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2012年、新興国はどう動く?(7)〜覇権か?破局か?分水嶺に立つ中国〜

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(習国家副主席の訪米)
先日、次期国家主席の習近平氏が本格的な外交デビューとして訪米し、米国の異例の首脳級待遇で迎えたことがネットやマスコミを通じて報道されました。
中国は、BRICSの中でもこの10年経済成長率10%を維持しており、且つ全世界の人口の2割を占める中国の動きは世界に対して大きな影響を及ぼします。
今年は中国の国家主席交代とる年でその動向に世界が注目しています。今回は中国の政権交代から中国の戦略を明らかにしたいと思います。
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●今後10年を決める重要な年
現在の国家主席である胡錦濤氏は、2002年の就任以来2期10年を勤めており、次期国家主席も、今後10年を決める上で重要な年となります。
これまでの慣例によれば、習氏は中共第18回大会で共産党総書記に、2013年の第12期全国人民代表大会第1回会議で国家主席に就任し、中共18期中に軍事委員会主席となり軍権を手にすると見られています。
中国は一党独裁体制のため、中国共産党内部の序列により国家体制での役職も決まります。中国共産党内でのトップである総書記の座に着くと、国会にあたる全人代で国家主席に選出されることになります。(詳しい国家体制については、過去記事『連載!『中国は誰が動かしているのか?』3.中国ってどんな国2』 [2]を参照してください)
[3]
(中国の国家体制図)
次期国家主席と言われるの現在国家副主席である習氏です。農村暮らしの経験があり、自家用車よりバスでの移動を好むという庶民派としてマスコミで報じられています。さらに過去に担当した地方の行政や党務でも主に経済分野で着実に実績を上げてきた人物です。
なぜ習氏が選ばれたのか?
最近の動きから中国の思惑を読み解いていきます。
●覇権を狙う中国
 
■IMF出資拡大を目論む中国

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(ユーロ支援を発表する温首相)
 
温首相は共同記者会見で「欧州債務危機の解決が極めて重要だ」と強調。欧州連合(EU)が危機克服に向け設立した欧州金融安定化基金(EFSF)やその後継組織、欧州安定機構(ESM)に「中国が関与を強める方法」を検討していることを明らかにした。
 中国はこれまで、国際通貨基金(IMF)への出資拡大を通じた欧州支援に前向きな姿勢を示してきたが、EFSFへの直接支援を示唆するのは異例。ただ、債務削減や構造改革など「欧州の自助努力がカギを握る」とくぎを刺した。(時事通信 [5]

IMFは主に先進国の財政再建などを行っており、管理下におかれる国に対して大きな影響力を持っています。中国はIMFの出資比率の拡大で先進国への影響力拡大を画策しています。
 
 
■経済支援を武器に欧米諸国に対して攻めの姿勢

①中国、世銀総裁は「競争で選出を」 米の独占けん制
世銀総裁は米大統領が指名した人物を世銀理事会が承認するのが慣例だが、米国によるポスト独占をけん制した形。昨年の国際通貨基金(IMF)の専務理事選でも中国は選出過程に同様の要求をした経緯がある。
 中国は国際機関での発言力向上を目指しており、世銀では北京大教授だった林毅夫氏が2008年、上級副総裁に就任している。日経新聞 [6]
中国、米国債の購入続ける見通し [7]
中国3ヵ月連続で米国債売り越し [8]
中国人民銀行総裁、ユーロ支援継続を表明
周総裁は、「温家宝(Wen Jiabao)首相も昨日、中国・欧州連合(EU)首脳会談で述べた通り、中国はユーロ圏の国債への投資を継続し、債務危機解決に向けた取り組みに、より一層関与する用意がある」と述べた。(AFP [9]

  
  
中国は、IMFの最大出資であるアメリカに対して、米国債保有量を武器に駆け引きしている様子が伺えます。
   
衰退する欧米への支援と引替えに、世界経済システムに対する影響力を拡大したい中国の意図が表れています。
IMFや世界銀行など世界システムを支配しているアメリカに対して、ここまで口出しできるのも、中国が存在が無視できないほど大きくなってきたこと意味しています。
  
  
■積極的にロシア諸国と関係構築へ

①ガスパイプライン建設でロシアへ接近
[10]
(ロシアと中国を繋ぐガスパイプラインルート)
  
  
中国へは年間680億立米、1兆ドルに上る天然ガス供給を始める計画を発表。(当ブログ [11]
イランへの経済制裁の広がる中、原油買い増しで欧米をけん制
温首相はまた、核兵器開発疑惑が深まるイラン問題について「対話を支持する」と、制裁強化に慎重な考えを強調。「中東のいかなる国の核兵器開発も支持しない」と、イスラエルの核兵器保有疑惑に批判の矛先を向けた。(時事通信 [5]
中国:イラン産原油を最近買い増し、日量20万バレル−IEA [12]

ロシアからのガスパイプラインの構築や、戦争屋主導のイラン制裁への不参加を表明し、ユーロ支援、米国債買支えで欧米ベッタリではない姿勢を見せています。
  
  
同じ新興国ロシアは資源政策を成功させ頭角を現してきており、その影響力を拡大しつつあり。ライバルでもあり、今後の世界を動かしていくパートナーでもあるロシアに対し、中国はバランスを取りながらも、関係構築を着実に進めています。
  
  
■アフリカの資源開発

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(中国のアフリカ直接投資額)
  
  
世界有数の銅産出国であるザンビア。資源獲得を狙う中国企業が大挙進出を続けている。中国の投資は2007年以後の累計で61億ドル(約4670億円)に達した。ザンビアのGDP(2010年)、3分の1に相当する規模となる。中国の投資に牽引され、銅採掘業は大きく成長。2010年、ザンビアは7.6%という高成長を達成した。(当ブログ [14]

中国は世界における主導権獲得を目指して着々準備を進めている様子が伺えます。
  
   


  
●一方で、破局と背中合わせの中国
特に外交に対しては攻めの姿勢を見せている中国だが、同時にリスクも抱えています。
■米国債100兆円どうする?
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(米国債保有額)
 
世界経済は年々崩壊の危機が増大しており、その鍵を握るのが中国です。中国は米国債を約100兆円も保有しているため、米国債が暴落すれば100兆円もの資産が吹き飛んでしまうリスクを抱えています。
 
中国にとっては出来るだけ早く手放したい米国債ですが、外交カードとして使える間は最大限利用しています。しかし、そのさじ加減ひとつでドル暴落の引き金を自ら引き、自爆しかねないリスクを抱えており、被害を最小限に抑えた軟着陸路線を探っていくのが今後の外交上の課題です。
   
■拡大する格差と国内秩序維持
国内では、’78年以降の改革開放政策以降、経済発展を目指してきたが、農村と都市部の所得格差は年々開く一方で、是正に動いた胡温体制の下でも格差は拡大の一途をたどっています。
 
この結果生まれた所得格差が国民の不満を増大させ、暴動はより大規模化しており、秩序を保つために大きな課題となっています。
[16]
(中国の都市部と農村部での所得格差)
  
  
■バブル化した元の崩壊の危機
この急速な経済発展に伴う元の市場への過剰投入の結果、元はバブル崩壊の危機に瀕しており、元を軟着陸させられるかも今後の中国にとって大きな課題です。
  
  
■拡大を続ける軍の暴走対策
軍事力は米国についで2位、兵力も年々拡大し総兵力224万人、予備役約50万人、他に人民武装警察66万人(2007年)と言われており、軍部の力も拡大しています。その結果、「10年以内に日本を核攻撃する」と公言する軍の少将がマスコミで取上げられるなど、軍部の暴走抑止が課題となっている。
 
    


 
●なぜ、習近平なのか?
 
このような状況で中国のトップに選ばれたのが習氏。

父親の習仲勲(シー・チュンシュン)元副首相は文化大革命期に批判されて失脚。息子の習も15歳で陝西省の人民公社に「下放」され、肉体労働に従事した。だが、ここでの働きぶりが農民たちから高く評価され、習は村の党責任者に就任。さらに地元の推薦を受けて大学に進学した。(NEWSWEEK [17]

 
 
大学卒業後、習氏は河北省を皮切りに、福建省や浙江省、そして上海市など地方の党幹部として、実績を積み重ね、特に経済運営を成功させてきた人物です。そのため、バブル化した元の処理や、米国債100兆円の処理などに経済問題を処理するのに適した人材だといえるでしょう。
 
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(習近平氏の経歴)

また、これまで省の幹部と軍関係の役職を兼任しており、今でも軍の中に相当な人脈と影響力を持っています。さらに、彼の妻である彭麗媛(ポン・リーユアン)は人民解放軍の少将で、且つ軍隊の専属歌手のため、今後も拡大を続ける軍部に対する抑止力を十分に持っています。
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(彭麗媛(ポン・リーユアン))
  
  
政権を維持するためには共産党内の支持基盤も重要な条件となります。習氏は共産党内二世議員の派閥である太子党(上海閥)に所属しており、党内からの支援基盤も整っています。
 
 
中国国内の庶民に対しては、農村徐々に中国共産党の幹部へと伸し上がってきた彼の経歴は、一般庶民からの支持を獲得しています。
 
 
つまり、習氏がトップに選ばれたのは、国内火種を消しつつ国外に打って出る人物として最適だったからと言えそうです。
 
 
世界覇権を獲得に向けて動き出した中国。
このままの勢いで拡大を続けていければ、世界の覇権を握る可能性もありますが、一歩バランスを崩せば自滅の道を転落しかねない非常に難しい局面に立たされています。ここで新しいトップとして選ばれたのが習近平氏というわけです。
 
 
このパワーバランスを生かして覇権を取るのか、破局の引き金を引くのか?
中国第二弾では、今後の具体的政策について詳しく見ていきます。

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