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シリーズ「食糧危機は来るのか?」3 〜輸出補助金というカラクリ〜

前々回のエントリー [1]で、「食糧危機問題の背後には“市場”がある」ということから、市場の問題を扱うこと無しには、食糧危機問題の本質が見えてこないことが認識されたと思います。
そして、前回のエントリー [2]では「緑の革命」の実態を押さえることで、「先進国の市場拡大」が「途上国の食糧危機を生んでいる」構造が示され、また、先進国の市場拡大の為には、貧富の格差(≒途上国の食糧危機)が必要であることもお分かりいただけたと思います。

この構造がある限り、農産物の市場化(=自由化)では、決して食糧危機の問題は解決できないことが暗に示されました。

ところが、現在も、「農産物の自由化」を推し進めるべく、TPP(環太平洋経済連携協定)の第五回交渉が行われ、「関税撤廃」を目指すことで参加国が一致している状況です。(もっとも、TPPの場合、単なる農産物の自由化だけに止まる問題ではないのですが・・・。)
ここで「農産物の自由化」を議論する上で、忘れていけないのは「輸出補助金」という仕組みです。

実はこの「輸出補助金」という仕組みもまた、「先進国の市場拡大⇒途上国の食糧危機」という構造を支えてきたのです。
一体どんな事態を引き起こしてきたというのでしょうか?
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◆経済のグローバル化と食糧危機

バイオ燃料用作物生産の爆発的な増加が大きな影響を与えている事も事実だ。日本のメディアでもこうした影響に関して相次いで報道がなされた。
しかし、いまだ声高には語られていない影響が経済のグローバル化、すなわち農産物貿易の自由化だ。
国際機関や先進国は、この20年、貿易の自由化が世界を豊かにさせるとして、経済のグローバル化を推進してきた。特にWTO(世界貿易機関)が発足してからは、世界中に自由化の嵐が吹き荒れた。その結果、途上国においては主食でさえも自由化が強いられてきた。国際貿易の理論に則れば、途上国は労働力の安さを生かして、先進国に農産物を輸出できると誰しも考えるであろう。
しかし、実際にはその真逆の現象 — 先進国から途上国への農産物の洪水のような流入が起こったのだ。
食料危機リポート②〜輸出補助金というカラクリ〜 [3]

下図はナイジェリアの米の輸出入量と、ガーナの鶏肉の輸出入量を示したグラフです。
※グラフはコチラ [4]からお借りしました。
[5]    [6]
  米の輸出入量(ナイジェリア)           鶏肉の輸出入量(ガーナ)
WTOの発足が1995年ですが、どちらの国でも、そのあたりから急激に輸入量が増えていることがわかります。このように80〜90年代前後から、途上国(特にアフリカ)では急激に農産物の輸入が増えていきました。
こうした途上国の農産物輸入激増の原因に、アメリカやEUが行ってきた「輸出補助金」政策があるのです。

◆輸出補助金という悪魔的な政策

途上国の農産物輸入激増の一つの原因となったのが、米国やEUが行っている農産物への輸出補助金政策だ。米国やEUは、途上国に貿易自由化を強いる一方、自らは膨大な輸出補助金を使って、安価な農産物を輸出している。特に米国は自国の農産物輸出振興のために綿花やコメ、小麦や大豆の輸出に補助金を行使し、国際市場にダンピング輸出を行ってきた。
その額は農産物価格の平均3割—5割に上るため、途上国は価格面で競争できず、農産物輸入が激増したのだ。農産物の急激な流入は途上国の食料生産を浸食し、小農民の生計を破壊した(※ 世界に8億いる栄養不足人口の8割は小農民だ)。貿易の自由化は農産物輸出の失敗とも重なり、実に途上国の約70%が食料の純輸出国から輸入国に転落してしまった。
 国連やNGOは途上国の食料自給率の低下を憂慮し、途上国への貿易自由化の影響に関する報告書を相次いで発表している。報告書によると、セネガルでは貿易自由化後わずか数年でEUの補助金付き鶏肉が市場を席巻し、現地の鶏肉産業の実に70%が一掃された。〜後略〜 (リンク [3]

[7]
輸出補助金の仕組みとは、先進国(アメリカやEU)の農家が、営農を再生産するために必要な目標価格(=A)を決めるのですが、国際市場で競争力を持つための市場価格(=B)は、Aより低い。そこでAとBの差額(A−B)は、全額政府が所得補填するというものです。
このダンピング輸出により、先進国(アメリカやEU)の穀物は必ず国際競争力を持つという構造なのです。

◆食料危機の遠因

こうした洪水のような食料の流入はアフリカだけでなく、アジア、中南米など世界中で起こった。繰り返し日本でも報道された、インドネシアやフィリピンのコメ不足も貿易の自由化を背景に持つ。インドネシアはコメ輸出国から世界有数のコメ輸入国に転落。フィリピンも主食のコメがアメリカから大量に流入。フィリピン産の卸の値段で輸入されたため太刀打ちできなかったということだ。コメの自給率が下がり、現在アジアで広がっているコメ不足の遠因が作られたのである。(リンク [3]

下図はインドネシアとフィリピンの米の輸出入量を示したグラフです。
※グラフはコチラ [4]からお借りしました。
[8]    [9]
  米の輸出入量(インドネシア)           米の輸出入量(フィリピン)
こちらも自由化が始まった直後から一気に輸入国の一途を辿っています。先進国の輸出ダンピングにより、自国の生産物が国際競争力を失い、輸入に頼らざるを得ない状況に陥っているのです。

◆補助金制度で誰が儲かるのか?

国際貿易の自由化が進んだ事で、農作物は人々を養う生産物から、「商品」として扱われるようになった。WFPの事務局長は、今回の食料危機を「市場に商品はあるが人々は購入できない」「飢餓の新しい顔」と表現している。
しかしその一方、着実に売り上げを伸ばしているのが、上述したアグリビジネスや中間業者だ。こうしてみると、食料危機は食料の不足が原因と言うよりも、過剰な市場主義が広がったことで、購入できない人々が増えたために生じたとも言えるのである。(リンク [3]

先ほどの「輸出補助金」の説明では、直接その農家に支払われるように感じられたかと思いますが、実はそうではありません。「輸出補助金」は、

穀物の輸出業者に対して、つまりカーギルやコナグラやADMなどの輸出業者に払われるのです。例えば米などはその典型です。アメリカ産米の国内価格は国際価格よりずっと割高です。そうすると、高いアメリカ産の米を購入して、安い値段で海外に売るわけですから、輸出業者は当然損をする。そこで、国内価格と国際価格の差額を「輸出補助金」という形で穴埋めするわけです。ですから「輸出補助金」の大半は穀物メジャーに行っている。もっと言えば海外市場を確保するために「ダンピング輸出」を政府は奨励しているわけです。これはEUも同じです。(滋賀県生活協会組合連合会HP 特集:アメリカの補助金制度 [10]より)

下記の表は2007年の4大穀物メジャーのデータですが、日本屈指の食料商社の丸紅でさえも1.4兆円、純利益は102億円(2007年度決算)ですから、いかに上記の穀物メジャーといわれる企業が儲けているかわかります。
[11]
(<食料価格高騰はなぜおこるの?>その5 穀物メジャーって?②世界の食料・食品を支配 [12]より)

◆国に借金をさせて金貸し達が儲かる仕組み

ところが、国際機関、特に世界銀行は、こうした影響を顧みずに「自由貿易の促進こそが農産物価格を下げ食料危機を解決する」と主張している。世界銀行やIMFや(国際通貨基金)などの機関では、拠出金に応じて議決権が配分されるため、先進国特にG8諸国の大きな影響下にある。つまり危機の遠因を作ってきた張本人たちが、サミットにおいてさらに傷口を悪化させようとしているとも言えるのだ。こうしてみるといずれのサミットでも食料危機を解決することなど到底不可能と言わざるを得ない。(リンク [3]

[13]
借金国家であるアメリカ政府がこれらの「輸出補助金」を出すわけですから、農産物の自由化(=市場拡大)するために、政府はFRB(中央銀行)に借金をしていると言えます。
当然FRBの元締めは金貸し達。(ついでに世界銀行の創設者であるユージン・メイアーは元FRB議長)
先ほど挙げたような、輸出補助金を受け取っているカーギルなどの穀物メジャー(カーギル、ADMはロックフェラー系、ブンゲはロスチャイルド系)も彼ら金貸し達が握っています。

増え続ける米国債 [14]

つまり、金貸し達によって、「緑の革命」や「輸出補助金」などの制度を使った市場拡大(=支配)が行われ、その結果、途上国の食糧危機が生まれ続けているということなのです。
このように、食糧危機の問題は、旱魃などの「自然現象」や人口問題などの「社会的現象」なのではなく、市場における「人工的に創られた現象」であるということにメスを入れない限り、決して解決には向かわないのです。

[15] [16] [17]