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中央銀行支配からの脱却(2)〜南米・中東・アジアのバーターシステム

2008年のリーマンショック以降、国家が銀行に借金をして穴埋めをするという矛盾した構造が明るみに出始め、それと同時に動いている中央銀行制度からの離脱の動きについて見ている。
 
前回の記事「中央銀行支配からの脱却(1)〜銀行を潰して復活したアイスランド」 [1]では、国家破綻後、ファンドや年金基金、金融機関や事業法人などの“プロ”の大口債券者からの借金を踏み倒し、復活を遂げたアイスランドの事例を扱った。
 
今回は、かつて自国の通貨が弱く貧しい国々がやむ得なく行っていたバーター取引が、ここ最近増えてきており、先進国でも中央銀行制度からの脱却の方法として取り組まれているという事例を紹介していきたい。
 
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○バーター取引、バーター制貿易の仕組み(wikipediaより)
 

物々交換(ぶつぶつこうかん、英: barter:バーター)は、貨幣などの媒介物を経ず、物品と物品を直接に交換すること。「物」とあるが、無形のサービスについても使う。
近代では、貨幣への信頼が無くなったり、超インフレーションが起こったり、貨幣の発行が途絶えたりして、貨幣経済が麻痺した状況下で行われる。
正常に貨幣経済が機能していても、片方に支払い能力が乏しいとき、バーターとして、商品で支払われることがある。給料の現物支給なども、物々交換の一種である。
物々交換は、決算に金額として現れないので、定量的に評価することが難しく、経営の障害になる。マクロには、経済政策を立てる上での障害になり、課税も難しい。
バーター貿易とは、物々交換による貿易のこと。求償貿易ともいう。全貿易額を等価交換するものから、一定期間をすぎた後に交換によって生じた貿易差額を現金で清算勘定するものまで、さまざまな形態がある。主に外貨が不足している発展途上国との貿易で使われ、旧共産圏内では特にこれが多用された。

○バーターの歴史
 
・ドイツ
世界恐慌後ドイツでは、世界的銀行家シャハトの働きによって、物々交換による貿易地の開拓や(南米などに商売網を広げた)第一次大戦後のベルサイユ条約で押し付けられた賠償金を減額させるなどして、西洋でも始めて経済復興に成功した。(リンク [2]
 
・日本
日本での管理法では、原則として物々交換は認められていないが、昭和28年後半の国際収支悪化にともない、積極的輸出振興策としてこの求償協定による制度を活用することになった。
 
・ロシア
バーター取引が盛り上がりを見せ、1998年には全取引の54%を占めるまでになった。
1989年当時、カニを日本(北海道)へ輸出するビジネスが行われるようになり、実態は、カニを積んだ船には、ロシアに帰る際、日本の中古車を積んで行ったという話もある。(リンク [3])(リンク [4]
 
○バーターの直近の事例
 

●チャベス大統領のALBA構想
FTAAに対して、真の意味で「オルターナティブ」と呼べる地域統合構想は、ベネズエラのチャベス大統領が唱える「米州ボリバル・オルターナティブ(ALBA)」構想であろう。
ALBAの原則は地域内の国や人びとの連帯と協力にある。しかし、これははじめから多国間協定書や、ルールが決まっているわけではない。ベネズエラ・キューバ間、ベネズエラ・ボリビア間などといった2国間協定を積み上げていく。
たとえば、これまで、ボリビア産の大豆を一手に輸入してきたコロンビアが、米国との間で自由貿易協定(FTA)を締結した。そこで、ベネズエラとキューバが、ボリビア産大豆をほとんど買い取るという協定に合意した。キューバはその見返りにボリビアの貧しい地域に医師と教師を派遣することになった。ベネズエラは、このキューバのプロジェクトの支援として石油をキューバに輸出する。
ここには、ボリビア産の大豆が、物々交換(バーター取引)に近い形で取引され、代価として保健や教育のサービスを提供するという「社会的貿易」という概念がある。これは、ドルを基軸通貨にした「経済的貿易」に対抗するものである。これが、チャベスのいうALBAの一端である。(リンク [5]

 
ほかにも、

 南米の左派政権同士が実施している貿易は、たとえば、キューバが不足する石油をベネズエラからもらい、代わりにベネズエラは不足する医師をキューバからもらうという、本当に必要なものを融通し合うという助け合い精神のバーター取引だ。このような貿易を、今後は目指すべきであろう。(自由貿易からの勇気ある撤退を(ROCKWAY EXPRESS) [6]より)

●イランとその周辺諸国のバーター取引
 
イランでは、石油やガスなど豊富な資源を元に戦略的にバーター取引を行っている。ドルに寄らない、各国との関係を構築している。その対象になっている中国では、石油をバーターで取引する市場が世界で初めて海南省にオープンし(2012年)、ロシアやタイとも協力関係を結んでいる。また、中国は地下鉄車両に限らず、トンネル建設から玩具の輸出に到るまでイラン経済に全方位的に参与するとともに、イラン石油産業への参入を広げている。(リンク [7]
 
                  イラン←→パキスタン
          電力・肥料・鉄鉱石←→小麦
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                イラン←→中国
                 原油←→地下鉄車両
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                イラン←→インド
              石油・ガス←→繊維機械・原料
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中東かわら版 [8]より)
 
●その他
南米のアルゼンチンで1995年5月に始まった交換クラブでは、食料や衣料品などの生活用品がドルを解さず取引されており、現在ではアルゼンチンを超えて、ブラジル、ウルグアイ、チリ、スペインなどにも広がっている。(リンク [9]
ロシアでもバーター取引は1998年まで増加傾向(工業企業の売上の54%を占めるにまで増加)にあり、その後低下する動きを見せたが、2009年から再度増加の動きが復活している。
○まとめ〜中央銀行制度からの脱却〜
 
・バーター取引は、金はないが資源はあるといった貧乏な国がやむを得ず行う取引でだった。現在は、そのような通貨が弱く貧しいからという理由だけではなく、意図的に取り組んでいる国々が増えてきている。
・ベネズエラ、イランは意図的に(反米、ドル離脱策として)バーターシステムを取り入れている。
 
IMF改革を主張するBRICS〜追い詰められる国際金融支配勢力 [10]

BRICS 世界の金融クーデターを画策
  ロシア、ブラジル、インド、中国、南アフリカをまとめるBRICSは、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、そして世界貿易全体のルール変更を目指している。29日に採択されたデリー宣言では、そのような立場が示されている。BRICS各国は、IMFでの改革テンポが遅いことに不満を持っており、今年中にも、議決権の割合を増やすよう求めている。デリー宣言ではまた、IMFの融資能力は、加盟国すべてに対等の権利を与えることが出来るかどうかにかかっていると述べられている。マクシム・ブラテルスキー専門家は、欧米諸国が新興国の議決権を拡大するとした合意を無視していることに、BRICSは黙っているつもりはないと指摘しており、次のように語っている。
  —問題は昨日や今日の問題ではありません。2、3年前の時点ですでにBRICS諸国はG20で、IMFでの議決権割り当てに問題があることを取り上げていました。その動きは強力なもので、中国とインドには少し割り当てが増えましたが、ロシアは何も得をしていません。この動きは実際にはゆっくりとしたものです。おそらく、BRICS諸国はさらに抜本的な割り当て見直しを望んでいることでしょう。

 
・バーターシステムは、ドル支配に飲み込まれないための方法であり、中国やインドなどはこの方法で取引をしながら力をつけてきている。アメリカに匹敵するほどの次期超大国の動きは、ドル中心の中央銀行制度を変えていく可能性が大きいのではないだろうか。

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