
 
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戦勝国であるアメリカは他国間の貿易にドルを使用させ、ドルによる支配・拡大を目指してきました。自国通貨ドルを基軸通貨にすることにより、その支配力を強固なものにしてきたのです。
そしてまた、その国力を背景に反発する勢力は徹底的に押さえ込んできました。
しかし2008年の住宅バブル崩壊を皮切りにリーマンブラザーズ・AIG破綻と、米国を震源地として世界は金融危機に陥りました。こうしてドルの信用が低下し、貿易決済や外貨準備をドル以外の通貨で行う動きが各国で起きています。
 
【決済通貨のドル離れ】
 
中南米地域の自立の動きは、リーマンショックより以前の2005年頃から始まっていました。
<中南米レアル・ペソ決済>

2000年代後半以降の中南米地域では、マクロ経済の安定を背景に政治・経済面での自立の動きが見られるようになり、この中で脱ドル化も模索されている。貿易決済でのドル依存からの脱却はBRICsの枠組みでも打ち出されている取り組みだが、中南米地域でも課題は抱えつつも前進は見られる。一方で、従来国内でドルの使用比率が高かった国々でも、経済の安定・政策への信認を背景にドル化比率の顕著な低下が見られる。
歴史的にドルの強い影響下に置かれてきた中南米地域にとって脱ドル化自体は遠大な目標であり、非常に時間のかかるプロセスである事には変わりはないが、着実に準備が進んでいる事は見落とせない。
2008年秋のグローバル金融危機以降の中南米では、ドル依存体制からの脱却を志向して、貿易取引での自国通貨決済促進の動きが見られる。ブラジルでは、2008年10月からアルゼンチンとの間で貿易取引での自国通貨決済を開始したが、2009年以降開催されているBRICsサミットでも、貿易取引でのBRICs通貨での決済促進の方向性が打ち出されている。
ブラジルからアルゼンチン向けのレアル建て輸出の件数は着実に伸びており、取引件数は年間累計で、2009年は約1,200件、2010年は約3,400件、2011年は約5,000件となっている。
(公益財団法人 国際通貨研究所より)


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(画像はコチラ [5]からお借りしました。)
 
ブラジル・アルゼンチン間の貿易取引件数は2008年リーマンショック以降、着実に伸びているのが伺えます。
一方、ロシアでもリーマン以前いからこの動きはありました。
プーチンの大統領再任によって、ドル離れ化に一層拍車がかかっています。
 
<ルーブル(ロシア通貨)決済>
 

ロシアのプーチン大統領は、2006年の国会での方針演説の中で、「石油などわれわれの輸出品は、世界市場で取引されており、ルーブルで決済されるべきだ」というドル基軸体制からの脱却を訴えるという爆弾発言をしました。
その後、ウクライナが2012年から、ガス代金の支払いをドル建てからルーブル建てに切り替えると表明するなど、ルーブル決済圏も着実に拡大しています。
また、去年中ロで合意された二国間貿易でのルーブル・元決済が、この流れを一気に加速させたとされています。
「るいネット〜世界で起こるドル離れ〜ルーブル(ロシア通貨)決済〜より」


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(写真はコチラ [6]からお借りしました。)
 
 
<ディナール(イスラム)決済>

アメリカ主導の国際秩序に対する、もう一つのイスラームの挑戦が静かに進行している。それは決してテロといった暴力的な手段ではなく、イスラームの普遍的な理念と構想力によって国際経済システムを変革していこうという平和的な試みである。その第一弾が、貿易取引において金貨を使用しようという構想である。金貨の名称は「ディナール」。すでに、イランがマレーシアとの貿易決済でディナールを使用することを提案したとも報じられている。ディナール普及のための事務局をマレーシアに設置する準備も進行している。「国を磨き、西洋近代を超える イスラーム金貨 ディナール(記:2003年)」


そして2011年、世界的なニュースとなった「カダフィ殺害事件」の真相には、カダフィがディナール金貨を発行し、金本位制を復活させ、欧米に支配された金融市場を解体しようとしたことにあります。

実は、このディナール金貨を発行しようと考えた指導者がもう一人いる。そう、カダフィ大佐だ。アフリカ連合としてディナール金貨を発行し、アフリカの資源輸出の決済通貨をディナール金貨に限定する。つまり、ゴールドの裏づけのないドルやユーロ紙幣では、もうアフリカの資源を一切売らないという訳だ。資源が欲しければ、ゴールドを払えと。ドルにしろ、ユーロにしろ、どちらも財政赤字を積み上げ、貿易赤字も垂れ流しにしている国々の通貨だ。信用がない。にもかかわらず、その紙幣が高い価値を維持できているのは、欧米が金融市場を牛耳っているからだ。自分たちが発行する紙切れに高い価値をつけ続け、アフリカの資源を買い叩いている。
 リビアが144tのゴールドを保有しているのに対し、イギリスが保有しているのは倍の300t弱。だが、人口はイギリスのほうが10倍多い。世界を昔の金本位制に戻せば、紙切れでごまかすことができなくなるのだ。それぞれの国の富はゴールドの保有量によって正しく評価されるようになる。輸出するものがない国からは、ゴールドがどんどん流出していくことになるからだ。金本位制の復活は、欧米に支配された今の金融市場を、欧米中心の世界の勢力図を劇的に変えることができる魔法の杖なのだ。
 予想外に粘るカダフィ大佐を権力の座から引き摺り下ろすために、欧米がリビアへ地上戦力投入を決断せざるをえなくなるのは時間の問題だという海外の報道がある。カダフィ大佐は、いずれ闇に葬られることだろう。しかし、呪われた金貨を復活させようとする者を根絶することはできないだろう。
(「呪われた金貨」より)


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(写真はコチラ [7]からお借りしました。)
 
この記事が書かれたのは2011年以前ですが、筆者の予想通りにカダフィ氏は闇に葬り去られてしまいました。
 
 
<元(中国通貨)決済>
 
そして、ドル離れをする国の中で忘れてはならないのが中国です。
中国はリーマン以降、自国通過元での決済圏を急速に拡大していきました。

〜人民元資本取引に関する最近の主な動き〜
 −2009年7月:クロスボーダーの財貿易の人民元決済を試行開始
 −2010年6月:クロスボーダーのサービス貿易を含む経常取引全体に人民元決済を拡大
 −2010年8月:海外の中央銀行や人民元決済参加銀行に対して、中国国内の銀行間債券市場において人民元で債券を購入することを認める
 −2011年1月:人民元による対外直接投資や直接投資企業に対する中国本土からのクロスボーダー貸付を認める
 −2011年2月:人民元による対内直接投資と対外借入の試行を開始
(「Newsletter」公益財団法人 国際通貨研究所のデータより)

また、以下のグラフを見れば、09年〜10年の決済額の大きな違いが良く解ります。
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(「経済レビュー」三菱東京UFJ銀行のデータより)
 

また、今年2012年には中国元と日本円の直接取引が動きだしました。
円と中国人民元の「直接取引」が6月から東京と上海の外国為替市場で始まった。為替手数料削減などで日中貿易の拡大が期待できる。中国には「人民元の国際化」という狙いもあり、将来的にドルを基軸とする国際通貨体制にも一石を投じることになりそうだ。
(「円と人民元の直接取引、動き出す 円の利便性が増し人民元を駆逐する」より)


 
他国間貿易の際、価値も信用もなくなったドルなど、誰も受け取りたくはありません。
このような国が今後ますます増加(ドル以外での決済圏の拡大)することは明らかであり、同時にドル決済圏の縮小は必至 なのです。
 
また、ドル離れの動きは貿易間の決済通過だけの話に留まらず、外貨準備の面にも及びます。次は、その事例を紹介します。
 
 
【外貨準備の推移】
 
<各国の外貨準備>
 
以下は、世界の外貨準備額の上位別一覧です。
中国が実質上、世界一の外貨準備額となっています。

1.中国 3兆 447億ドル(2兆2,726億ドル)
2.日本 1兆1,160億ドル(1兆 526億ドル)
3.ロシア 5,025億ドル( 4,293億ドル)
4.台湾 3,926億ドル( 3,322億ドル)
5.ブラジル 3,171億ドル( 2,216億ドル)
6.インド 3,055億ドル( 2,855億ドル)
7.韓国 2,986億ドル( 2,642億ドル)
8.スイス 2,801億ドル( 1,188億ドル)
9.香港 2,726億ドル( 2,269億ドル)
10.シンガポール 2,334億ドル( 1,820億ドル)
外貨準備額上位10か国(2011/3現在)]<( )内は2009年9月末

 
<元の国際化に舵を切る中国の外貨準備>
 

一方の中国には、「ドル依存を脱却したいとの思惑がある」(国際金融筋)。中国の外貨準備高は現在、世界一の約3兆ドル(240兆円)。その構成比は明らかではないが、大半がドルとみられる。貿易黒字で貯め込んだほか、対ドルの人民元の上昇(元高)阻止のための元売り・ドル買い介入で膨らんだのだ。
今回、ドル以外の主要国通貨の中で、円が直接取引”解禁”の第1号になったのは、円の通貨価値が相対的に安定していることに加え、「中国にとって米国に次ぐ第2の貿易相手国である日本から決済で受け取るドルを減らしたいという事情がある」(同)。
さらに、リーマンショック後、欧州危機に至るまで、国際金融不安の高まりの中で、中国がドル調達に苦労する局面もあったといわれる。
(「円と人民元の直接取引、動き出す 円の利便性が増し人民元を駆逐する」より)


 
 
【まとめ】
  
以上、各国の決済圏・外貨準備の動きを知れば、世界がドルを見限り敬遠しているかがよくわかります。自国通貨での決済圏が拡大していけば、今以上にドル安他国通貨高の状態が進み、やがてドルは完全に崩壊 することでしょう。
もはや瀕死寸前のアメリカは完全に支配力を失っていますが、世界のマネー経済が収縮しているという事は言い換えれば金貸しの資本力(支配力)が低下 していることを表します。
次回は、金貸し支配がどれくらい衰退しているのかを見ていきたいと思います。

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