2011-02-09

シリーズ「食糧危機は来るのか?」1〜食糧危機問題の捉え方〜

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 栄養栄養不足にならない必要な一人一日当たりの栄養量は、平均的な体格や子どもや高齢者の比率などによって、国ごとに異なり、だいたい一人一日2000〜2700キロカロリーと言われている。
 何カロリー以上、以下が栄養過多、栄養不足と一律には決められないが、図に示しているように、欧米のように3400キロカロリー以上の国には食べ過ぎの人も多く、サハラ以南アフリカのように2200キロカロリー以下の国では栄養不足人口が多いことは容易に想像がつく。

(「社会実情データ図録」より)
 食糧危機問題と一口に言っても、人口増加問題、環境問題、自給率問題、先進国と途上国の問題等々、さまざまな要因が絡み合っています。
 最近では、世界金融危機を発端とした経済危機の影響から、エネルギーや食糧が高騰する問題や、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)という自由貿易協定における食糧品の扱いや、産業としての農業の扱いについての問題等、食糧を取り巻く問題は日々複雑さを増しています。
 私たちが生きていくうえで欠かすことのできない食糧。
 その危機的問題を私たちはどのように捉え、どのように対応していけばいいのか?
 今回のシリーズ「食糧危機は来るのか?」では、この複雑に絡み合った各問題を貫く根本原因を追及することで、各問題が個別に議論されることで陥った閉塞状況から抜け出し、新たな可能性を提示していきたいと思います。
 では、シリーズ第1回「食糧危機問題の捉え方」のスタートです。
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 食糧危機問題を大きな視点で見たとき、そこには2段階の位相が存在します。
それは「世界(地球上)における食糧危機問題」「日本における食糧危機問題」です。
 まずはそれぞれの位相から、具体的な事象を見ていきましょう。
●世界(地球上)における食糧危機問題

 まず、現在の約62億人から2050年には途上国を中心に約93億人(1.5倍)に増えると予測されている世界人口を養う食糧生産が可能なのかという問題。その中に、幾つか投稿もある先進国と開発途上国の食糧消費の格差問題が包含されるように思います。

るいネットより引用)
・世界人口と一人当たりのGDP
(農林水産省「2018年における世界の食料需給見通し」より引用)

・穀物の需要、生産量と期末在庫率
(農林水産省「海外食糧需給レポート2011年1月」より引用)

 上記の表から、世界人口は増加の一途をたどっていますが、その主要因は途上国における人口増加であることがわかります。(先進国はほとんど横ばい、とりわけ日本においては減少傾向にあるといわれています。)
 増加する人口に対して、食糧生産力は追いつけるのか?という点については、「穀物の需要、生産量と期末在庫率」のグラフを見る限りでは、2019年には需要量に対して生産量が僅かに下回ると予測されていますが、世界全体で見た場合、需要量に対して生産量が追いつく形で増加しています。
 
・穀物消費量と肉類消費量
(農林水産省「2018年における世界の食料需給見通し」より引用)

 穀物消費量に占める飼料用等の消費量が、2006年以降大幅に増加しています。肉類消費量の増加に伴う家畜飼料の増加と、近年ではバイオ燃料用としての増加が主な要因と思われます。
 上記のような要因は、先進国か関係していることは容易に想像できます。
・穀物地域別生産、消費、貿易量
(農林水産省「2018年における世界の食料需給見通し」より引用)

 穀物の地域別生産量と消費量の関係と、穀物の輸出入量の関係をあわせてみると、主な先進国である北米や欧州が消費を上回る生産力を持ち、穀物輸出の主要な位置を占めているのに対して、途上国と呼ばれるアジア、中東、アフリカがその逆になっていることがよくわかります。
 この関係は、表題部分で載せた供給カロリーの世界地図ともおおむね一致します。
・穀物及び大豆の品目別消費量
(農林水産省「2018年における世界の食料需給見通し」より引用)

・米国とうもろこし生産、消費、貿易量
 (農林水産省「2018年における世界の食料需給見通し」より引用)

 上記のグラフは注目に値します。特に北米(米国)のとうもろこしは、生産量の大半が飼料用等(バイオ燃料用含む)に消費され、食用や輸出用にまわされる量は極僅かしかありません。
 これらのデータからは、世界全体で食糧生産量が確保されていたとしても、食糧として必要な地域にまわらない仕組みの存在がうかがい知れます。
 先進国と開発途上国の食糧消費格差問題の根本原因も、この仕組みの中にあるのではないでしょうか?
●日本における食糧危機問題

 次いで、そのような世界的状況の中で、自給率をどうするかetcといった日本国としての食糧危機問題が位置しているようです。

るいネットより引用)
・食糧自給率(生産高ベースとカロリーベース)
 (農林水産省「平成21年度食糧自給率をめぐる事情」より引用)

・農業就農人口の推移
 (農林水産省「平成21年度食糧自給率をめぐる事情」より引用)

・耕作放棄地面積の推移
 (農林水産省「平成21年度食糧自給率をめぐる事情」より引用)

 日本の食糧危機問題の中心は食糧の多くを輸入に頼っている姿であり、その原因は自給率の低さと言われています。
 その自給率の低さの要因は、上記のグラフからもわかるように、「作っても足りない」のではなく、「作らないから足りない」というところにあります。
 なぜ作ろうとしないのか?そこに日本が抱える食糧危機問題の根本原因があるのではないでしょうか?
●食糧危機問題の背後に市場あり
 食糧危機問題を世界と日本の二つの位相で見てきましたが、そのどちらにも共通するものがあります。

 これらはいずれも、市場と切っても切り離せない関係にあります。そもそも、世界人口の急激な爆発と格差問題が生じたのも、とりわけ近代以降、つまり市場拡大と軌を一にしています。そして、逆に先進国だけを見れば、日本を筆頭に人口は軒並み少子化傾向に転じています。市場拡大と食糧事情の格差はもちろん、もしかすると市場拡大と人口増加との間にも何らかの相関関係があるのかも知れません。

るいネットより引用)
・穀物等の国際価格の動向
 (農林水産省「海外食糧需給レポート2011年1月」より引用)

 世界における食糧危機問題で載せた「穀物の需要、生産量と期末在庫率」とあわせて見て下さい。
 天候の影響による不作等で、需要と供給のバランスが崩れるのは当然ですが、生産量と需要量の単純比較による差に比べて、穀物等の国際価格は著しく変動しています。
 そもそも適確な食糧供給の仕組みになっていない状況の中で、不作等の時には食糧輸出国側の供給制限が働くことが主要因だと思います。

 そうすると、食糧危機問題も国の借金など経済破局の問題と同じように、生存圧力を克服し市場縮小に入った先進国と、数十年遅れて追随しているその他の国、という構図が見えてきます。そのため、この議論も、やはり先進国とりわけ日本が将来の可能性あるモデルを示せるかどうか、そして、後続かつ巨大な勢力となる他国との間で軟着陸が可能かどうか、という2つの視点が必要ではないかと思います。

るいネットより引用)
 先進国の市場縮小が進んで行けば、利益確保のために意図的に供給制限を行って、食糧価格を吊り上げるということも、今後充分に考えられます。
 そんな状況を前に、食糧を輸入に頼る日本は、今のままで生き残ることができるのでしょうか?
 食糧危機問題も、市場システムに組み込まれてしまっているということを、今ここで強く認識する必要があります。
 その上で、食糧危機問題に対する将来の可能性を模索することが必要でしょう。 
  
 本シリーズでは、この世界と日本、それらの背後にある市場システムから、食糧危機問題を斬っていこうと思います。

List    投稿者 minezo | 2011-02-09 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?2 Comments » 

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コメント2件

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