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大恐慌の足音・企業は生き残れるか?第10回 〜日本マクドナルド・ホールディングス株式会社〜

前回までは、電機・工業品メーカー、流通業界における企業の経営状況分析をしてきました。
どの分野でも、少なからずリーマンショックの影響を受けており、経営状況が悪化した企業や逆境を乗り越え挽回をみせる企業など、生々しい企業の実態を垣間みることが出来ました。
今回からは路線を替え、食品産業界に視点を向けてみたいと思います。
近年急速に高まってきている人々の食への関心は食品業界にどのような影響を与えているのでしょうか。
今回扱う企業は、あの馴染みの深い『日本マクドナルド・ホールディングス株式会社』です。
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◆外食・中食産業の実態
 
まずは、食品産業界における外食市場の動向からみてみたいと思います。
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80年代後半から、外食と内食(自炊)の差が開き始めます。
内食市場は縮小し続け、外食は90年代半ばに一度ピークを迎えるも、現在では85年と同じ推移にまで落ち着きます。
一方で、一際に勢いを見せるのが中食産業です。中食とは、スーパーで売られる惣菜やコンビニ弁当などのことを指しますが、この中食産業が食品産業市場ではトップを占めています。
つまり現在の食品業界は、外食・中食産業が占めているといっても過言ではありません。
 
 
◆マクドナルドは優良か?
 
さて、お馴染みのマクドナルド(日本マクドナルド・ホールディングス株式会社)は、この外食『店内で食べる』と中食『テイクアウト』の両方の分野を兼ね備えた強豪であり、2011年の外食産業の上場企業売上高ランキングでは第2位・経常利益率ではなんと業界トップを占めています。
 
では、具体的に企業の基礎体力表を見てみましょう。
 
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00年前半に経営が危ぶまれたマクドナルドですが、その後は業績を回復させて今では優良企業といわれるまでになりました。表の流動比率・自己資本比率の数字の伸びは注目です。
一般的に安心とされる流動比率は120%とされていますが、2011年にはそれを大きく上回る166%と、前回までに紹介したオムロンや東レ(共に優良企業)とほぼ同じレベルの数値です。
 
これは、低価格路線の失敗で苦境に追い込まれたマクドナルドを窮地から救ったといわれる、元日本アップルコンピューター代表取締役社長の原田CEOの手腕によるところが大きいという評価があります。
詳細は後述しますが、2008年〜2010年の流動比率の上昇は注目されるところです。
 

マックの59円バーガー「間違った経営戦略」 原田社長、低価格競争に警鐘 [1]

 
続いて利益状況を見てみましょう。
 
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一般的に飲食業の経常利益率は5%が平均値とされており、それと比較すると非常に高い数字であることが解ります。
2008年〜2010年にかけて2倍近くの利益率の伸びが見られ、これは先ほどみた流動比率の伸びと同じです。
では、一体何が要因となったのでしょうか。商品の爆発的なヒットがあったのでしょうか。
 
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◆財務表にみられる、アヤシイ会計方法
 
原田氏は、コーヒーやシェイク、一部単品バーガーの100円キャンペーンで客足を取り戻す一方で、主力のバーガー類は「クォーターパウンダー」や「ビッグアメリカ」シリーズといった付加価値メニューを投入し増益を試みました。
しかし、最も効果を発揮したのは徹底した直営店舗のフランチャイズ化とそれに伴うリストラ策でした。現に従業員数を見てみると、年々減少の一途を辿っています。
 

<「フランチャイズ店戦略」と「直営店戦略」、どちらが有利?>
『確かに、直営の方が本部で把握する売れ筋情報などを品揃えに直接反映したり、費用がかかる改装や店舗の再配置をしたり、さらには従業員の教育を強化するなど、消費者ニーズ変化への対応力は強くなるでしょう。しかし、FCに比べ店舗運営効率が低下し、本部の財務体質は悪化することになります。』

 
原田氏は、直営店を手放すことで、大幅なコストダウンと人件費削減を進めてきました。
以下の図は、直営店舗とフランチャイズ店舗の推移をまとめたものです。
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興味深いのは、フランチャイズ化を推し進めることにより、財務状況が著しく良くなっている点です。
 
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何故、フランチャイズ化をすすめると財務が良くなるのか?
そのカラクリを説明しているサイトがあったので紹介します。
 
マクドナルドは本当に「勝ち組」なのか? アヤシイ会計処理に“ひとこと” [2]

マクドナルドの2008年の経常利益は182億3900万円、2007年は156億1600万円。フランチャイズ売却益が2008年は43億3500万円、2007年は13億6700万円なので、売却益を除いた経常利益は2008年が139億400万円、2007年が142億4900万円。売却益を除いた経常利益を見ると、2008年が過去最高というのは“アヤシイ”ものとなってくる。 [3]

2011年まで現状と同じような水準の景気ならば、マクドナルドは店舗売却益で水増ししている分を除けば「減益だろう」としか言い様がない。 [4]

 
また、外資比率が過半近くあるのも目に付きます。
外国人株主による配当圧力から、「優良な財務表だけを繕う経営手法をとっている」という可能性も否めません。
しかし、これまで勢いよく切り続けた直営店舗売却というカードも、そろそろ無くなろうとしています。
現に、経常利益推移グラフで2012年に減少傾向が見られ、まさに頭打ちの危機的状況であると言えます。
 
 
◆はたしてマクドナルドは生き残れるのか。
 
この状況下において、今後原田CEOはどのような戦略を立てるのでしょうか。
 
これまでにも、何かしらの動きは見せています。
今年1月には「ENJOY!60秒サービス」と称して、注文を受けた全商品を60秒以内で提供できなければハンバーガー類の無料交換券を渡すキャンペーンを展開するキャンペーンや、新成人にビックマックを無料で提供したりなど、とにかく『無料』で客を惹きつけ回転数アップに繋げる方法で起死回生を狙っているようです。
しかし3.11以降、消費者の食への関心は急激に高まっており、そう単純にはいかなそうです。
 

<迷えるマクドナルドに起死回生の戦略はあるのか?>
かつて長崎ちゃんぽんを全国展開するリンガーハットは450円のちゃんぽんを100円値引きするクーポンを乱発して、外食産業の激しい価格競争を生き残ろうと画策していました。
ところが、クーポンで値引きしても思うように売上が伸びなくなり、大きな赤字を計上して経営危機に直面したのです。
この未曽有の危機を乗り切るために再登板した創業一族の米濱社長は、他の役員や銀行が反対する中、クーポンによる値引きを廃止し、食材に全て国産野菜を使用することによって料理の質を高めて、デフレ経済にも関わらず100円の値上げを断行します。
この逆転の発想は周囲の予想に反して、顧客の支持を得ます。そして、リンガーハットは危機的な状況を脱し、値上げが功を奏して驚異的な利益を計上するなど、V字回復を実現したのです。
このケースからわかるように、顧客は決して安い価格を望んでいるわけではなく、価格に対して価値の高いものを望んでいるということなのです。
その観点に立てば、マクドナルドがやるべきことは立て続けに実施する無料キャンペーンではないことは明白でしょう。

 
今後、マクドナルド・ホールディングス株式会社に起死回生のチャンスはあるのでしょうか。
どちらにしろ、現在の数字だけを取り繕う経営方針は一度捨てて、社会の意識潮流を捉え直し、人々が何を求めているのか、根本的な方針転換をする必要がありそうです。
 
 
次回は、外食産業売上ナンバー1のゼンショーを扱いたいと思います。

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