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ロシア経済危機から何を読むか?

本年最後のエントリーとなりました。
今年の世界経済(情勢)を振り返ってみると、ロシアへの経済制裁が始まったことが大きな出来事の一つと言えるでしょう。
ウクライナ問題から始まった西側諸国によるロシア経済制裁ですが、これは如実にロシア経済を直撃しています。
今年の3月に米国によるロシアへの経済制裁の表明がありました。2014年の初期には、対ドル相場(USD/RUB)で、1ドル=33ルーブル程度だったのに対し、12月には一時、1ドル=66ルーブルの高値にまでなったのです。
つまり、この1年でルーブルの対ドル(対外)価値が半減したことになります。大雑把に言えば、輸入品の価格が2倍になるほどルーブルの価値が下落したということです。
また、経済制裁は為替のみに留まりません。産油国であるロシア経済の基盤は、原油価格の変動に大きく左右されます。
原油相場(北海ブレント)は、2014年7月の1バレル=115ドルに対し、10月時点では80ドル台へと、こちらもまた3カ月間で40%も下がっています。ロシアは、原油と天然ガスの輸出で全輸出額の70%に及ぶため、原油価格の下落は国家財政及びロシア経済に直接的な影響を与えるのです。
下のグラフは、リュウマの独り言 [1]さんからお借りしたものですが、先のルーブルと原油価格の下落が2014年の7~8月以降おもしろいほど一致しています。
USD/RUB為替相場の推移 と 原油価格推移 (リュウマの独り言 [1] より)
          ルーブルと 原油価格の暴落は 余りにも一致している。
田中宇 氏 [2]によれば、原油相場の変動は、イランやロシアを困らせる目的で(経済制裁の一環として)、米国とサウジアラビアが結託して、原油価格の引下げを行ったとのことです。
サウジは買い手の諸国に対し「必要以上に大量に原油を買ってくれた場合だけ破格の安値で取引する」と条件をつけ、アジア方面には、1バレル50~60ドルという破格の価格で輸出し、世界が過剰に原油在庫を抱えるように、原油安を煽っているようです。
米国と欧州は執拗なまでにロシア、そしてプーチンを追い込むつもりなのでしょう。

◇欧米と金貸しに対し、プーチンはどのように抗うのか?
そんな米国をはじめとする西側からの圧力に対して、プーチンはどのように対抗するのでしょうか?
12/18に開催された毎年恒例のプーチンの大記者会見を見てみましょう。

以下、ロシアNOW [3](プーチンの記者会見)より転載

プーチンの大記者会見その1
経済およびルーブルについて
現状はまず、外部要因に誘発されている。しかしながらロシアも、計画したこと、行うべきと言及したことの多くを実施できていない。
何よりも、原油価格が変動しており、ガス価格がそれにつられている。ロシア政府、ロシア連邦中央銀行に聞きたいこともあるが、全体としてはすべては適切な方法で行われている。昨日、今日の外貨安とルーブル高がそのまま継続することを期待している。これはあり得る。そして原油価格が下落し続けることもあり得る。
ロシア経済は現状から脱する。それにどのぐらいの時間を要するだろうか。もっとも不利な展開で2年。中銀は何も考えずに準備金を放出しようとしているわけではない。ロシアの総準備高は8兆3000億ルーブル(1410億ドル)。
実質的な非エネルギー事業をロシアで立ち上げることには苦心している。今のところ、エネルギー部門が大きな利益を出している。働かなくてはならない。現状は我々を効率化に向かわせる。
確かに、国家の社会的な義務を果たすことはより困難になる。だがそれを行うことは可能。

国際関係について

ベルリンの壁崩壊後、北大西洋条約機構(NATO)が東へと拡大することはないと、我々は聞いていた。だがそれはすぐに起こった。これも壁ではないのか。止まることはなかった。それが国際関係の問題である。西側は自分たちが帝国で、残りの国はすべて属国であり、圧搾しなければならないと考えた。
ウクライナなどの情勢におけるロシアの強硬な姿勢は、壁を打ち立てる必要などないことを西側に示すもの。情勢に対するロシアの強硬な姿勢によって、共通の安全な領域を構築する必要性を西側に感じてもらえるのではないか。
ロシアは何をしても反対され、責められる。ロシアがいかにしてオリンピックの準備をしたか、思い出してほしい。オリンピック自体と、その準備への信頼を失墜させようと、未曾有の結託した試みが行われていた。
ミーシャ(ロシア)が森で子ブタを追いかけるのをやめて、イチゴやハチミツを食べていたとしても、ミーシャを鎖でつなぎ、その歯と爪を引き抜こうとする。シベリア全体がロシアに属しているのは不公正だとまで言われている。メキシコからテキサス州を奪い取るのは正常だが、ロシアが自国の領土を管理するのは不公正なのか。歯と爪のなくなったミーシャは不要になり、カカシにされてしまう。我々は自分たちを守りたいから、闘って自立する。さもなければ我々の毛皮が壁にかけられてしまうことになる。
アメリカは新たな可能性の生まれている東側に展開している。アジア諸国のエネルギー需要は高まっている。ロシアがそのような転換をあきらめる必要などあるのだろうか。これについて我々はずっと以前から考えていた。中国との契約は不利ではなく、ロシアは特恵を選んだ。これによってロシアは西と東のガスパイプライン・システムを連結することができ、情勢次第でガスを転進することができるようになる。これは巨大な建設、税収、生活の活性化である。
トルコについては、我々はそのニーズを知っている。トルコとギリシャのハブが可能かは、ヨーロッパのパートナーに依存している。ガスの常時入手が望まれればハブになり、望まれなければハブにならない。ロシアほど安く、信頼のおける供給は存在しない。

ウクライナ情勢について

ロシアでは大統領にすべての責任がある。軍人については、その運命の責任を負うのは最高総司令官。それは同一人物である。
ウクライナなどでの戦闘行為に、心の叫びから参加する人のすべてが、お金とは関係なく参加している。ウクライナ政府の行動を懲罰作戦と認識している。義勇兵がキエフを攻撃したわけではない。クーデターの後、キエフは反対者と政治対話を行うかわりに、警察、軍隊、経済封鎖を使った。我々はこれを無益、有害と考えている。統一された政治領域が復活するまで、仲介役になり、政治対話を支援する用意が我々にはある。
全員対全員[ウクライナ東部とキエフの間の捕虜交換]を実施する必要があると考えている。しかし、現実はもっと複雑である。
ウクライナが平和と領土の一体性の復元を望むのならば、ウクライナの特定の地域に住む人々を尊重し、それらの人々と政治対話を行わなければならない。
(後略)
プーチンは、西側諸国及び金貸しに決して屈しようとしません。これは一貫した彼のスタンスです。
しかしながら、この記者会見からわかるのは、ロシア経済の見通しについては楽観的ではありません。もっとも不利な展開で2年とあるように、ルーブル為替と原油下落のショックはしばらく続くとの見込みです。
その一方で、天然ガスのパイプライン建設を通して、周辺諸国に対し、西側諸国服従からの離脱をも暗に匂わせています(抜け目がありません)。
今、世界で起こっている現象は、米国建国以降ずっと続いてきた米国一国支配主義(金貸し支配)からの脱却、あるいはロシア・中国を中心とした新たな経済領域の構築によるパワーバランスの変動です。
世界は今大きな分岐点にいる、という状況認識が必要なのでしょう。
本年も当ブログをご贔屓いただき、ありがとうございました。
来年は、さらに発信の質を上昇させていきたいと思う次第です。
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