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米国はどのように衰退してゆくのか?(17)〜米国人の精神構造は?その2アメリカ人にとってのキリスト教

刻一刻と迫る経済破局。経済破局が起きれば、一気に国家秩序崩壊まで至らないとも限りません。経済破局、秩序崩壊が起きるか否かは、金貸しによる生き残り競争の趨勢、さらには米国民の精神構造が最後のカギになります。
米国はどのように衰退していくか?(16)〜米国人の精神構造は? その1 米国政党から見る精神構造とは?〜 [1]

という問題意識の元、前回エントリーでは、米国の2大政党が持つ特色と歴史をもとに米国人の精神構造に迫りました。
今回は、宗教の視点から捉えてみたいと思います。
まず始めに、現状を押さえます。
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2004年の調査結果(ギャラップ社)によると、人口比にして実に85%もの人がキリスト教を信仰しています。
内訳は、プロテスタント50%、カトリック23%、宗派なし9%、ギリシャ正教1%、モルモン教2%。
キリスト教に次いで、ユダヤ教2%、その他、イスラム教、仏教、不可知論、無神論、ヒンドゥー教、ユニテリアンがそれぞれ0.5%から0.3%。無宗教は10%です。(参照:ウィキペディア)
アメリカ社会では、キリスト教且つプロテスタントの比率が高く、存在感を持っていることが理解できます。
同じプロテスタントでも多数の宗派が存在して、同一地域内で多様なキリスト教信仰が見られることが大きな特徴として挙げられます。
次にどの地域で何教徒が多いのかを表した「分布図」をご覧下さい。
引用元:GIGAZINE [2]
1.キリスト教:パブテスト教会(プロテスタント)
ヨーロッパからメイフラワー号に乗ってアメリカ大陸にやってきた「ピューリタン」が信仰していた。
今ではアメリカのキリスト教で最大の信仰者を持っている。
別名で「キリスト教原理主義」「福音主義」とも言われ、聖書を唯一の拠り所にしている。

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2.キリスト教:ルーテル教会(プロテスタント)
ピューリタンがアメリカ大陸に入ってきた後に、主にドイツからやってきた移民が信仰していた。別名「ルター派」とも呼ばれる。
北部に多い。代表的なプロテスタントの流れを汲んでいる。

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3.キリスト教:カトリック教会
全体的に広く分布している。東側は主にヨーロッパのカトリック圏からの移民、南部は中南米のヒスパニック移民が原点になって勢力を拡大している。

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4.ユダヤ教
信仰者はキリスト教と比べて圧倒的に少ないが、東海岸や西海岸などの主要都市に分布。都会に集中している。

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5.モルモン教
宗教学上はキリスト教の新宗教に分類されているものの、カトリック・プロテスタント・正教会では公式サイトにて一致して異端と表明している。主にユタ州に偏っている。熱心な布教活動で有名。

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分布図からは、宗教や宗派によってかなり偏っており、一般には紹介されることのない「隠れた地域構造」があることが分かります。
同じキリスト教でも、プロテスタントとカトリックではもちろんのこと、プロテスタントの中でもいくつかの宗派が存在し、各々解釈の違いが存在します。
特に社会事象のテーマにおいて、宗派による対立構造が明確に表れます。
例えば、同性愛結婚や妊娠中絶に関してカトリックやパブテストは認めない意見を表明し、一方でルーテル教会は比較的容認の姿勢を取っています。
こういった対立が、しばしば政治的に利用され、また逆に影響を与えることがあるのもアメリカの特徴です。
事例
オバマ大統領が「同性愛結婚支持」を打ち出すことによって支持基盤を拡大 [3]
ブッシュVSケリーの大統領選挙で、「妊娠中絶」賛成の意思表明をしたケリーとカトリック教会の存在 [4]
(ケリーは妊娠中絶を容認する民主党に所属しながら、妊娠中絶反対の立場を取るカトリック信者でもある。そこでケリーは票を守るために、カトリック教会の枢機卿に面談しに行って対立を和らげようとした)
ちなみに、ギャラップ社の2007年5月の調査によると、アメリカ人で、「神を信じる」と答えた人が86%、「天国を信じる」と答えた人が81%という結果が出ています
また、アメリカ人は40%もの人が毎週礼拝に参加している [5]とも言われ、アメリカ全土的に見てキリスト教への信仰心の高さが伺えます。
このキリスト教に対する極めて高い信仰心(時として政治にまで影響を与えるほどの)は一体何に起因するのでしょうか?
ここから、アメリカ人の精神構造に迫っていきたいと思います。
●祖国の弾圧を避けた一部のピューリタンがアメリカへ侵略
キリスト教の信者の多さ(特にプロテスタント)の理由を探ると、古くはピューリタンの歴史にまで遡ります。

ピューリタン(英語:Puritan)は、イングランド国教会の改革を唱えたキリスト教のプロテスタント(カルヴァン派)の大きなグループ。
【中略】
ピューリタンの中には祖国での弾圧を逃れ、1620年、メイフラワー号に乗りアメリカに移住した者もいる。
ウィキペディア [6]

元々アメリカを作ったのは上記のピューリタン一派で、母国の英国国教会の権威と体制に反抗(protest)し、新天地を求めてアメリカにやってきました。
彼らは、当時の英国国教会が、教会司祭が聖書を解釈したものを教義として定めていたことに反抗し、聖書の解釈を教会ではなく庶民に委ねようとした所が特徴です。
●原住民(インディアン)を排除し、キリスト教によって正当化し続けた
ピューリタンは未開拓の地アメリカに千年王国(神に祝福された国)を作るために、原住民を次々に排除して、西へ西へと勢力を拡大していきました。
彼らにとっての一連の行為は「神の導き」であって、元々信仰するキリスト教によってひたすら正当化し続けた歴史とも言えます。
前回エントリー [1]で取り上げたアメリカ人の気質「選民意識」「アメリカこそ世界NO.1」「異教徒排除」が生まれた背景もここにあります。
こうして、プロテスタントの中でも「聖書の解釈が全て」とするパブテスト(原理主義)が中心勢力になっていきました。
●警戒心が強いゆえのキリスト教への強い収束力
共同体の歴史を持つ日本はもちろんのこと、ヨーロッパと比べても、人工国家のアメリカ人は必然的に他人に対して強い警戒心を持つことになります。
共有できる歴史も地域共同体もなく、互いに警戒心の塊になった人々にとってキリスト教という共通の観念は、唯一且つ強力な収束先になっています。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
以上、ここまでで、表向きは「自由の国:アメリカ」を標榜しながら、内実はキリスト教によって侵略の歴史を正当化し続けてきた歴史を持ち、だからこそより強くキリスト教に収束し続ける気質を持っていることが理解できました。
そこで、本エントリー前文に立ち戻って秩序崩壊後のアメリカを予測したいと思います。
元々はピューリタンの侵略の歴史だったことを踏まえると、最後の拠り所は正当化の観念(キリスト教)になるのだと思います。
しかし、キリスト教にも各々宗派があるため、秩序崩壊が進めば、同じキリスト教でも各宗派ごとに収束を強め、前述の分布図に倣う形で合衆国の分裂に向かっていくのではないかと思われます。
そして、結束力の高い宗派(例えばユタ州のモルモン教)から、独立していくことも予想されます。

以上、政党から宗教へと視点を変えて考察してきましたが、次回はアメリカの大きな特徴である「銃社会」という側面から、アメリカ人の精神構造を捉えていきたいと思います。

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