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FRBの利上げの目的~インフレ抑制は二義的か?

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米国FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、収束の目途が立たない米国内のインフレ状況に対し、2022年8月26日に米国で開催された経済シンポジウムでの講演で、「景気を犠牲にしてもインフレ退治をやり抜く」という趣旨の発言を行った。
その結果、ドル高に拍車がかかり、日本でも9月7日の東京外国為替市場で1ドル144円台(1998年以来の円安水準)に突入している。
このFRBの金利政策により、米国内のインフレは解消されるのだろうか。そもそも本当にインフレ抑制が最大の目的なのだろうか。

現代の先進国では、インフレは自然発生的に生じるより、金融政策によってもたらされることが支配的である。その仕組みを大まかに整理してみる。
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米国FRBは2008年のリーマンショック以降、低金利政策に軸足を置き、2015年に量的緩和を終了したが、2019年ごろからの対中国経済戦略、コロナ禍による景気低迷を踏まえ再び低金利政策をとっていたが、2022年の急激なインフレ発生により、利上げによるインフレ抑制に転じている。
しかし、このインフレはコロナ禍による世界的な供給力低下と米国内の産業基盤の衰退に追うところが大きい。利上げを行っても不足する供給力は回復しないため、インフレ抑制の大きな効果は期待しにくい。(おそらくFRBも重々承知)

では、今春からの度重なる利上げ政策の最大目的は何なのか?

現在は冒頭にも挙げたように、米国債の金利上昇により、ドル高(≒米国への資本流入)が強まっている。
米国は世界最大の経常赤字国かつ対外純債務国であるが、その状態が常態化かつ許容されたのは、基軸通貨国であったからである。
米国が関係しない第三国同士の国際的な取引にもドルが用いられるため、国際貿易を円滑に推進するためには、ドルを国外供給することが大きな役割であり、輸入超過を許容されていた。

しかし、昨今では世界の状況は大きく変わってきている。
とりわけ、ロシア・ウクライナ問題でロシアへの経済制裁を発動後、各国が潜在的に抱いていた脱・ドル支配が顕在化し、ドル離れとBRICS諸国を中心とする新しい経済圏確立の動きが加速した。
この流れに歯止めをかけるために“強いドル”を維持することが、利上げの最大の目的ではないだろうか。(国内のインフレ抑制は二義的)

ただし、利上げによりドル収束が一時的に強まったとしても、ドルを介在させなくとも国際経済を機能させる実現態が生まれてきており、ドルが基軸通貨としての力を取り戻す可能性は極めて低い。
ドル衰退の現実を直視すれば、目先の米ドル(米国債)ではなく、新しい通貨体制の構築に投資することが、これからの世界経済にとって必要であることは明らかである。

日本はこれからどうするのか。
各国と同様にインフレ抑制、円安に歯止めをかけるために金利を上げる(特に米国との金利差縮減)のか。
国民生活の安定は必要だが、G7との協調にとどまらず、新しい国際経済圏を構築するにはどうするかという視点が不可欠になってくる。

by小石丸

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