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大恐慌の足音・企業は生き残れるか?第12回〜 〜居酒屋から農・介護・宅配事業への業態革命:ワタミ株式会社〜

前回は、外食産業売上トップのゼンショーを扱いました。
大恐慌の足音・企業は生き残れるか?第11回 〜外食産業売上トップ・ゼンショー〜
今回は居酒屋チェーンの一つ、ワタミを扱います。
1984年、現会長の渡邉美樹氏が創業。つぼ八フランチャイズから始まり、和民、和み亭などの外食産業、中食産業の店舗を展開してきました。TVなどでもよく顔を見る渡邉氏は、(8階の会議室で)「ここから飛び降りろ!」と言い放つなど、自社の社員や日本の若者に若者に対する厳しい発言でも知られるスパルタ実業家です。

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では、ワタミの経営データを見てみましょう。
 

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売上高は漸増、流動比率、経常利益率はほぼ横ばいで、自己資本比率がやや低下傾向にある。経営的には比較的安定しており、新規投資によって徐々に拡大しつつあるということがデータからはいえます。
しかしワタミの場合、この新規投資、および経営拡大は、従来の居酒屋を中心とする飲食業のことではありません。
 
●90年代から業態転換を開始
居酒屋チェーンから身を起こしてきたワタミは、90年代に入ってから、飲食業を足場にしながらも、次々と新しい事業を立ち上げてきました。
 
1998年〜農業事業
ワタミグループ全店での、安全な食材を使った料理の提供を目的に、1998年に契約栽培での減農薬・減化学肥料栽培野菜を導入した。2001年には、グループ内企業での有機農産物の生産を開始している。
 
農業事業は、主に株式会社ワタミファームを中心に事業展開が行われている。ワタミファームと呼ばれる農場は全国に6か所ある。グループ会社農場を含め約250haの農場で、日本で生産されている有機野菜の約6%(2004年度実績)を生産する、有機農業事業者では日本最大のグループになった。
 
2004年〜介護事業
2004年4月、ワタミメディカルサービス株式会社を設立して、介護事業に参入した。2005年3月に介護会社をM&Aで買収し本格参入。
現在は、ワタミの介護株式会社が事業展開を行う。また、宿泊施設、飲食物の提供、乳幼児の保育、老人の養護、布団などの貸与などに関して、「ワタミの介護」、「ワタミ」、「介護」などの語や意匠について商標権を有する。
2008年〜食事宅配事業
1978年創業の株式会社タクショクを買収。「ワタミの宅食」として、北海道、青森、秋田、岩手、沖縄を除く全国で高齢者向けの食事宅配事業を展開。
他に、グループ内施設の施工・メンテナンスにおいて省エネルギー化やリサイクルを進める環境事業、グループ内の人材開発・教育のノウハウを他企業にも提供する教育事業も開始しています。
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2011年度の事業計画の資料によれば、2010年度のセグメント別売上では国内外食が既に6割強になっており、2011年度にはこれがさらに1割ダウン、代わりに介護事業、高齢者宅配事業を拡大させる計画になっています。
●主力を居酒屋から宅配事業へ
そして、先日ワタミは、グループの主力事業を居酒屋から高齢者宅配にシフトすることを表明しました。
2013年4月20日 日経新聞より

ワタミは高齢者向けの弁当宅配を居酒屋に代わる主力事業にする。配達拠点や生産能力の増強で供給力を拡大。2016年3月期の弁当宅配事業の売上高を12年3月期(260億円)の3倍の約780億円にし、国内の居酒屋事業の約760億円を上回る規模に育てる。同社は国内の居酒屋で売上高が3位の大手だが、成長が見込める事業に大胆に軸足を移す。

 
●全産業界で業態革命は必須
ワタミは、女子社員の過労死問題と、それに対する渡邉会長の対応などを通じて「ブラック企業」などとみなされることもあります。冒頭の会長のスタンスや、次々とM&Aを重ねて事業を拡大していく経営手法etcからも、その企業体質は、共認原理へ向かう時代潮流からはズレているように見えます。
 
一方、課題収束の高まりから衰退確実な居酒屋から、農業、介護、そして宅配という業態転換の方向からは、大きな時代の捉え方は間違っていません。
 
リーマン・ショック以降、本格化した市場の縮小によって、従来のどの産業・業種も、業態革命が余儀なくされています。
ワタミが単なる業容拡大ではなく、その現在的な外圧を捉え、大胆に業態革命を果たすべく試行錯誤しているのならば、今後も全く違う姿で生き残っていく力を有しているのかも知れません。

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