2013-03-06

大恐慌の足音・企業は生き残れるか?第9回 〜ファーストリテイリング〜

 自民党が推薦し、民主党もそれを追認する形で、日本銀行総裁が元財務省出身の黒田東彦氏でほぼ内定の見通しになっています。4日の所信聴取では「デフレ脱却に向けて、やれることは何でもやるという姿勢を明確に打ち出していきたい」と強調し、阿倍政権が掲げる「物価上昇率2%達成」の目標を、「個人的には2年ぐらいを念頭におく」と発言しています。
 さて、長らく続くこのデフレ基調を追い風に、そして大衆の節約志向の意識潮流にも乗る形で急成長してきた企業があります。それが、今回取り上げるファーストリテイリング(ユニクロ)です。
 商品企画・生産・物流・販売までを一貫して行うSPAモデル(製造小売業)を他社に先駆けて確立し、フリース・ヒートテック・サラファインなど、高品質な商品を低価格で提供し続けて、今も尚多くの顧客を獲得しています。

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 衣料品業界の勝ち組企業の代表格とも言えるファーストリテイリングですが、大恐慌前夜の急速な市場縮小の状況下においても、それは全く無縁とも言えるぐらいの経営状況なのでしょうか?或いは、少なからず影響が出始めているのでしょうか?
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◆ファーストリテイリングの経営状況
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 流動比率は120%を大きく超え、自己資本比率も40%を超えるなど、非常に優良な財務状況にあります。
 これは、本シリーズで扱った、同じ流通小売業の勝ち組と言われるイオン(流動比率89%・自己資本比率32%)や、セブン&アイ・ホールディングス(流動比率109%・自己資本比率48%)を大きく上回り、日本の製造業でもトップレベルの財務状況として有名な東レ(流動比率151%・自己資本比率45%)、オムロン(流動比率215%・自己資本比率62%)に匹敵する内容です。
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 経常利益率の方も、2011年〜2012年にかけて若干落とした時期はありましたが、2013年第1四半期では18.8%と高水準を記録しており、すぐさま盛り返してきた感があります。
 次に、ファーストリテイリングが目指す方向性を掴むために、もう少し詳細に入って事業部門ごとの分析に入りたいと思います。
◆ファーストリテイリングの事業部門分析
 ファーストリテイリングの事業部門は、大きく、国内ユニクロ事業、海外ユニクロ事業、グローバルブランド事業に分かれています。
 それぞれの事業部門がどうであるかを、ファーストリテイリングのグループ事業業績のページから見てみます。
 ファーストリテイリングは、2013年8月期では、国内ユニクロ事業の売上6,530億円、海外ユニクロ事業2,290億円、グローバルブランド事業1,850億円とし、合計1兆670億円と1兆円売上を目論んでいます。
 そこで、過去の事業部門がどのように推移してきたのかを見てみます。

 事業部門のカテゴリーは、国内関連事業を含む4部門から現在は、3部門に変更していますが、国内ユニクロ事業、海外ユニクロ事業、その他と見ることができます。
 2008年8月決算段階では、国内ユニクロが売上4,623億円、総売上の79%を占めていました。海外ユニクロは293億円(構成比で5%)とまだわずかでした。営業利益でも、国内ユニクロが864億円(海外ユニクロはわずか3億円)と、利益の大半を国内事業で出していました。
 それが、2010年8月期には、国内ユニクロ売上6,151億円・海外ユニクロ727億円、2012年8月期には、国内ユニクロ売上6,200億円・海外ユニクロ1,531億円と、急速に海外ユニクロにウエイトが高まっています。
 利益や店舗数で見ても、2012年8月期の国内ユニクロ売上利益1,023億円、海外ユニクロ109億円、国内845店舗、海外292店舗と海外ユニクロの増加が目覚しいです。
 ファーストリテイリングのこの5年間の事業部門の推移を結論づけると、国内ユニクロ事業は、店舗のスクラップ&ビルドを行い、一定の売上増加を確保しながら、中国、韓国、東南アジアへユニクロ店を展開し、全体の売上拡大を図っています。中国、アジアの成長市場を本格的に狙ったことが成功しているのです。
 しかし、中国、東南アジア市場の爆発的な市場拡大が終わりそうですので、ファーストリテイリングの柳井社長の狙い通り、1兆円売上企業となるかどうかは予断を許さないと思います。
◆ファーストリテイリングは今後も成長を持続できるのか?
 本題とは別の視点にはなりますが、財務状況や売上分析では表れない数字に、急成長企業であるが故の弱点も見られます。
それは、新卒社員の3年以内離職率が50%で高止まりしているという点です。

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ファーストリテイリングの柳井社長は、NHKのテレビ対談の中で、ユニクロの急成長の秘訣は「全員営業にあり」というタイトルで、こう語っています。
日経BIZアカデミー(2009.6.18)より引用

柳井氏は「僕は、店など、小売業は全部店長しだいだと思っているんです」と語り、「店長は社長の代理」とまで言う。
 「店に関しては権限を持っています。商品も決められるし、人も決められる。毎日の商売の組み立てもできる。だから、誇りを持って、自分が一番だと思って仕事をやってもらって、お客様にサービスする、そういうことをぜひ一生の仕事としてやってもらいたい。」

 しかし、柳井社長の想いとは裏腹に、現場の状況は異なるようです。
「ユニクロ 疲弊する職場」東洋経済オンライン(2013.3.4)より引用

同社は現在、社員の月間労働時間を最長240時間と定めている。これは月80時間程度の残業を前提にした数字だ。「上限240時間」は、繁忙期だろうと新店オープンだろうと絶対破ってはならない「鉄の掟」とされている。
〜中略〜
そのうえ店長の権限は決して大きくない。什器の設置や商品の陳列の方法などは色の並び順まですべて決まっており、店長の裁量権はせいぜい在庫の発注とスタッフの採用ぐらいだ。ただし募集時の時給額も本部が決めている。あとは本部の指示、直属の上司で複数店舗を統括するスーパーバイザー(SV)の指示、そしてマニュアルに従って働く。

 特に若手20代前半ぐらいの世代では、課題や役割、評価を共に認め合うことで得られる共認充足が第一の意識に大転換しているにも関わらず、マニュアルをこなすだけで精一杯になり、自らが主体的に動ける場や役割が大きく制限されているという現実が、若手社員と企業側でズレを生み、離職率が高止まりして人材が育たない脆弱さを孕んでいるものと思われます。
 10年、20年先に今の若手がファーストリテイリングを支えて行く立場になるとき、今の組織統合のあり方が経営に影響を与えるリスクは否定できないと思われます。

List    投稿者 wabisawa | 2013-03-06 | Posted in 未分類 | No Comments » 

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