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反グローバリズムの潮流(ドイツの連立合意の混迷は、EU体制の限界が主要な原因)

Britain's Prime Minister Theresa May gives an election campaign speech to Conservative Party supporters in Norwich [1]昨年9月にドイツの総選挙が行われてから5カ月がたちましたが、まだ正式に新政権が発足していないことはご存知でしょうか。メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟は総選挙で大きく得票を減らし、まず自由民主党(FDP)、緑の党との連立交渉に入りましたが11月に決裂しました。

そして、総選挙後には連立を否定していた社会民主党との連立交渉に入りました。1月には社会民主党の党大会で連立が可決され、正式な交渉に入り2月7日には連立の合意に至りました。今後は、社会民主党の党員投票が2月20日から3月2日の間に行われ、そこで可決されれば正式に連立政権が発足します。

しかし、連立政権が発足しても、新政権の政治運営は上手く行かない事が予測されています。

何故、上手く行かないかですが、総選挙で支持率を大きく低下させたキリスト教民主・社会同盟と社会民主党ですが、連立協議を行っている間に、さらに支持率を落としています。連立協議とは、選挙で公約した内容を妥協することですから、それまでの支持者が離れて行くのは当然だと言えます。

特に今回の場合、連立協議をしている両党とも大幅に支持率を落とした政党であり、ただでさえ公約に国民が魅力を感じていなかったのですから、お互いに妥協すればするほど政策の魅力は無くなっていくと言う悪循環に陥ります。そんな無理をしても連立政権を成立させざるを得ないのは、再選挙にすればさらに支持率が低下し、反EUを掲げる極右政党が政権を取る恐れがあるからです。ドイツで反EU政権が成立すれば、EUの存在そのものが危うくなりますから、ドイツだけではなくEU推進派は何とかメルケル首相に新政権を樹立させようとしているのです。

しかし、そもそも、メルケル首相が支持を失ったのは、EU=グローバリズムの推進による、貧富の格差の拡大、治安の悪化等が原因です。何とか新政権が成立しても、ドイツ国民の支持が低迷し、比較的短命な政権に終わる可能性が高そうです。今回のドイツ総選挙の結果や、選挙後の連立協議が5カ月に及ぶと言う異常な事態は、EU体制が限界に来ていることの表れなのです。

 

■ドイツ大連立政権の発足はまだ不確か2018年2月9日 [2]

ドイツで先月26日から続けられてきた与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と野党「社会民主党」(SPD)の大連立交渉は7日、合意に達した。同国で昨年9月24日の連邦議会選後、政治空白が続いたが、CDU/CSUとSPDは新政権発足に向け大きなハードルをクリアした。

もう一つ大きな山場を越えなければならない。SPDには連立交渉の合意内容(全177頁)について46万3723人の全党員にその是非を問う投票が控えているからだ。SPDによると、郵送投票は2月20日から3月2日まで実施されるから、大連立政権の正式発足は早くても3月上旬となる予定だ。

SPDは1月21日、ボンで臨時党大会を開催し、大連立発足をめぐる予備交渉の合意内容((56・28頁)について、その是非を問うた(JUSO)が、党代表642人中、賛成362人、反対279人、棄権1人で、僅差(約56・4%)で予備交渉の内容が承認された経緯がある。ちなみに、SPDが連立交渉の結果に反対した場合、①メルケル与党の少数政権、②新選挙の2つのシナリオしか残されていない。

■ドイツ、ようやく連立交渉に終わりが見えるが2018年2月8日 [3]

メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)は2018年2月7日、大連立政権継続に向けた連立協定で合意しました。報道によると、合意によりSPDは財務相と外相など重職を含む6つの閣僚ポストを確保、一方、メルケル首相のCDUは国防相など5閣僚を出し、姉妹政党のCSUからは3人が閣僚ポストを確保した模様です。今回の連立は約15人の党指導部によって閣僚ポストを巡り(暫定的に)合意されましたが、次は3月はじめにも結果が判明する予定のSPD党員投票が注目されます。

党員投票が反対多数、再選挙という最悪のシナリオが回避されても、大連立政権に気になる点も残ります。例えば、ドイツの財政規律が緩む可能性です。緊縮財政より支出を増やす傾向があるSPDが大連立政権で主導すれば、ドイツの財政政策に変化も想定されます。また、具体的な政策では、今回の交渉でも懸案となっていた労働市場と医療保険が合意されること無く、恐らく株式市場の変動を受け政治空白回避を最優先に、合意を急がせた点も気がかりです。

労働市場改革についてSPDは理由が不明確な解雇に対する保護を求めていました。また医療保険では公的と民間の不公平是正を求めていました。しかし今回の合意では労働、医療共に努力目標的な表現にとどまっています。今回の交渉でも主張の違いを埋め切れていないようで、大連立成立後も不安の火種を抱える可能性が考えられます。

■強国ドイツが一気に転落することになるかもしれない、ある投票の行方2018年2月9日 [4]

それにしても、いろいろな意味であれほど絶好調に見えていたドイツが、政権樹立にこれほど手間取り、窮地に陥るなどという図を、選挙前は誰が想像したことだろう。

華やかな外見とは裏腹に、ドイツの内部には多くの矛盾がくすぶっていることが、突然、皆の目に見え始めたのは、ある意味、興味深かった。経常収支で世界一のプラスを捻出し、プライマリーバランスも毎年黒字なのに、ドイツ国内では貧富の格差が深刻な問題となっている。メルケル首相の断行した難民の無制限の受け入れでは、治安が悪化し、国民の不満や不安が増大していた。また、エネルギー政策はタガが外れ、電気代の高騰が止まらない。環境大国を自負していたのに、CO2は減らず、環境省がついに10月、京都議定書の目標を達成できないことを発表した。

メルケル氏には、4党連立の構想が壊れたあと、SPDと連立するか、過半数割れの政権を立てるか、再選挙かという3つの選択肢が残された。過半数割れの政権はあり得なかった。しかし、再選挙をすれば、CDUはさらに支持率を落とす可能性が大で、残るはSPDとの大連立しかなかった。9月に戦後最低の得票率を記録したシュルツ氏も、やはり再選挙が怖かった。結局、1月26日、CDU、CSU、SPDは正式な連立交渉に入ったが、この3党をまとめていたのは、再選挙の恐怖でしかなかった。

さて、今回、成立した連立協定で、一番得をしたのは誰か?協定の内容は、限りなくSPD寄りのものだ。そのうえ、驚くべきことにSPDは、労働・社会相、外務相、財務相、家庭相、法務相、環境相の6つの大臣職を手にした。労働・社会相は、年金や福祉を扱うので一番大きな予算を握っている。また、外務相、財務相はことのほか重要。これを大成功と言わずして、何と呼ぼう?

しかし、なぜSPDがここまで優遇されるかというと、理由がある。実はSPDは、この大連立を本当に結んで良いものかどうかの決定を、これから全党員に諮らなければならないからだ。だからこそ、メルケル首相はなりふり構わずSPDに歩み寄り、極上のポストも与え、SPD党員が「イエス」票を入れてくれるよう努力している。彼女の目標は、もはや政治ではなく、おそらく権力維持しかないのではないか。

■ドイツ連立政権樹立へ前進も楽観視できず2018年2月11日 [5]

メルケル首相率いる CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟、第1党)とSPD(社会民主党、第2党)が連立協定で合意した。今後CDU・CSU幹部(90人程)の合意、SPD党員(約46万4,000人)採決で可決となれば、連立政権樹立となる。状況は確かに前進したものの、

①SPD党員採決の不透明感

連立協議入り可否を問う1月の採決は地域代表者による投票で僅差での可決(362vs279)となった。今回実施される採決は約46万人の全党員を対象に実施される。下図の通り、SPDの支持率は2/1時点で18%に低下しており、可決には不透明感が残る。

②連立政権樹立後の政争可能性から、政治面ではユーロ高は見込みづらい。

支持率低迷の背景にはSPDがCDU・CSUに迎合しているとの見方があり、連立政権樹立後、SPDが党利を優先し、政権内の調和がとれず、政策実施の遅延リスクがある

以上、SPDの党員投票採決に不透明感があり、可決したとしても連立政権樹立内の政争リスクが燻ることが想定され、政治面からはユーロ高には繋がらないだろう。

■ドイツ政局大混乱!メルケル「大連立政権」は発足前から詰んでいる…?2018年2月16日 [6]

世論調査に特化したInsa社が、2月9日から12日までに集計したアンケートによれば、CDU/CSUの支持率は、9月の総選挙の際の最低の記録をさらに下回り、現在、たったの29.5%。SPD(社民党)にいたっては16.5%にまで下降し、15%の大台に乗ったAfD(ドイツのための選択肢)とほぼ同列に並んだ。

幾つかのメディアがその有様を「implosion」と書いていた。爆発(explosion)ではなく、真空の(中身がない)ため、勝手に凹んで原形をとどめくなってしまったという意味だ。もし、再選挙になったとしたら、今、進んでいる「大連立」はもう過半数に満たないので機能しない。ドイツの政治は、なんとも収拾のつかない状況になったものである。

ティロ・ザラツィン(73歳)はSPDの元政治家であり、ドイツ連邦銀行の元理事で、簡潔で素晴らしい文章を書く作家でもある。その彼が2月12日にこう書いている。「メルケルとシュルツは時代から滑り落ち、その結果は次のような形で現れる。つまり、CDUとSPDが連立で統治をするあいだの1年、1年が、ドイツの未来にとっては抵当で、交渉能力の損失となる。だから一人のSPD党員として、私は来週、大連立に反対の一票を投じることになるだろう」

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