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国家債務危機 〜ジャック・アタリから21世紀を読み取る6

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【これまでのエントリー記事】
国家債務危機〜ジャック・アタリから21世紀を読み取る [1]
国家債務危機〜ジャック・アタリから21世紀を読み取る2

国家債務危機〜ジャック・アタリから21世紀を読み取る3

国家債務危機〜ジャック・アタリから21世紀を読み取る4

国家債務危機〜ジャック・アタリから21世紀を読み取る5

 
前回エントリーより、
先進国では、戦争が大きな収入源にならなくなったため、国はさらに市場拡大を推進して、経済成長によってインンフレを起こし通貨価値を下げ(実質借金減)、税収を増やして返済するしかなくなりました。そして、その煽りを受けた発展途上国は市場における価格差により経済破綻に向かいました。先進国はワシントン・コンセンサス(市場原理主義)に基づいた政策を実行することで、発展途上国を救済し、同時にそれらの国々を市場社会に取り込んで行ったのでした。
 
 さて今回は、リーマンショック以降の金融危機で、そのワシントン・コンセンサスが必ずしも成立しなくなってきた、すなわち、金貸しの思い通りには行かなくなってきたのではないかというお話です。
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●発展途上国から借金する先進国
ジャック・アタリ氏は以下のように述べ、途上国から借金する先進国について言及しています。

2008年から2009年にかけて、世界の指導者たちは、世界金融危機に対処するするために、G7、G20、更にはG27と会合を重ねた。
彼らは、金融機関の幹部の巨額なボーナスやタックスヘイブン(租税回避地)を遠慮がちに非難した。だが、巨額なボーナスやタックスヘイブンは問題の一つではあるが、今回の金融危機の本質ではない。
今回の金融危機の処理に注ぎ込んだ莫大な公的債務については、一言も語られなかった。現実には、今回の金融危機により、世界は変化したのである。予見できなかった危機を自国の貯蓄によって賄うことができなかった西側諸国は、途上国から借金せざるを得なくなった。G7はG20になったのではなく、現実には、中国とアメリカという「G2」になったのである。

 先進国が発展途上国から借金をしているという点が記されていますが、「先進国=お金持ち、発展途上国=借金まみれ」と認識していた私には驚きです。なぜ先進国は発展途上国から借金をすることができるのでしょうか?
 先進国及び発展途上国の経済関係を社会状況と照らし合わせ構造化してみると、次のような仮説が成り立つと考えられます。
 
<仮説>
 18世紀に産業革命を成し遂げ、急速に経済力を高めた先進国は市場の支配を目論見む。そしてその圧倒的な経済力をもって発展途上国を支配し、発展途上国から安い原材料を買い取り、高価な商品を買わせ、さらにその支配体制を固めていく。
しかし、市場の拡大にともなって物的豊かさがある程度実現されると、人々がモノをあまり買わなくなり、ダブついた資金が金融市場へと流れていった。これによって日本では市場のバブル化が生じ、バブル崩壊によって未曾有の大不況へと突入していった。
一方で、(金貸しが)さらなる市場拡大を進めた結果、中国やロシア、インドなどの大国の経済成長が進み、資源(ex.石油、天然ガス)やレアメタルの需要が高まる。その結果たくさんの資源を持つ発展途上国が豊かになった。こうして、リーマンショック以降の金融危機で膨大な借金を返せなくなった先進国は、資源で豊かになった発展途上国から借金をすることになった。(→米国債の引き受け先 [2]
 
 (図解)
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●ワシントン・コンセンサスから、北京コンセンサスへ
 そして、ジャック・アタリ氏はこの先進国と途上国の立場の逆転が以下のような変化をもたらしたと述べています。

①西側諸国が支配するG7やIMF、世界銀行などは、いわゆる「ワシントンコンセンサス」という彼らの条件を、途上国に押し付けることができなくなった。
②新興国の国際収支統計は、黒字となった。
③また、赤字の場合でも、一次産品や耕作地の利用を確保したい中国から、無条件で資金を借り入れることができるようになった。
④世界銀行の厳しい融資条件は多少緩和されたが、世界銀行は、中国の銀行の融資を間接的に補完する役割だけを担うようになった。

 ワシントン・コンセンサスとは、金融と経済のすべてを市場に委ねる市場原理主義を指しています。ジャック・アタリ氏は、先進国の支配力は弱まっており、中国のような国家が調整役となり、つまり「民主化」「自由化」をある程度制限して慎重に市場改革を進めていく手法(=北京コンセンサス)が主導権を握っていると提唱しています。
 ワシントン・コンセンサスから北京コンセンサスへの移行によって、国は金貸しを利用できるときは利用するが、金貸しの自由にはならないという状況ができつつあるようです。
 
 6回に渡ってお送りしてきました『国家債務危機 〜ジャック・アタリから21世紀を読み取る』は今回をもって終了です。ご拝読ありがとうございました。

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