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エネルギー市場はどうなっている?(13)〜エネルギー消費ダウンサイジングの可能性②〜

前回 [1]は、日本のエネルギー消費の状況をざっと追ってみました。
ここ数十年で、日本人はエネルギー使用の効率をあげながら、消費量もどんどん増やしていっています。しかし、経済リセットが起こる可能性を目の前にしながら、このままのエネルギー使用を維持するのは、到底現実的ではありません
では、どうする?
今回の記事では、現在のエネルギー実情の背景に注目し、エネルギー消費を縮小するためのアイデア、その可能性を探ってみます。
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エネルギー消費ダウンサイジング
現代、人々の生活はとても豊かになりましたが、その一方で、共同体的営みをもつ農村から人はどんどん流出、そして都市では核家族化が進行。共認充足は乏しくなっていきます。そして、その代償の充足として、娯楽・余暇産業に時間とお金を費やし、快適便利な生活の飽くなき追求はとまらぬまま、どんどんと消費を重ねていきます。よって市場は拡大。その中で、エネルギー消費も肥大していきました。
しかし、現在、人々はこのような方向からは徐々に転換しつつあります。消費して私欲を満たそうとするのではなく、もっと本源的な、周りの人々とのつながりの中で、充足感を得る方向に向かっています。
例えば今年、3月11日の地震、津波、原発事故を経て、電力不足がマスコミによって大騒ぎされた中で、日本人は、非常に協力的な姿勢を見せました。

東京電力は9月26日、今夏の電力需給状況の結果を公表した。最大需要は8月18日に記録した4922万キロワットで、昨年夏の最大需要5999万キロワットに対して約18パーセントの減少となった。(エコロジーオンライン [3]

20%も節約しながら、不満の声はあがることもほとんどなく、みなが非常に協力的でした。こういう姿勢は、若い世代でも顕著で、このような意識は今後ますます高まっていくと思われます。“みんなでやる”という課題共認さえできるなら、日本人にとって消費の削減は難しいことではなく、エネルギーを減らさなければいけない状況になればなったで、受け入れ、柔軟に対応していけるのでしょう。
人々の意識は今、どのような可能性に向かっているのか
☆若い世代のTVばなれ

フジテレビ系列の産経新聞は、紙面でこう嘆いた。

「ついにその日がきた、という感じだ。「(視聴率)12%台」でもトップ30入りしてしまった。前代未聞の事態だ。(中略)ことここに至っては、よほどフンドシを締めてかからないと「回復」どころか「歯止め」すらおぼつかなくなるのではないか、と危惧する」(10月4日付 [4]

☆娯楽ばなれ
パチンコ・パチスロ店舗数は97年以降連続して減少 [5]
☆シェア意識の高まり
部屋も傘も駐車場も…「シェア」が新たなビジネスチャンスに [6]
☆「もったいない」の意識の向上
「食べ残しては「もったいない」意識する子増える [7]
☆農業への関心の高まり
農業ブーム [8](2009)/“週末ファーマー”200万人の可能性 [9](2010)/女子で始める農業改革【山形ガールズ農場】 [10](2011)
☆飽食から小食へ
食べなければ死なない① [11] [12]「我々文明人がいかに食べ過ぎているか」「断食や小食にすれば、いかに健康が増進できるか」
上記に見られるような人々の意識は、これからますます高まっていくと思われます。大量生産で大量消費、たくさんの“モノ”を手に入れ満足するような時代からは、どんどん離れていっています。エネルギー消費を減らすためには、GDPをさげる「覚悟」が必要ですが、人々の潜在的な意識はむしろそこに同調しているのであり、エネルギー消費を減らしていくことは、自然な流れとも言えます
この人々の意識を受けて、具体的にどんな方針が採れるのか

☆娯楽産業の縮小
娯楽産業、例えば、TV業界、それに伴うCM産業は縮小させることができます。現在は、視聴無料のスポンサー制度をとっていますが、視聴を課金制にすれば、本当に必要な番組やメディアだけを淘汰させることができます。また、そうなればCMがなくなるので、むやみやたらな購買意欲の煽りもなくなり、消費自体は沈下、産業全体のエネルギーのダウンサイジングにもつながります。
数値として、どういった成果が出るのか、パチンコ店が全面閉鎖した場合をシミュレーションしてみましょう。パチンコ店の1店舗あたりの年間エネルギー使用量は223.4kl(原油換算)。2010年で12479店舗であったので、全パチンコ店のエネルギー消費は(J)に換算すると、10.78×10の10乗(MJ)、もしもパチンコ店を全面閉鎖したら、業務部門の総エネルギー(292×10の10乗)のうち3.7%をカットすることができます。
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☆共同体化 共同生活の推進
共同生活による生活空間の共有は、民生部門エネルギー消費増大の主要因の一つであった“世帯数”を、減少に転じることができます。(モノの共有だけでもエネルギーの削減になります。エネルギー消費に大きく加担している乗用車などは共同使用が進められそうです。)
世帯数の減少を具体的に考えてみると、例えば、現在の世帯平均人数は約2.5人ですが、これを0.5人プラスの3人に引き上げられたとき、世帯数は5/6まで減少します。これはイコール、家庭部門のエネルギー1/6の縮小につながります。
[14]
☆モノの長期使用・耐用年数の引き伸ばし、法定耐用年数の引き上げ
現代は、購買者を減らしたくないというメーカー側の意向で、製品の耐用年数は最大になっていません。おそらくその耐用年数を1.5倍〜2倍に伸ばすことは、技術的に十分可能だと思われます。それとセットで、法定耐用年数を見直す [15]ことも重要です。副次的に、製品の流通のための貨物交通量も減少させることができます。
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☆農業振興 農業への人口移転
農への人口移転によって、オフィス人口を減らすことができ、業務部門のエネルギー増大の原因となっていた「オフィスの床面積」自体をマイナスさせることが可能です。それだけでなく、より本源的な営みで、現代特に重要性の高まっている農業への人口移転は、社会からの期待も非常に大きい。また、例えば産業縮小による労働力の余剰は、この農業分野(もしくは新エネルギーの分野)で吸収することもできてしまいます。
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以上のように、民生、産業、運輸、あらゆる分野で少しずつエネルギー消費をカットしていくアイデアは浮かんできますが、目標ラインはシリーズ第12回 [18]で結論づけた
>50年自給するためには、今のエネルギー消費量の42%、30年自給だと71%
実際に、エネルギーの部門別に、どれくらいエネルギー消費量を減らせそうか、ざっくり考えてみましょう。

1.産業部門(現在全体の42%)
例えば耐用年数を2倍に延ばすことにより、製造量が減り、エネルギーは5割に縮小。ただし、そのための品質向上にかかるエネルギーは、20%増。よって、50%に縮小されたエネルギー量の1.2倍で、現在から60%のエネルギーまで縮小します。
2.民生部門(現在全体の34%)
 a.業務部門(民生のうちの60%=全体の20%)
娯楽産業の縮小などによりあぶれてしまう労働人口は、農業へ1/3移行すると、オフィス面積が必然的に2/3に縮小。かつ、先ほど紹介した今夏の節電具合を考慮すると、オフィス面積あたりにかかるエネルギーも60%くらいに抑えられそうです。よって、現在の業務部門エネルギーから40%に縮小します。
  b.家庭部門(現在「民生』のうちの40%=全体の14%)
世帯平均人数を現在の2.5人から3人に引き上げると、世帯数が減少するので、それだけでも家庭部門は現在の5/6(83%)まで縮小させることが可能です。業務部門と同様、節電等で60%に抑えます。合わせて現在の家庭部門エネルギーの50%となります。
3.運輸部門(現在全体の24%)
  a.旅客部門(運輸のうちの60%=全体の14%)
エネルギー消費量の大半を占める乗用車の使用ですが、カーシェアを推奨し(例えば、1台の共同購入は半額とするetc.)、自動車税や高速道路料金を引き上げ、それによって交通量も1/2くらいに抑えます。
  b.貨物部門(現在「運輸』のうちの40%=全体の10%)
産業部門での製造量1/2縮小に伴い、貨物輸送の交通量も単純に1/2となる。
よって、運輸部門では、現在の50%に抑えることが可能です。

1〜3までの総合で見ると、産業部門が42%×60%=25%、業務部門が34%×40%=8%、家庭部門は14%×50%=7%、運輸部門が24%×50%=12%、よって全体の消費エネルギーは現在の52%くらいまで抑えることができそうですね。
エネルギー消費量40%には手が届きそうではないですが、52%まで抑えられるのであれば、40年自給することは可能になってきます。
エネルギー消費の縮小は苦役ではなく充足につながる
エネルギー消費縮小を実現する上で重要な視点は、「エネルギー消費を減らすことは、苦役ではなく充足」ということです。
エネルギー消費の縮小はわたしたちをより本源的な方向に後押ししてくれます。TVなどの余暇に費やしていた分は、より人に向かえるようになり、モノの共有や共同生活の推進も、核家族化などの中で貧弱になりつつある人と人とのつながりを取り戻す方向に働きます。私欲を満たすことで満足感を埋めてきた現代人にとって、本来の充足を得る方向に転換する大きなチャンス、それゆえに、エネルギー消費のダウンサイジングには、可能性があり、大きな期待が持てるのです。


つづく次回は、縮小したとしても、それでも必要になるエネルギー、どうやって確保するのかを検討します。
前回検討した自給以外に残っているのは、エネルギーの「輸入」(他国との関係構築)の道。次回の記事では、そこにどんな壁や可能性があるのか、探ってみたいと思います。

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