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建築資材はなぜ高騰した?理由と今後の予測

2021年に始まったウッドショックに続き、2022年にはウクライナ情勢も加わったことから、建築費資材の高騰が収まる状況にない。この高騰状況はいつまで続くのか。長期的な建築費と短期的な建築費の推移を知るため、建築工事費デフレーターの動きを示す。

※建築工事費デフレーターとは、建築費の値動きを指数化したもの

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■建築費高騰の要因分析

建築費は2021年以降も総じて上昇。特に木造住宅の値上がり状況が非木造(鉄骨造等)住宅よりも大きいのが特徴。

高騰の主要員は6つ

①従来から続く慢性的な職人不足②新型コロナウイルスによるウッドショック③新型コロナウイルスによる給湯器等の不足④ガソリン代や電気料金の高騰⑤低金利政策による「悪い円安」の継続⑥ウクライナ情勢を起因とするロシアへの経済制裁

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1.従来から続く慢性的な職人不足

「資材」に限定せず「建築費」という観点で言うと、ここ数年に始まったものではなく、既に10年近く上がり続けている。建築費が上がり続けている理由は、職人等の慢性的な人材不足も実は大きな原因。職人の高齢化により退職する人が増え、若い人の担い手も少ないため、建築業界ではどんどん人手不足となっており、職人を奪い合うような形になると人件費が高騰することから、近年は建築費の上昇が収まらない状況。人手不足に関しては、2019年4月より入管法を改正して外国人労働者を受け入れやすくなったが、2020年に発生した新型コロナウイルスによって外国人の入国が制限されたことから出鼻をくじかれた。建築業界の人手不足に関しては何年も前から常態化していることから、簡単に改善されるものではない。たとえウクライナ情勢が短期間で収束したとしても、国内の人手不足はまだまだ続く。

2.新型コロナウイルスによるウッドショック

日本では2021年3月頃から影響が出始めている。ウッドショックは、アメリカで新型コロナによって郊外に住宅を建てて移転する人が増えたことがきっかけの一つ。アメリカの富裕層の住宅取得意欲が高まったことも原因となっている。また、同時期に中国も住宅の取得需要が増えた。アメリカと中国という2大経済大国に木材需要が一気に増えたことから、輸入木材価格が高騰する結果となってしまった。加えて新型コロナにより世界的なコンテナ不足も生じ、海上輸送運賃が上昇していることもウッドショックの一因となっている。

 

 

3.新型コロナウイルスによる給湯器等の不足

2021年の秋頃より、日本では主に給湯器を中心とした住宅設備の供給不足が生じている。給湯器が不足した理由は、新型コロナウイルスによってベトナムの工場が閉鎖されたため。ベトナムでは、日本の大手給湯器メーカーがハーネスと呼ばれる給湯器の部品を作っていましたが、ロックダウンによって生産ができなくなったことから給湯器が作れなくなった。海外の生産工場が稼働できなくなり供給不足に陥った製品は、給湯器だけでなく、トイレやシステムキッチン、ユニットバス、ドア等にも及ぶ。2021年から始まっている住宅設備の不足は、建築資材の高騰の大きな要因の一つである。

4.ガソリン代や電気料金の高騰

工事現場には資材を運搬するため、運送費が高くなれば建築費も高くなる。また、資材や設備を加工する工場では電気を利用するため、電気代が高くなれば建築費も高くなります。ガソリン代が高くなっている理由は、近年、産油国が産出を抑制していることが理由。現在、世界的に地球温暖化対策としてEV車(電気自動車)の普及が推進されており、EV車が普及すればガソリンが不要となるから、産油国がガソリン価格の値崩れを警戒して供給量を減らし始めている。

電気代も、地球温暖化が要因となって高騰。現在の日本は多くの原発が停止していることから、以前よりも火力発電の比重が高まっている状況。火力発電を行うには、燃料となる石炭や石油、液化天然ガス(LNG)が必要となり、これらの燃料の多くは輸入に頼らざるを得ない。石炭や石油、液化天然ガスのうち、最もCO2の発生量が少ないのは液化天然ガス。CO2の削減目標は世界各国に課せられており、各国が近年液化天然ガスを多く利用するようになった。

中でも中国の液化天然ガスの需要は高まっており、昨今の液化天然ガスの価格高騰の原因となっている。また、地球温暖化によって天候不順になると、自然エネルギーに頼っていた国も火力発電に切り替えざるを得なくなる。2021年は、風力発電に頼っていたスペインがラニーニャ現象によって風力が弱まったことにより、風力発電の発電量が減った。欧州各国でも液化天然ガスの需要が増えたため、液化天然ガスの価格は昨年より高騰している。現在の日本は火力発電の依存度が大きく、CO2の削減を抑えるために液化天然ガスを使わざるを得ないことから、電気代が上がっている。

5.低金利政策による「悪い円安」の継続

ここ1~2年の円安の原因は、日本の低金利政策。現在、世界の主要国は物価上昇を抑えるために、中央銀行が金利を上げている状況。米国は早くから金利を上げる方向に切り替えており、日米の金利差は広がりつつある。日本の金利が低く、アメリカの金利が高くなると、円よりもドルで運用した方が有利になる。そのため、円を売ってドルと買う動きになることから、円の価値が安くなり、円安となる。円安は輸出には有利に働くが、輸入には不利に働く。2022年に入って以降、円安が進んでいることから、建築資材も高騰している。

6.ウクライナ情勢を起因とするロシアへの経済制裁

ウクライナ情勢を起因とするロシアへの経済制裁も、建築資材高騰の要因。日本は資源の少ない国であるため、資源小国が資源大国に経済制裁をすれば資源小国が疲弊していくことは自明の理。世界各国がロシア以外の国から資源を輸入すれば、必然的に世界の資源価格は高騰していく。日本は高騰した価格で資源を買わざるを得ないため、全体的に輸入価格が高騰している。

 

■今後の予想

建築資材の要因は、人材不足やウッドショック、新型コロナウイルスによる工場閉鎖、地球温暖化、円安、ウクライナ情勢等の様々な要因が絡んでいる。世界的な要因が複合的に左右しているため、いつまで続くのかは断言できない。

ただし、日本が現在行っている低金利政策を転換し、利上げに踏み切れば、とりあえず円安は解消されていくと見込まれる。円安が解消されれば、輸入に有利に働くため、建築資材が安くなる見込みが高いかもしれない。

政策金利が上がれば、住宅ローンの金利も上がり、住宅需要も減退していき、円高となり、住宅需要も冷え込めば、建築資材も相対的に下がっていく可能性は強い。よって、総裁任期が終了する2023年度以降に潮目が変わることは予想される。

ただし、金利が上がったとしても、建築業界の人手不足の解消には繋がらない。根本的な原因は未解決のままであるため、建築費の高騰がまだまだ続く可能性がある。

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