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MMT(現代貨幣理論)って正しいの? ~2.通貨発行権を持つ国は財政破綻しない?~

少し間が空きましたが、MMT(現代貨幣理論)について。
前回の記事では、日本の借金は1200兆円にも上ることを扱いました。

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国の借金とは、国債(地方債含む)のことで、国債の発行主体は政府(国家)です。
一方、日本の中央銀行である日銀が発行する紙幣は、この政府の国債を担保にして発行されています。このまま国の借金が増え続けば、いずれ財政破綻する可能性がある、というのが(これまでの)経済界の一般的な見解です。
MMTでは、この見解・通説が覆されます。日本におけるMMTの第一人者である中野剛志氏の言葉を以下に引用します。
誤解を恐れずに、MMTを最も手短に説明するとこうなります。日英米のように自国通貨を発行できる政府(中央政府+中央銀行)の自国通貨建ての国債はデフォルトしないので、変動相場制のもとでは、政府はいくらでも好きなだけ財政支出をすることができる。財源の心配をする必要はない、と。
ダイヤモンドオンライン [2]

日本を例にとると、政府-日本銀行-民間銀行の関係は、以下の図版のようになっています。政府が国債を発行し、民間銀行などの金融機関が国債を引受け、日銀がそれを買取る。一方で紙幣発行機関である日銀は紙幣を発行し、国債とは逆の動きでお金が動きます。
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政府と日銀の関係 [4] より
政府が国債をどんどん発行すれば、最終的な国債の引受先となる日銀では、国債が蓄積され資産が上昇していくことになります。2021年7月のバランスシートを見ると、日銀が保有する国債は534兆円にもなっていて、日本国債の市場規模(時価総額約1000兆円)の半分以上を占めています。ここ10数年の日銀の資産推移を見ても、上昇を辿る一方です。

 

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国債・日本株ETF・J-REITの日銀の保有残高はこちらです。【2021年7月31日現在】
国債:534兆円
日本株ETF:36兆円
J-REIT:6,571億円
国債・日本株・J-REITの市場規模(時価総額)はこちらです。【2021年7月31日現在】
国債:約1,000兆円
日本株:約724兆円
J-REIT:約17兆円
とうとう国債は50%以上を日銀が保有するところまで来てしましました。
ファイナンシャルスター [6] より

[7]

ファイナンシャルスター [8] より
MMTの主張である「自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行になることはない」とは、ここまで膨らんだ国の借金と日銀の関係性を見れば、少なくとも(国家の財政破綻論は数十年前からあったので)十分傍証にはなっていると言えます。
しかし、デフォルトしないというメカニズムとして正しいのかどうかは疑問が残ります
ここで少し古い資料に着目してみます。2002年に格付会社からの質疑に対し、財務省は「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」と公式に回答しています。
1.貴社による日本国債の格付けについては、当方としては日本経済の強固なファンダメンタルズを考えると既に低過ぎ、更なる格下げは根拠を欠くと考えている。貴社の格付け判定は、従来より定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。
 従って、以下の諸点に関し、貴社の考え方を具体的・定量的に明らかにされたい。
(1) 日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。
(2) 格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを
考慮し、総合的に判断されるべきである。
 例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。
 ・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国
 ・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている
 ・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高
【外国格付け会社宛意見書への回答に対する5月22日付再質問書(大要)について(Moody’s宛、Fitch宛)(2002年5月23日)】 [9]
ここで着目したいのが、(2)の回答で記載されている、『日本は世界最大の貯蓄超過国であり、その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている』という部分です。これは国債の保有者や取引が日本国内を中心になっていることが、デフォルトしない根拠になっているということです。実際、国債保有者の内訳を見てみましょう。

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「国債等の保有者内訳」
(2021年第2四半期の資金循環 2021年9月17日日本銀行調査統計局 より)
2021年6月時点では、海外の保有者構成比は、13.22%となっています。2004年あたりは4%台だったことから、徐々にではありますが、海外保有者の構成比が上昇していることになります。
先の日銀の国債保有率が市況の50%以上あり、かつ他の保有者も概ね国内で留まる(国内金融機関に保持されている状況が持続する)のなら、自国通貨建ての国債は破綻しない、と言えるでしょう。
(次回へ続く)
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