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シリーズ「活力再生需要を事業化する」8〜社会的企業を支える「アショカ財団」〜

シリーズで発信している「活力再生事業を事業化する」
これまでは、
シリーズ「活力再生需要を事業化する」1〜活力源は、脱集団の『みんな期待』に応えること〜 [1]
シリーズ「活力再生需要を事業化する」2〜ワクワク活力再生!〜 [2]
シリーズ「活力再生需要を事業化する」3 〜老人ホームと保育園が同居する施設『江東園』〜 [3]
シリーズ「活力再生需要を事業化する」4〜企業活力再生コンサル〜 [4]
シリーズ「活力再生需要を事業化する」5 〜企業活力再生需要の核心は「次代を読む」〜 [5]
シリーズ「活力再生需要を事業化する」6 〜金融、ITビジネスはもはや古い?!新しいビジネス“社会的企業”〜 [6]
シリーズ「活力再生需要を事業化する」7〜社会起業家の歴史・各国の状況 [7]

とお送りしてきました。
シリーズ前半では、生産という部分を除外して国家の支援にもたれかかり、消費するだけとなってしまっている福祉や環境といった分野に対して、もう一度「生産」と「消費」を結びつけ再統合する中で活力再生をしている事例を紹介してきました。
後半は既存の枠組み・集団縄張意識から脱却して、社会にある潜在的な期待を発掘しながらそれに応えることで社会的評価を獲得し、活力再生需要を事業化している「社会起業家」の登場を紹介しました。
今回は、その社会企業家を経済的に支援している「アショカ財団」「グラミン銀行」を紹介したいと思います。
それでは、まずは「アショカ財団」からみていきましょう!
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[8]
                                          アショカ財団の今年の”門下生”
社会的企業を支える「アショカ財団」〜よりリンク [9]

>1980年にウィリアム・ドレイトン氏によってアメリカ・ワシントンDCで設立されたアショカ財団は、「世界で最も緊急に解決しなければならない問題」を解決するための社会変革を目指し、実行する男女を支援する活動を、27年間にわたり行ってきた。その数、世界60か国で1800人以上。“貧者のための金融機関”であるグラミン銀行を創設し、貧困問題解決に大きく貢献したとし2006年にノーベル平和賞を受賞したモハマド・ユヌス氏も、同財団と深く連携し、社会起業家を支援する活動を展開している。
>同財団から支援を受ける社会起業家は「アショカフェロー(以下、フェロー)」と呼ばれ、金銭的支援のみならず、世界中のフェローのネットワークを活用することができる。先輩フェローはあらゆるノウハウを共有できるよう支援し、新米フェローのこぢんまりとした活動を、一気にグローバルな巨大ムーブメントに成長させるのだ。結果、50%のフェローが、支援開始から5年以内に国の政策を変えることに成功している。

「アショカ財団」は社会的企業に対し、通常の銀行のようにただ資金を提供するだけでなく、ネットワークを通じて様々なノウハウを提供しているようです。
ではアショカ財団の目指す世界像とはいったいどういうものなのでしょうか?
もう少し詳しく見てみましょう。
◇実業と社会福祉をリミックスさせた社会企業を確立 
ビル・ドレイトン氏は大学の頃から、政府による社会福祉の限界を予感し、実業と社会福祉をリミックスした活動を唱えている。彼の活動により「社会企業家(ソーシャルアントレプレナー)」という言葉が生まれた。
◇社会企業家や社会事業向けの投資という考え
 彼が1982年に立ち上げたアショカ財団は、マッカーサー財団ロックフェラー財団からの資金援助を基に、世界各地で起きている、貧困、差別など社会的な問題を解決することを活動目的とし、、電気もない生活を強いられている世界人口の1/3にあた約20億人の生活向上を目指している。
◇持続可能な社会の実現に向けて
 彼の言う持続可能な社会とは、行政に依存せず、消費セクターと社会セクターを結びつけ、自立した社会を指している。企業による労働機会の創出や、安価な商品購入機会の創出による生活環境の向上、マイクロ・クレジット(小額信用貸付)の実施による貧困の解決など、ビジネスを通じてこれら環境改善を行なおうとしている。
◇ウィリアム・ドレイトン氏について
ドレイトンは、ハーバード大学卒業後に「マッキンゼー」に就職。現在でもマッキンゼーとはパートナーシップを結んで社会起業家支援を行なっています。(マッキンゼーとは→リンク [10]
 また、ドレイトン氏は33歳という異例の若さで、カーター元大統領の下でアメリカ環境庁長官補佐官に抜擢され、そこで環境問題に市場メカニズムを利用した「排出権取引」を考案した人物としても知られている。この「排出権取引」は、京都議定書締結後のcop3で議論され、現在、世界各地で導入されている。
[11]
このことから推測するに、ドレイトン氏は、社会的な問題を解決できるような高い人材を発掘しながら、その人材に対して投資を行い経済的な支援のもとで、市場原理の社会でも社会的な問題(貧困の克服、生活環境の向上)は解決できるのではないか?と考えているようです。
社会の役に立ちたいと思う「社会起業家」達を経済的に支援し事業として成り立たせる試みは、一定評価される部分も多くあるでしょう。
しかし、「市場」が社会を統合する機能を持たない以上、「市場」を前提とした取り組みに留まる限り、社会問題を根本的に解決し、社会を統合することは不可能です。
例えばドレイトン氏が考案した市場のメカニズムを利用し世界を巻き込んだ「排出権取引」が現在どのような状況になっているのか見ていけば、それが環境問題を根本的に解決する方法ではなかったことはあきらかです。現在の市場のメカニズムや金融経済のシステムが、社会的な問題を引き起こしている原因でもあるからです。
また行政に依存していない資金源を持っているとはいえ、ロックフェラー財団等の資金援助をうけている点などを見ても、社会起業家達が後進国における新たな市場拡大の可能性として金貸し達から目をつけられているのではないかという懸念もあります。
<参考投稿>
超国家・超市場論11 市場は社会を統合する機能を持たない [12]
地球温暖化問題と、その対策への違和感から [13]
“排出権”って戦争に代わって金貸しが儲かる新たな仕組み? [14]
CO2の削減をクレジットにして儲ける仕組み [15]
さて続いて、社会企業家であり「アショカ財団」とも連携のあるムハマド・ユヌス氏が創設した「グラミン銀行」を見ていきたいと思います。(ユヌス氏は、2006年にノーベル平和賞を受賞)
[16]
◇ユヌス氏の創設したグラミン銀行
グラミン銀行は、ユヌス氏が編み出したマイクロクレジット(少額無担保融資)と呼ばれる事業を展開している。工芸や畜産、農産物の加工、小売業などの小さな事業を興すために必要な数ドル、数十ドルという少額の資金を、資産や土地などの担保を持たない人に貸し付ける事業である。
担保がない貧困層でも、借り手は同性が5人一組となってグループを編成し、連帯責任を負うことを条件にお金を借り、それを元に自立を目指すシステムを生み出しているとされる。グラミン銀行がお金を貸すのは、土地を全く持っていないか、0.5エーカー(約二反:600坪)未満の耕作地しか持っていないことが条件とされています。
つまり、お金を貸してくれるのは貧しい人だけ。資産を持っている人にしかお金を貸さない既存の銀行と全く逆の発想です。
◇ムハマド・ユヌスとはどのような人物?

>ムハマド・ユヌス氏は、バングラデシュで生まれ、アメリカで経済学の博士号を取得した経済学者です。マイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象とした事業を考え出し、グラミン銀行を創設し、現在も総裁を務めています。
[17]
>ユヌス氏が目指すのは貧困の撲滅です。「世界の貧困人口を2015年までに半減させる」ことを掲げ、新しい発想で貧しい人たちに融資をし、一方的な援助ではなく、自立を促す事業を展開していることから「貧困なき世界を目指す銀行家」と呼ばれています。
(以上All Aboutより:リンク [18]

では「グラミン銀行」が目指す世界像とはいったいどういうものなのでしょうか?
もう少し詳しく見てみましょう。(ユヌス氏の話より引用です。リンク [19]
◇腐敗した政治にできないことを市場概念がする

貧困というのは、経済的制約のために、自分の潜在能力を引き出すチャンスならびに自由がない状態を指す。まるで盆栽の松のように、本当は大木になれる木でも小さな器に入れられ、その能力を開花させることができないで終わってしまう。 この状態から貧困者を抜け出させることができるのは、経済の力である。 経済力があってこそ人々は、自らを生かすチャンスを得ることができ、自由でいられ、もともとの能力を発揮して行動することができる。
現在のバングラデシュの政治は腐敗しきっており、村を支配している地主なども自分の利益を考えるだけである。これらの古い官僚機構は、革新的にはなり得ない。
これと対照的に、市場原理は、腐敗した政府や地主などに比べはるかに合理的で、民主主義を社会に導入することができる。政治過程で自分の支持する候補者に主権者が投票するのと同じように、経済過程では、自分の好きな財にドル紙幣を投票することによって、その財を選好するという主体的意思をアピールできる。これが、経済主権者の民主主義だ。マイクロクレジット活動は、人々にお金を与えることによって、貧しい人々を、「投票権」を持った主権者にする、という意味付けがあるのである。能力ある貧困な人々に経済的なチャンスを与えることができない社会や制度を市場原理によって撲滅しようとしているのである。

◇市場も万能ではない

市場機構は、我々自身がうまく使おうという主体的な意思をもてばよく機能する。それぞれが自分の利益を求めるのではなく、みんなが環境や人権を考えるようになると、市場機構を用いて社会をこうした方向に変えていけるのである。
もちろん、市場原理・今のグラミン銀行の現状はBESTではない。 しかし、それにとって代わるalternativがないので、仕方ないのだ 、とユヌス教授は言った。 [20]

ネット検索してみれば分かるのですが、多くのメディアがこのグラミン銀行が行っているマイクロクレジットを貧困を克服する相互扶助優れた融資方法だと評価しています。
しかし、通常の銀行よりも高い金利が設定されていることや、NGOが組み込まれることによって、『援助』という聞こえのいい名の下に多国籍企業と提携し市場化へ、そして市場の奴隷から抜け出せない=国際金融資本家という“金貸し”たちに吸い上げられる橋渡しになっている可能性も懸念されているのです。
<以下懸念されている内容>
山形浩生の『ケイザイ2.0』  第21回 マイクロファイナンスと、高利貸しのポジティブな役割より リンク [21]

◇グラミン銀行だって慈善でやってるわけじゃない
 さて、マイクロファイナンスというと、必ずこのユヌスの話が出てきて、ほらごらん、貧乏人こそは正直で、お金をきちんと返すのです、従来の銀行や経済学の、ハイリスクハイリターン(というのは、リスクの高い投資や融資は、高い見返り、つまりは金利をとらなきゃやってられないよ)という常識がいかにまちがっているかがよくわかりますね、なんて言う人がいる。そして貧乏人に積極的にお金を貸すなんてすばらしい博愛精神、なんてことを言う人もたまにいる。
 でもこの話をきいて感動している多くの人が誤解していることがある。それは、別にグラミン銀行だって慈善でやってるわけじゃない、ということだ。いやいや、かれらだって基本は営利企業。しかも、かなり儲かっている営利企業だ。
〜中略〜
 そして、お金を借りている貧乏な人たちは、別にだまっててもホイホイとお金を返してくれているわけじゃない。また、グラミン銀行も、そんなに甘いところじゃない。かれらはかれらなりに、ちゃんとお金が戻ってくるような手だてを講じている。
 それは相互監視システムだ。
 いまのグラミン銀行は、一人で「金貸して」と言ってもお金を貸してくれない。必ず五人組みたいなグループを組織させる。そいつらにそれぞれ一定額の預金をさせることもある。そして、その5人の中のたとえば2人とかにまずお金を貸して、でも返済はその5人の連帯責任。返済は、毎週取り立て人がやってきて、その5人を集めて連帯で返済させるのだ。借りてる人が返せないと、残りの人たちが血相変えて、おまえの努力が足りない、商売をああやってみろ、こうやれ、と相互に指導をしあったり、営業をだれかが引き受けたりとやって、とにかくそいつが返せるようにもっていく。さもないと最終的には自分たちがツケを払わされる。
 確かにこのシステムはすごい。バングラデシュでは一般の銀行の融資の数割がこげついて不良債権化していると言われるけれど、グラミン銀行の利用者は、期日通りの返済が九割を超えている。でも、それは貧乏人が正直だから、かどうかはよくわからないし、グラミンもそんなのをあてにはしていない。
 これが成立するのは、グラミンがさっきも言ったように、もっぱら農村部の女性をねらっているからだ。コミュニティがあるため、相互監視がよく効く。さらに、家庭があるので女性は逃げられない。だから村八分にならないためには必死で働くしかない。それと、みんなのローンみたいな消費用の融資じゃなくて、商売用の融資が基本だからこうなります。でも、人によってはとてもきつい立場に追い込まれることはある。これまでは借金取りにいじめられたら、みんなが同情してくれただろうけれど、こんどはそのみんなが借金取りになってるんだから。「グラミンなんか使わない、あんなところで借りたらおしまいだ」というような声も一部にはあるそうだ。

マイクロクレジット〜グラミン銀行〜その三〜より→リンク [22]

  ヒラリー・クリントンは80年代、夫がアーカンソー州知事だった頃から、グラミン銀行のムハマド・ユヌス総裁と親交を持っていた。
〜中略〜
「貧困撲滅のためにマイクロクレジットを最大限生かすべき」と主張し、このことを各国の政策決定者に訴えているのが、米国NGOの「リザルツ」だ。ロビー活動を専門とするNGOで、日本、カナダ、英国、オーストラリアなどに支部がある。マイクロクレジットに対する理解を深めるため、代表のサム・デイリー・ハリス氏は自ら講演旅行をしたり、グラミン銀行とメディアの橋渡しを手がけている。

ユヌス氏の「能力ある貧困な人々に経済的なチャンスを与えることができない社会や制度を市場原理によって撲滅しようとしているのである。」という言葉は一見聞こえはよいものですが、結局、連帯責任をとらせたかたちの高利貸しの消費者金融とどこが違うのでしょうか?
捉え方によっては負債を女性に押しつける害の多い開発援助の最新形態とも見ることもできます。
金を借りて金利を取られる側は、借りた金以上の金を稼ぐ必要にせまられるため市場拡大を必然的に目指し続けなければなりません。序列支配からの脱却ができたとしても今度は市場の奴隷になり続けることになります。
[23]
さてここまで社会的企業を支える「アショカ財団」「グラミン銀行」を見てきましたが、社会問題を解決し社会期待に応えていこうとする理念とは裏腹に「市場」を前提とした取り組みに留まってしまうが故に、旧い私権社会にからめとられ、市場拡大を目論む金貸しや特権階級に目をつけられ利用され始めているように感じます。
市場を前提とした私権追求のフレームに留まる限り、社会事業に対していくら経済的な支援を行ったとしてもこのシリーズで追求している活力再生需要を事業化への答えにならないということではないでしょうか?
ではもともとの出発点に立ち戻り、活力再生需要を事業化する可能性はいったいどこにあるのでしょうか?
次回からいよいよその本質にせまっていきます。
いよいよクライマックスです。次回をこうご期待!
(活力再生需要を事業化する可能性は、案外身近なところにあるようです。)

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