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『ユーロ発国家財政危機の行方』 5.世界バブル崩壊が資本主義の総本山、欧州を襲う

ユーロ発危機の行方第5回目です。今日は中間まとめとして、欧州を襲っているのはギリシャ危機やPIIGS問題だけでなく、世界バブル崩壊による深い痛手を負っていること、そして約800年続いた西欧による市場拡大の転換期にあることを検証したいと思います。
これまでの『ユーロ発国家財政危機の行方』シリーズ記事
プロローグ [1]
1.ギリシャ問題・PIIGS問題とは?
2.小国ギリシャの危機がなぜユーロ危機につながったか? [2]
3.地域共通通貨「ユーロ」の弱点構造 [3]
4.ギリシャ暴動とその他の国の状況から国家・市場の統合限界が見えてくる [4]
■ユーロ危機はギリシャやPIIGSだけではない
特に危ないのがベネルクス・英・スイス等の金融立国といわれる国々だ。軒並み対外債務を急増させています。
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     ベネルクス三国+スイスの債務状況 (2008年データ) リンク [5]よりお借りしました
これらの国々と同様の危機にあるのが英国です。英国の対外債務残高は、対GDP比で400%に達しており、純債務国に転落しています。 参照:リンク [6]
さらに下のグラフを見ると、欧米には英国やベネルクス三国にまけず劣らずの国が多いことが分かります。かつ特徴的なのは、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカなどの欧米諸国は資産も負債も山ほど抱えているということです。逆にアジア諸国は額自体がすくない。欧米諸国が他国との金融のやり取りをどれだけ活発にしているかがよく分かります。
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   グラフはリンク [7]よりお借りしました。
現在、上記の資産構成はどうなっているのだろうか?上記の図は2008年末のものです。
恐らくこの資産の側には、サブプライムローンやバブル崩壊前の南欧国債やドバイへの融資などが含まれている。その額は世界バブルの崩壊に伴って今も大きく減り続けているはずです。
その「評価損」をオープンにすれば、恐らく相当資産が劣化していることは容易に想像がつきます。


●欧州を襲うバブルの波状崩壊、累積債務は一体どれだけあるのか?
累積債務を占うデータとして以下のデータがあります。これは最近の7つのバブルの推定累計値です。 リンク [8] より引用

デイビッド・シュリックの7つのバブルを再掲、
http://www.mi2g.com/cgi/mi2g/press/081108.php
1.サブプライム関連バブル   (1.5兆ドル 150兆円)
2.新興国市場のバブル       (5兆ドル 500兆円)
3.クレジットカードバブル     (2.5兆ドル 250兆円)
4.商品先物バブル          (9兆ドル 900兆円)
5.商業不動産バブル       (25兆ドル 2500兆円)
6.外国為替デリバティブバブル (56兆ドル 5600兆円)
7.CDSバブル           (58兆ドル 5800兆円)

 
これらを合計すると1京5700兆円のバブル総額となる。
※現状の世界のGDPの合計が約6500兆円 リンク [9]だから、GDPに対して約2.4倍の規模。
このバブルのうち少なめに見て半分が焦げ付いたとして約8000兆円が不良債権化することになる。そのうち欧州の不良債権・負債額はどの程度になるのか?このバブルの過半を北米と欧州で受け持っていると考えられ、仮に欧州分が約40%(サブプライム破綻時の欧州分を準用)としても3200兆円の損失となる。
以下のようなデータもあります。2009年2月の記事 リンク [10] より

去る10日に開催されたEU各国の財務大臣たちによる会合の場で議論された極秘ペーパーがリークされ、大変な波紋を呼んでいる。それによれば、リスク資産に基づく損失額は欧州の金融機関だけで16.3兆ポンド、すなわち邦貨換算すると2120兆円ほどにまで及んでいるというのである。

   
しかも、この数字はユーロ危機の前であり、その後も損失が拡大しているのは間違いがなく、上記の大雑把な推計からしても欧州は3000兆円程度以上の損失を抱えているのは間違いないだろう。そして今後さらに評価損が積み重なっていく。
※EUのGDPの規模が約1000兆円なので約3倍の損失を抱えていることになる。リンク [9] 
●金融資本主義・マネー経済の破綻、そして国家への転嫁
これほどの損失を金融機関は返せるのだろうか?返せるはずがない。それで民間の危機が政府に移しかえられて、ソブリンリスク(国家破綻危機)に転嫁されたのが危機の本質ではないか?
国家は中央銀行が紙幣を増刷してつぎこむしかない。するとまたバブルの温床を形成して不安定さがまして行き、いつかは臨界点を迎えて崩壊する。(恐らく基軸通貨ドルの暴落時に最終局面を迎える。)
●資本主義の総本山:欧州が崩れた
以上から見えるのは、サブプライムでアメリカが崩れ、そこに投資していた欧州勢(特にイギリスやスイス・ベネルクス)が崩れ、スペイン・ポルトガルという南欧勢が崩れていく。その一方で、比較的金融化の波に乗り遅れモノづくりや農業に強いドイツやフランスがなんとかEUの中核として残っている状況。
これら崩壊しつつある国々は、殆どが大航海時代の主役であり、世界中に植民地を持ち、資本主義を先導してきた列強諸国でもある。
これは、大航海以来(若しくは十字軍以来)、諸外国を略奪する会社群(ex東インド会社や現代のファンド)に投資してきた欧州の資本家=資本主義の中核部が崩れ始めていることを示す。大航海時代以来の資本主義がついに終焉を迎えた(投資しても利益が増えずに損失ばかりが膨らんでいく状況)といえるのではないだろうか?
植民地時代は、金貸しの出資→武力によって各国を略奪。次いで19世紀以降は産業資本が進出し、価格格差を用いて原材料や労働力を収奪。20世紀後半になると、出資先のアメリカを用いてグローバリズムとマネー経済化を推し進めた。そしてついにマネー経済が崩壊した。
これは彼ら(欧州の支配層)の持つ極めて強い投機性の強さが裏目に出たともいえる。彼らは実体経済が飽和を迎えても、利益を得ようとした。その圧力もあって金貸し達は“騙しの”金融市場を作っていった。そしてそれがマネー経済(ネズミ講)となり、ついに崩壊の曲面を迎えた。(・・・まっ自業自得ってとこですが、ついに十字軍以来800年の西欧の時代が終焉を迎えたとも言えます。)
●資本主義は、マネー経済は何故崩れたのか?
図解にしてみました。市場が貧困⇒私権追及という拡大エネルギーを失ったにも関わらず、支配層は利益を求めて無理やり市場拡大を続けた、そのためにマネー経済・バブルが発生。必然的に崩壊する。
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■■今後の追及
今回は中間まとめですが、より詳しく見ていくためには、EU(中核は欧州貴族?)の形成過程と戦略を見ていくことが不可欠です。
特に欧州勢は破綻しつつある紙幣システムに対し金を蓄え次の金融システムを用意しているようにも見えます。彼らは併せて中国を始めとする新興国を経済成長させることで、世界経済を延命させようともしています。果たしてうまくいくのか?それとも世界の秩序崩壊へと向かうのか?
予定テーマ
・EU形成の過程:金貸しが作ったアメリカに対するEU
 (欧州内の金融派と貴族派の攻防と金の動き)
・世界を牛耳る、支配勢力・闇勢力の暗闘はどうなっているか?
・新興国の市場化を推し進めることで市場崩壊を防げるのか?
・ドル(基軸通貨体制)の行方とEU
・国家は危機を乗り越えることができるのか?
・日本への影響は?(借金800兆は大丈夫か?)

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